10話.[喜ぶだろうからと]
「はぁ、高子のせいで昨日は酷い目に遭った」
「なんであたしのせいなんだよ」
寧ろどっちの味方もしないことであたしほど中立の立場でいられた人間はいないだろ、感謝をしてほしいぐらいだけどなと内は複雑な気持ちに。
「ほら」
「わっ!? ひ、引っ張らないでよっ」
「今日は1日中、お前を優先してやるから」
つか、いい加減キスぐらいしないとな。
あたし達は恋人同士なんだから遠慮はいらない。
ただまあ、健太にそれを求めるのは酷かと考える自分もいる。
しゃあない、……実は健太の方からしてほしいだなんて考える乙女な自分もいたが自分からしてしまうことにした。
「な、なな、なあ!?」
「キスぐらいで大袈裟だ、あたしなんかもう何回もしているぞ」
もちろん、父と母から……というだけではあるが。
不特定多数の人間とするような軽い女じゃないのでね、ボスとはしっかりしている人間でなければ務まらないのだ。
「健太? ん!?」
……ああ、余計なことを言ってしまったのかもしれないと少しだけ後悔した、これは間違いなくそれを上書きしようとしてきているだけだから。
「っはぁ、……何度していても関係ないよ、いまは僕だけが高子にキスできるんだから」
「……言っておくけど両親からだからな?」
「はあ!? え、じゃあ、僕は……」
「ふっ、可愛い奴め」
「ごめんっ!」
やべえ、愛おしくなってきた。
いまならはっきりと言えるかもしれない。
「あんなことを言っておきながらあれだけどさ、優梨菜や美吹に健太が取られなくて良かったよ」
「うぇっ、な、なんでまた急に」
「……やっぱり健太が側にいてくれないと嫌なんだよ」
それでも優位なのはあたしであってほしい。
こっちが可愛いとか言われて押されるのは違うから。
「僕だって嫌だよ、高子の側にいられないのは」
「おう、ありがとう」
「こっちこそありがとう」
滅茶苦茶恥ずかしかったから健太を抱きしめて黙らせた。
まあこれすらも喜ぶだろうからと自惚れている自分がいた。
06作品目 Nora @rianora_
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