真相編


「実のところあの事件の真相は自殺。底田刑事が犯人は分かっているといったのはそういう意味だったのさ。しかし、佐久間は別件で殺人を犯した容疑がかかっていてね、そっちの犯人として立証しようとしたが証拠不十分で捕まえることができなかった。だから底田刑事は私にこんな茶番を頼んだのさ。警察組織がそれとわかって濡れ衣をかけた。こんな話しるべきじゃなかっただろう?」


そう語る土屋さんの目を見て僕は確信した。この人はまだなにかを隠している。


 僕の中には酷く曖昧ながら仮説がある。しかしそっちのほうの仮説こそ恐らく『世の中にある知ってはいけないこと』なのだろう。

 正直自分の馬鹿げた妄想だと思いたい仮説なのに、『知らないほうがいい』という彼女の言葉のせいで僕はもうその仮説が事実だという妄想に潰されそうだ。彼女の眼の深い黒を見つめるうちに自分が深い穴へと落ちていくような錯覚に陥る。


怪しげな神への供物……儀式殺人……魔術的な方法で?……常識では考えられないような殺人の手段……呪いのような?……『ぬいぐるみ』……ご神体?……あるいは偶像?……『神はそんな生贄を望んでいない』……『始末しなければ』……本当に佐久間は逮捕されたのか?それとも?…………。


「さあ、真相編もこれで終わりだ。紅茶でも入れてちょっと休憩を取るとしよう」


そういって土屋さんが給湯室に向かう。彼女が置いたぬいぐるみがこっちを黒い瞳で覗き込んでいるように思えた。

ここは『青薔薇』探偵社。青薔薇の花言葉は不可能だけじゃない、もうひとつ神の祝福という意味がある。この事務所はいったいどんな神の祝福を受けているんだろう。

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