第5話 十五年後
そして十五年が過ぎた。
桜木夫妻の間に、ついに子供は産まれなかった。だが二人のアルバムの中には何枚かの、二人によく似た子供の写真が挟まれている。父親と母親の顔写真を元にして、子供の顔をCGでシミュレートできる機械があると聞いて、最近街に出てつくってきたのだ。一年ごとに成長してゆく、運転免許証のような背景の中に佇む『タケミチ』の正面写真。
「この頃に結婚式場のパンフレットがぽつぽつ届いているんだ。タケミチが結婚したのはこのくらいの時期だったのかなあ」
「ねえお父さん、この少し前にね、この辺りの学校が同窓会に使ってるイベント会場のパンフレットが来てるのよ。ほら、これ。もしかしたらあの子、大学か高校のときの同級生とうまくいったのかもしれないね」
数年前のファイルをめくりながら、桜木夫妻は縁側で静かに語り合った。
二人の手元には今しがた着いたばかりのダイレクトメールがあった。
『激化する早年期教育に完全対応します! 出産直後からのトータル・サポートシステム、チャイルズワーク教育出版。サクラギヤスタケサマ ゴリョウシンサマヘ』
「母さん。俺たちにもついに孫ができたんだなあ」
「タケミチができてからは、なんだか夢のようだったわねえ」
春の日射しに目をつむった康子を、啓之はじっと見つめて、
「もしかしたらタケミチは、子宝に恵まれなかった俺たちへの、天からの贈りものだったのかもしれないなあ」
と、悲しげにつぶやいたのだった。
見知らぬ子供 真弓創 @mayumisou
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