08話.[だからありがとう]

 なんかむかついたから家に連れ帰った。

 あのまま調子に乗らせておくわけにはいかないと判断して。

 そうしたら飯を作って、奴に食べさせて。

 それが終えたらさっさと風呂に突っ込んで入らせる。

 ある程度は冷静になってくれないと返事もしづらい。

 あたしはその間に美吹に連絡。


「そう、ついに関係が変わるのね」

「まあ、そうなんじゃねえかな」

「おめでとう、いつまでも仲良くね」

「ありがとう」


 違うか、冷静でなかったのはこちらの方だ。

 それでもこれを口にすることで分かった。


「で、出たよ……」

「ああ」


 今日家事ができたかったのは奴のせい。

 怒られることはなかったものの、関係が変わろうがまた1日ずつ両親のためにやっていこうと決める。


「ふぅ……」


 あたしも美吹みたいな大人の女になりてえ。

 なかなかできるわけではないが、いつだって挑戦はしていきたい、多少の努力は自分でもできるだろう。

 とにかくささっと風呂に入って部屋に戻る。


「なんでそんな端に座ってんだ、こっちに来い」

「うん……」


 先程の男らしさはなんだったのか。

 それか単純になにも考えないで口にしたのか?

 もしそうならそうでむかつく、だからこれは仕方がないことなんだ。


「ちょ、た、高子っ!?」

「あたしはもう美吹に言ったんだよ、いまさらうじうじしてんじゃねえ」


 だったら抱きしめるでもなんでもしてやるよ。

 だって両思――い、いや、あたしの方はやっぱりまだあんまり実感湧かねえけどさ、受け入れるって決めたんだから。

 美吹にこのタイミングで言ったのは色々とはっきりさせるためだ、なのにいまさらなしになんかできねえんだよ。


「受け入れる」

「え、い、いいの?」

「あたしはこんなことそうでもなければしないが」

「あ、ありがとう!」


 そうしたら話は終わりだ、奴を床に寝っ転がしてこちらだけはベッドに寝転んだ。


「あ、敷布団は自分で出せよ」

「えぇ……さっきまでのいい雰囲気は……」

「ない、関係が変わったってあたし達ができることはひとつ、ただ毎日一緒にいて話したりするだけだからな」


 関係が変わったからって無理やり変えようとしなくてもいい。

 そんなのあたしらしくないしな、単純にあたしが恥ずかしいだけとも言えてしまうのが難点ではあるが。


「いいから子どもは早く寝ろ」

「はあ!? もう許さないぞっ――ぐぅぇ……」

「はい終わり、健太を押さえるのなんて楽勝だな」


 寝ているときに襲われても嫌だからこのまま押さえたまま寝ようと決めた、そうすれば密着しているようなものだから健太も喜ぶことだろうしな。




「好きだっ」


 何故かは分からないが清水が告白しているところを見せられていた。あたしの横には健太、後ろからは美吹が抱きしめてきているままで。


「付き合ってくださいっ」

「は、はい……」


 おぉ、優梨菜のやつも受け入れることを決めたよう。

 滅茶苦茶喜んだ清水がそのまま優梨菜を抱きしめて、優梨菜もまたおっかなびっくりといった感じではあったが抱きしめ返していた。


「お前らもありがとな!」

「私達がいる意味はなかったわね」

「確かにね、もうふたりは両思いって感じだったし」

「ま、これを見せつけたかったんだろ」


 その後は祝うためにファミレスに向かった。

 仮にこれで失敗していてもファミレスに行くのは決まっていたことだから変わらないがな。


「って、なんだこの席順……」


 あたしの右横に美吹なのはいいとして、左横に優梨菜って。


「やっぱりこういうときは男女で別れるべきだよっ」

「いやいや、同じテーブルでいいじゃねえか……」

「違うの、最近はあんまり高子ちゃんと話せなかったからゆっくり話がしたくて、だめ?」

「別に駄目じゃねえけどさ……」


 横の人達が寂しそうなんだよ。

 テーブルを挟んでふたりとも俯いちゃっているよ。


「こうなれたのは高子ちゃんのおかげだから」

「またそれを言っているのか」

「だってあのとき喧嘩したままだったら多分ずっとそのままだったから」


 確かに謝るタイミングを見誤るとそのままずっととなりかねない、あたし達だってそういうことがあったぐらいだし。

 健太が来てくれたことによっていまこうなっているだけで、下手をしたらそのまま関係消滅になっていた可能性は0ではなかったから。


「だからありがとう」

「そうか、それならどういたしましてだ」


 さて、手の甲をつねってきている少女の相手もしないと。


「どうした?」

「私のことを忘れるのはやめなさい」

「忘れない、というか忘れられないだろ」


 そこまで直接的にいますよアピールされて気づかないとか無理だ。それに健太と関係が変わってからもちゃんと相手をしているぞ、寧ろ恋人のはずである健太よりも優先しているぐらいだぞ。


「相手をしているんだから満足してほしいがな」

「駄目、これでは全然足りないわ」

「それならふたりで遊びに行ったらどうかな?」

「そうしたら健太が面倒くさくなるからな、行くならみんなで行こう」

「そうね」「そうだね!」


 さて、あっちの相手もしてやらないとな。


「清水、おめでとう」

「ありがとなっ、大桐――高子のおかげ――」

「「それは駄目!」」

「だ、大桐のおかげだ」


 あとは追い出して美吹だけこちらに連れてきた。


「健太、今度みんなで遊びに行こうぜ」

「うん、だって美吹さんが凄く行きたそうな顔をしているしね」

「ああ、寂しがり屋のお姫様だからな」


 約束があるから絶対に仲間外れにはできない。

 でも、こういうときに文句を言わないでいてくれるからこそ、


「健太が相手で良かったぜ」

「え、な、なに急にもう……」


 こういう本来なら恥ずかしいことでも言えてしまうんだ。

 美吹から猛烈にアピールをされつつも、こっちも珍しくアピールみたいなことをしてみたのだった。

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