09話.[か、かか、か彼氏]

「高子、この前の約束は守ってもらうわよ」


 この前の約束? と必死に思い出そうとしていたら手の甲をつねられて思い出せた、遊びに行く約束をしていたかと。


「健太くんが来ない内に行きましょう」

「みんなで行くんじゃなかったのか?」

「やっぱりあなたを独占したくなったの」


 彼女はこちらの手を握りつつ「いいじゃない、どうせ夜は健太くんが独占しているのでしょう?」とか訳の分からないことを言ってきた。

 断じてそういうのはない、大体、健太にそんなことができるわけがないだろとしか言えない。


「おはよ~」

「ちっ、来てしまったわ」


 誰だよこいつ……いや美吹だけどよ。

 健太が相手でも喧嘩腰で、健太も困っている様子だった。


「……なんで高子のところにすぐ来るのよ」

「なんでと言われても、僕は高子のか、かか、か彼氏なんだし」

「ふーん、それなら私は高子の彼女だけれど?」


 か、か彼氏ってなんだよ、それに美吹はいつ彼女になったんだよとツッコミたいことが増えていく。

 が、巻き込まれても嫌だから黙っていよう。

 それからも言い合いをやめないふたり。

 あたしは集合場所でただ黙ってそれを見たり、周りを見たりとして時間をつぶしているだけ。

 なんのために集まっているんだろうか? まあ優梨菜と清水が来ないと話にならないから仕方がないことではあるんだが。


「ごめーん、遅れちゃった」

「いや、いいところに来てくれたな」

「高子ちゃんっ」

「うわっ、な、なんだよ……」


 一緒にやって来ていた清水が微妙そうな顔をしているからっ。

 仲良くしてくれるのはありがたいがもう少しぐらいは考えてやってほしい、なんなら言い合いをしていた美吹と健太のふたりにも睨まれてしまったぐらいだからな、はぁ……。


「大桐、おはよう」

「おう、少し遅かったがどうしたんだ?」

「ちょっと寝坊しちまってな、すまん」

「いいよ、よし、揃ったことだし行くか」


 集合場所でずっと留まっていても意味はないからさっさとな。

 大丈夫、先程と違って三人はもう楽しそうだったから。

 あたしは後ろを付いていくだけでも十分だった。

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