神想編
さて、こいつはいわゆるボーナストラック。
語られるはずのない真相だ。一応、私は探偵役なのだから偽の解決を提示するだけではつまらないだろうと思い、こっそりと書き足しておこう。鈴木君のような表の世界の住人にはわからない、本当にあった真実だ。
ただし、これだけは覚えていてほしい。これから披露する解決はミステリーの類では決してないファンタジーだ。もしも非現実的な解決に耐えられなかった時は、無理して受け入れる必要などない。君にとっては「被害者の自殺と警察の濡れ衣」という現実的な答えを先に示しておいた。ここからの話は探偵役の私が調子に乗って嘘八百を語っているのだと、そう解釈する自由が君たちにはある。それをゆめゆめ忘れるなかれ。
佐久間という男は一種の狂信者だった。神に仕え、神を思おうとするあまり、生贄という手段に出た愚かな男だ。彼の信奉する神の御名は「××××××」。 なに? 聞き取れないって? まあ神の名は人の理解を軽く超えるような音で構成されているからね。それでも無理やり書き出すならHziulquoigmnzhahという音が一番近いと言われているね。はるか昔に存在した幻の大陸に伝わる魔道書にも記された偉大な存在なのだが、まあ知られていないという点においてカルト宗教とそう変わらないと思われても仕方がないだろう。
しかし、生贄ねえ。佐久間はどうやら神が生贄を欲していないという単純な事実を知らなかったらしい。偉大なるHziulquoigmnzhahは生贄をもらうということにもはや興味を示してはいない。奴の行為はただの自己満足に過ぎず、むしろ迷惑だ。
誰に迷惑なのかって? それは私たちのような敬虔な信徒さ。そう、私も底田刑事も裏の世界に足を踏み入れて、神の存在に気付いた。その上で、作法にならって神に祈りをささげる善良な信者なのさ。もちろん神の存在を世間は認めないだろう。それがどうしたというのか? 神はいる。その事実は私たちだけが知っていればそれでいい。派手なパフォーマンスで世間の目を引かれては困るんだ。神に祈りを捧げることで魔法のような力が得られるなんてことは公になってはいけない。
だから私たちは表向きの解決を偽装した。「佐久間が魔術を使って瞬間移動をした。だから時間のアリバイを無視できるし、鍵の密室も関係ありませんでした」なんて真相は秘されてしかるべきだ。
佐久間は結局、底田刑事の手によって消された。鈴木君が扉をくぐる佐久間を追った時、佐久間は扉を抜けると同時に遠くへと飛んでいた。そんなの彼の手に負えるわけがないよね。でも底田刑事は私と同じこっちの世界の住人だ。瞬間移動程度であの人を撒けるはずもない。今頃は骨も残ってないんじゃないかな?
しかし、今回の件で確信したよ。鈴木君、彼は使える人材だ。今はまだ早いが、ゆっくりと慣らしていっていつかはこちらの深淵へとひきずりこんでやろう。
いあいあ ふじるこい ぐむんず はあ
青原探偵社怪奇譚 青猫あずき @beencat
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