第4話 その真なる姿は……

 エイミ・リィカ・ヘレナと食事を共にしたアルドは、現代へと帰る準備をしていた。


「いつのまにか 長居してしまったな。四大精霊にお礼を言いに行ったのが昔に感じるよ……。さすがに フィーネに怒られるかな……。」


苦笑交じりに言うアルドを、遠くからエイミが呼ぶ。


「アルドーー! そろそろ行くわよーー!」


エイミの呼び声に答えると、アルドはエイミたちが待つ合成鬼竜へと向かった。


 乗ってから間もなく、アルドたちがバルオキーの村長の家に着くと、そこにはなんとサイラスとギルドナ・アルテナ兄妹もいた。


「ただいま……って サイラス……!? それに ギルドナとアルテナも……! どうして ここに……!? みんな帰ったんじゃなかったのか……?」

「いや 少しこちらに用がござってな。」

「俺はアルテナの付き添いで来ただけだ。」

「もう 嘘言って……! 兄さんが行こうって言ったんじゃない!」


どうもそれぞれ何かの用があってきたようだ。アルドは何の用なのか聞こうとしたが、それよりも早く、2階から下りてきた村長とフィーネが声をかけた。


「おお 帰ってきておったか アルド。」

「おかえり お兄ちゃん!」

「あ ああ……。ただいま。」


間髪を入れずにフィーネは話し始めた。しかし、その内容はアルドの想像していたお叱りではなく、優しい提案であった。


「あれから 過去だけじゃなくて 未来にも行ってたんだってね……! さすがに疲れたんじゃない?」

「まあ そう言われると……。」

「じゃあ 二階で休んできたら……? さっき お爺ちゃんと一緒にベッドの用意してきたんだ!」

「でも みんながいるのに オレ一人だけ 休むのは……。」


ためらうアルドに サイラスが言った。


「拙者らへの気遣いは無用でござるよ アルド! むしろ アルドに休んでもらわないと 話が……」


話を続けようとしたサイラスを、ギルドナが気配と視線だけで制止する。サイラスは何かに気付いたらしく、手で口を覆った。不審がるアルドに村長は穏やかな口調で言った。


「アルド……。お仲間がせっかく言ってくれているんじゃ……。少し休んできたらどうかの……?」

「……。まあ 爺ちゃんがそういうなら そうさせてもらうよ。」


そう言ってアルドは、ようやく2階へと上がった。フィーネも一緒についていく。

ギルドナとアルテナの視線を感じて、サイラスは下を向いている。

そうこうしていると、フィーネが音を立てないように下りてきた。


「お兄ちゃん ベッドに入ったらすぐに寝ちゃった……。よっぽど 疲れてたみたい。」

「一日のうちに 過去・現在・未来を渡り歩いてきたんだ。疲れるのも無理はないだろう。」


フィーネはギルドナの話にうなずきながら、ずっときょとんとしているエイミ・リィカ・ヘレナへと向きを変えた。


「ごめんなさい……。何のことかさっぱりだよね……。今 説明するから……!」


そういってフィーネは3人を席に着くように促した。よく見ると、サイラス・ギルドナ・アルテナはいつの間にか座っていた。3人は分からないまま席に着くと、村長がそっと3人の前に温かい飲み物を置いた。3人がそれぞれお礼をいうと、村長は何も言わず、穏やかな微笑みを浮かべた。村長も座ったところでフィーネは話し始めた。


 「実は お兄ちゃんたちが帰ってくる前に サイラスさんとギルドナさんとアルテナが来たの。」

「拙者とギルドナとアルテナは バルオキーに着く前に逢ったのでござるが その道中で 現代でお二方とフィーネが 拙者らと同じように 普段のアルドを探ろうとしていたという話を聞いたのでござる。でも 現代も古代で拙者らが見たのと同じように アルドはアルドでござった……。それ故 気になったのでござる。アルドは 心の中で何を思っているのか が。」

「それで ここにたどり着いてから フィーネと村長に話をして どうしたらアルドの本音が聞けるか 考えた。」

「そこで 思いついたのが お爺ちゃんと2人だけにして お爺ちゃんに聞いてもらうっていう方法だったんだ。それで お兄ちゃんが帰ってきたら やってみようって決まったときに お兄ちゃんたちが帰ってきたってわけなんだ。」


一連の話に未来から来た3人は、ようやく理解ができたようだ。説明の後、サイラスは3人に聞いた。


「そういえば 未来では 何があったでござるか……?」


そう問われた3人は、当初の目的は違えど未来でも同じようなことがあったことを順を追って説明した。そして、そのうえでフィーネたちの案に賛成した。話がまとまったところで、今まで黙っていた村長が口を開いた。


「わしも 親として アルドが何を思っているか 聞きたいと思っての。アルドはずっと旅に出ていて ゆっくり話す時もなかったから せっかくの機会じゃし 話をしようかなと思ったのじゃ。」


村長の言葉を聞いて、フィーネは優しい表情で言った。


「ありがとう お爺ちゃん……。」


すると、ギルドナがフィーネに疑問を呈した。


「しかし アルドと村長が話をするとして 俺たちはどうする? まさか扉の前で聞き耳を立てるわけではあるまい。」

「えっ わたしはてっきりそうするのかと……。」


ここにきて大きな課題に出くわしたが、これを解決したのは意外にもエイミだった。


「それだったら このマイクロレシーバーを使ったらどうかしら……?」

「エイミ……!? あなた いつの間にそんなものを……!」

「こっちに来る時に セバスチャンから借りたのよ。」


ヘレナは、エイミがもともと何のためにマイクロレシーバーを使おうとしていたのか、とても気になったが聞くに聞けなかった。そんなヘレナをよそに、エイミは話を続ける。


「これを部屋に設置すれば 離れたところからでも 部屋での会話を聞くことができるわ。」

「なるほど……。さすがはエイミでござるな!」


サイラスは感心している様子だ。エイミは続ける。


「レシーバーは わたしがつけておくわ。念のため フィーネも一緒に来てくれない……?」

「わかった……!」

「わたしたちが聞いていることがバレたら 話がややこしくなるから わたしたちは酒場に行きましょう!」


皆が流れを理解したところで、フィーネ・エイミ・村長以外の皆は、酒場へと向かった。


>>>


 レシーバーを取り付け終わったエイミとフィーネは、家を出ると早速酒場に向かおうとする。しかし、近くで聞こえた助けを求める声に、2人は進路を変えざるを得なかった。

声が聞こえた西の方へ向かうと、一人の女性が魔物に襲われようとしていた。


「もう こんな時に……! フィーネ 戦える?」

「もちろんです……!」


2人は女性の前に入ると、戦闘態勢に入った。


>>>


 2人の攻撃で魔物は、ほんの数秒で倒された。その現場へ遅れてやってきたのは、警備隊だった。


「ご協力ありがとうございます! 助かりました……! 後は我々で対処しますので。」

「わかったわ。後をよろしくね。」


そういうと、2人は急いで酒場へと向かった。


>>>


 しばらくして エイミとフィーネが酒場へとやってきた。


「少し遅かったな。だが 設置は 滞りなく終わったようだ。」

「ええ。もうすぐ話すころだと思うわ。早速聞いてみましょう。」


そういうと、エイミは持っていたスピーカーの電源を入れた。しばらくして村長の声が聞こえた。


「おや 起こしてしまったかの……?」

「うぅん……。ああ 爺ちゃんか。他の皆は……?」

「みんな わしらに気を遣って 出かけて行ったよ……。」

「そうか……。」

「……。」

「……? どうした……? 爺ちゃん。」

「いや おまえが旅にでてからは こうやってゆっくり話すことも なかったと思っての。」

「確かに 前にここに帰ってきたのは クロノス・メナスと戦った後だったし そのあとすぐに 古戦場跡に行ったからな……。」

「……。……のう アルド。」

「何だ? 爺ちゃん。」

「この際だから 聞いておきたいのじゃが……。」

「……?」

「アルドは 先ほどの旅の仲間や この旅のことを どう思っておるんじゃ……?」

「……。」

「なに わしと おまえの仲じゃ。今さら 遠慮もいらんじゃろ。」

「……そうだよな。じゃあ 言わせてもらうよ。」


アルドは一呼吸置く。酒場で聞いているみんなは、聞きたいような聞きたくないような、そんな複雑な気持ちだった。そして、再びアルドの声が聞こえ始めた。


「オレ この旅に出るきっかけをくれた クロノス博士たちに 感謝してるんだ。」

「……。」

「確かに 最初は この先どうなるかわからないというのと フィーネを助けることができるのかというので 不安でいっぱいだった。」

「……。」

「正直 なんでこんなことになったのか なんで オレがこんな目にあわないといけなかったのかって思ったこともあった。」

「……。」

「それに 旅が進んで クロノス・メナス―エデンを助けることができなかったのが 本当につらかったんだ。今でも ふとした時 特に星の塔を見た時には そう思うんだ。」

「……。」

「でも クロノス博士たちが そうしたことで オレは この旅に出ることになった。」

「……。」

「そして そこで 本当にたくさんの場所や人やモノ そして 大切な仲間と出逢った。さっきまでいた皆も その一人だよ。」

「……その仲間のことを おまえはどう思っておるんじゃ……?」


「リィカは 最初に出逢ったときは 鉄仮面少女があらわれた なんて思ったけど 話すと面白くて いろいろと調べたり 分析をしたりもしてくれて とても頼りになるんだ。リィカがいなかったら たぶん旅のいろんなところで 行き詰っていたと思し 未来を救けに過去に着いた時 リィカがあらわれなかったら 心が折れてたかもしれない。」

「……うむ。」


「エイミは 一度エルジオンが壊滅して オレのせいで 存在そのものが消えてしまったっと思って その時はすごく苦しかったけど 未来を救けることができて もう一度エイミの姿を見た時は 本当にうれしかったんだ。少し怖がりなところもあるけど その力強さと思い切りの良さには いつも支えてもらってる。エイミがいなかったら オレはここにいなかったと思う。それに エイミの両親や幼馴染のことも知って オレも何とかして力になりたいと思っている。」

「……そう思ってるんじゃな……。」


「サイラスは 最初は見た目にだいぶ驚いたし 戦ったこともあったけど 一緒に旅をすると ちょっと抜けてるところもあって でも オレや仲間たちのことを いつも励ましてくれた。それに 古代では サイラスの顔の広さに だいぶ助けられた。もし サイラスと出逢ってなかったら 未来を救けることは できなかったかもしれないし クロノス博士たちのことも 知らずに終わっていたかもしれない。」

「……そうなんじゃな……。」


「ヘレナは 途中までは敵同士だったし 戦ったこともあったけど 仲間になってくれてからは いつでも冷静にいてくれて しっかり者で この先どう進むかって時に意見を言ってくれたりもした。それに 合成鬼竜が墜落しかけた時は 身を挺してオレたちを助けてくれた。ヘレナがいなかったら 誤った方向に進んでいたかもしれないし 感情に任せて進んで ダメになってたかもしれない。」

「……そうかそうか……。」


「ギルドナは クロノス・メナスと戦った後に 仲間になって ヘレナと同じで 前は敵同士で戦ったこともあるけど 仲間になってからは 常に前を見据えていて オレが迷ったときに その迷いを断ち切ってくれた。それに どんな時でも諦めることなく 前へ進もうとする姿勢のおかげで オレも立ち直ることができた。ギルドナがいなかったら オーガ族に成す術もなかったかもしれない。」

「……なるほどのぉ……。」


「アルテナは 出逢ってから すぐに連れ去られてしまったから あまり話せてはないんだけど ギルドナからの話や ギルドナやフィーネと一緒にいる姿を見ると いい子なんだって 伝わってくる。まだ体の調子が戻っているわけではないみたいだから もう少し先のことかもしれないけど 元に戻ったら話をしたいと思ってるよ。」

「……。」


「もちろん フィーネだって 一緒に旅に出なかったら 気づかなかったこともたくさんあるし フィーネがそばにいることの心強さを 知ることもなかったと思う。」


少しの沈黙の後、アルドはまた話し始めた。


「他の人たちもそうだけど みんな 旅がなかったら 知ることも気づくことも出逢うこともなかったんだ。今は みんなを知らない世界なんて想像できないよ。」


そういって一度目を閉じたアルドは、しばらくしてから目を開いていった。


「だから オレは この旅をして 本当に良かったと思う。そして この旅のきっかけをくれた クロノス博士には感謝しているんだ。」


少しの間、黙っていた村長も話し始めた。


「……おまえの皆に対する思い ようわかったよ……。」

「なかなかみんなを前すると 照れくさくて言えないけどな……!」


そういいながら、照れ笑いをするアルドに村長は優しい口調でさらに問うた。


「……アルド。もう一つ聞いても 良いじゃろか……?」

「うん。いいよ。」

「……うむ。」


少し間を開けて村長は話した。


「おまえは これまで旅をしてきたわけじゃが 何か悩んでおることはないかの……?」

「悩み事……。」


少し考えてからアルドは続けた。


「特に悩み事はないけど 強いて言うなら……。」


そう前置きをして、アルドは言った。


「みんなは オレと一緒に旅についてきてくれてるけど 本当は無理やりついてきてるんじゃないかなって。」


アルドの悩みを酒場で聞いた一行は、驚きを隠せなかった。そして、それを察したかのように、村長はアルドに聞く。


「どうしてそう思うんかの……?」

「オレは自分の意志で エデンを助けるために旅をしているけど エデンはオレの家族だし もう一人のオレでもある。それに みんなは それぞれの時代で 生活があって 目的があると思うんだ。」

「では おまえは みんなには それぞれの人生があるのに 家族の問題を解決するのを手伝ってくれるのは 無理に協力しているからだと そう思うんじゃな……?」

「ああ……。」


村長は少し考えた後、アルドをまっすぐ見て言った。


「……のう アルド。」

「……。」

「おまえが みんなの話をしてくれた時に 両親や幼馴染の話を聞いたから 力になりたいと 言うておったじゃろ……?」

「ああ。エイミのことだよな?」

「そうじゃ。では なぜ おまえは その子の力になりたいと思ったのじゃ……?」

「それは エイミが 大切な仲間だから……。」


アルドの返答を聞いて、村長はなおもまっすぐにアルドを見ながら答える。


「なら みんなも そうなんじゃないかの……?」

「えっ……?」

「おまえが みんなに対して思うように みんなも おまえが大切な仲間で 力になりたいと思っているから おまえと一緒に旅をしているんじゃないかと わしは 思うがの。」 

「……。」


アルドはしばらく黙っていると、村長は穏やかな口調でアルドに言った。


「本当にそう思っているのか 気になるんじゃったら 直接聞いてみたらどうかの?」


アルドは村長の言葉に振り向くと、そこには一行たちがいた。先ほどまでは酒場で来ていたが、アルドの悩みを聞いているうちに、いてもたってもいられなくなったようだ。


「みんな……。」


アルドを見つめていた一行。一番最初に口を開いたのはエイミだった。


「……アルド。村長さんが言っていた通りよ。わたしやみんなは アルドを大切な仲間だって思ってるから 力になりたいって思うから……。だから 一緒に旅をしてるに決まってるじゃない……!」

「アルドさんダケガ 大切ニ思ってイルト 思ったラ 大間違い デスノデ!」

「そうでござる! これだけ 苦楽を共にしてきたのに 無理やりついてきているわけないでござるよ……!」

「むしろ 無理やりついてきてるって 思われていたなんて 心外だわ。」

「まったく 俺たちをなんだと思っている……!」


皆が思いをアルドにぶつける中、最後に話をしたのはフィーネとアルテナだった。


「お兄ちゃん……。みんなは お兄ちゃんが思っている以上に お兄ちゃんのこと大切に思ってるよ。」

「……あたしは みんなに比べると あまりあなたのことは知らないけど そんなあたしですら あなたが大切に思っていることも 大切に思われていることも とても強く感じるわ。……もっと みんなのこと 信じてあげてもいいんじゃない……?」


アルドはみんなの言葉を真正面から受け止め、しっかりとかみしめてから言った。


「……みんな。本当にごめん……。オレは…… オレは 皆のことを心のどこかで疑っていたのかもしれない……。だけど これからは 皆のこともっと信じるよ……!」


アルドの言葉にみんなも、しかめっ面からいつのまにか笑顔に変わっていた。

 皆の様子を見て、村長は思い出したかのように言った。


「おっと そうじゃ……! わしとしたことが 夕飯の準備をするのを 忘れておったわい……。材料はもう 仕入れてあるんじゃが……。」


村長の言葉に早速反応したのはフィーネだった。


「それじゃあ わたしが作るね! アルテナも手伝って! あと ヘレナさんも!」

「もちろん……!」

「えっ 私……!? ……わかったわ。」

「それから リィカさんとエイミさんは 食器を並べてくれるかな?」

「わかったわ! ……今回ばかりは割らないようにしないと……。」

「了解デス! コノ汎用アンドロイド リィカに お任せクダサイ!」

「あと ギルドナさんとサイラスさんとお兄ちゃんは 薪を拾ってきてくれないかな?」

「この俺が薪拾いだと……!」

「承知でござる! ギルドナ! アルド! 参るでござるよ!」

「わかった! 行ってくる!」


こうしてフィーネによって夕飯づくりが始まった。アルドが薪拾いのために外へ出ようとした時、村長に呼び止められた。


「……のう アルド。」

「何だ 爺ちゃん?」

「これが 真に仲間を信じるということじゃ。これからも一層 皆を大切にの……。」

「ああ……!」


そういって、アルドは家の外へと飛び出していった。


「アルド……。おまえは 今まで 世界を救けるという だれにもなしえないことを やってのけてきた。今や おまえは おとぎ話にでてくるような 勇者そのものじゃろう。じゃが これだけのことをしてきても なお おまえは 優しくて 仲間思いで 困っている人がいると 放っておけない……。そんな わしの よく知る アルドなんじゃな。」


外へ飛び出していったアルドを見送った村長は、家の中で作業をする仲間たちに視線を向けた。


「しかし アルド。おまえは ほんとうにいい仲間に出逢えて 幸せ者じゃな……。」


皆が楽しそうに夕飯を作るのを、村長はただ穏やかな笑顔で見守っていた。

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とある勇者の1日 さだyeah @SADAyeah

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