剣と魔法の世界よ、振り返らず、進め。

今作は前作に比べ、全体的に落ち着いた文章運びのように感じました。
一つ一つ、しつこ過ぎることのない描写ですが、流れが自然で美しく、この世界の情景、草いきれや土埃が漂う様も脳裏に浮かぶような箇所もあります。とは言え、もう少し肉付けされていてもよいのかもしれない、しかし、この文章の滑らかさを殺すのはどうなのか、そんな葛藤が私の中に前作からあり、この感想もかなり悩んで書いています。
どのキャラクターも相変わらず魅力的で、それぞれの個性がより鮮明に浮かび上がってきた今作ですが、何よりも、前作で活躍した一生懸命な「彼女」を追いかけたい私がいます。
その気持ちと矛盾するようにも思いますが、作品の世界観を全て無に帰すような逆転劇がないのは流石だと感嘆しました。読了後、思わず唸り、それから、静かに涙が零れました。たおやかな彼女が愛したこの世界を、私も愛おしく思うのです。この世界の時間はとめどなく進み、穏やかに、切なく、変わって行くのでしょう。
堅苦しくなく、だからといって、軽すぎず。いつもより丁寧に入れた紅茶を日だまりの中で飲むような、温かく、柔らかい時間が欲しい方に是非、読んで欲しい作品です。

その他のおすすめレビュー

@sueninさんの他のおすすめレビュー3