第6話

 測ったように次々と爆破音が連鎖していく。悲鳴が起こり、一つの爆音ごとに命がかき消されいくカタストロフを私は無力な赤子になったような思いでただただ傍観していた。


「ジュージ…?」


 お嬢様がエントランスへと降りてくる。私の手足は氷の様に固まったままだった。


「じゅ、ジュージ!サリーが…サリーが…!」


 殺さなければならない。生き延びるためには殺さなければならない。


 今日でお嬢様の近親者は全員一人残らず殺される。


 そのような計画だった。


 見ると、館の上空にはヘリコプター。そこからは何人もの大蜈蚣オオムカデの精鋭が館内の人間を掃討すべく集結しようとしていた。


「ジュージぃ…!」


 お嬢様の瞳の中に浮かぶもの。恐怖、悲しみ、絶望…そして揺らぐことのない一筋の真っ直ぐな信頼。


 どうして。この瞬間に至ってそんな目をするのですか。幼子の様に無防備なそんな目を。


 そしてその時私を貫いた天啓があった。


 私はお嬢様の目の中にある”信頼”が恐ろしかった。それを失うことが何よりも恐ろしかった。それに足る何かが自分にあるなどと到底思えなかった。


 だがこの私自身にお嬢様の信頼に足るような価値があるかどうかではない。


 この小さく透き通った瞳が問うのは私の手がそれに答えられる力があるかだけなのだ。


 そしてたったそれだけに関しては…それを是とする自負が私にはあったのだ。


 幾度も繰り返してきた技術アート。それをただ振るえばいい。


 気が付いてみればただそれだけだった。ごくごく簡単なことだったのだ。


「お嬢様…泣かないでください」


 私はお嬢様の後頭部に手刀を入れ、目を閉じゆくお嬢様に語りかけた。


「ジュー…ジ…?」


「必ずあなたを守ります…目が覚めたら…」


 直後、玄関口の背後のステンドグラスが割れた。


 人影が二つ降り立つ、私は振り向きざまに二つのマチェットを振るった。


 ズル、と水っぽい音と共に驚愕の表情をした首二つが床に転がり落ちた。




 ―その日、大蜈蚣オオムカデの暗殺者ジュージ・ヨルムンガルド通称”蛇”、は大蜈蚣オオムカデの精鋭”神武百坊しんぶひゃくぼう”十数人をたった一人で殲滅し、裏世界から唐突に姿を消した。


 それは…今から5年も前のことだ。

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ナイヴズ・フォー・ライヴズ 藤原埼玉 @saitamafujiwara

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