第3話 かくの如き英雄の其れにあらず

 星の塔を下りたアルド・サイラス・ギルドナ。すると、突如謎の轟音が空から鳴り響く。空を見上げるとそこにいたのは、なんと合成鬼竜だった。


「どうして合成鬼竜が!?」

「私が頼んだのよ。」


どこからか聞き馴染みのある女性の声がした。振り返るとそこにいたのはヘレナだった。


「ヘレナ……! どうしてここに?」

「わけはあの子たちに聞いてちょうだい。」


そういわれて指さす方―合成鬼竜の甲板を見ると、そこには2人の影が見えた。その2人が降りてきて、近くまで来たところで、ようやくそれがリィカとエイミだとわかった。


「リィカとエイミじゃないか……!」

「ミナサン お久しぶりデス!」

「久しぶり! アルド 皆も!」

「一体全体これはどういうことでござるか?」

「理由は合成鬼竜の中で話すわ。とりあえず乗って!」

「拙者もお供したいところでござるが 少し用がある故 ここで失礼するでござる。」

「そうか。じゃあ またな! サイラス!」


サイラスに別れを告げたのち、言われるがままに、アルド一行は合成鬼竜に乗った。


 合成鬼竜に乗り込んだところで、エイミは話し始める。


「じゃあ 説明するわね。実はさっき セバスちゃんから 頼み事をされたの。」

「セバスちゃんから……?」

「そう。なんでも 作業に必要なパーツがゼノ・ドメインにあるらしいんだけど セバスちゃんは 忙しくて手が離せないらしくて……。」

「それでオレのところに 話が来たってわけか。」

「わたしたちだけで 済めばよかったんだけど パーツの種類と数がかなり多くて……。」

「オレはもちろん協力するよ! ギルドナはどうする……?」

「かなり寄り道をしたからな。そろそろコニウムに戻らないと アルテナも心配する。」

「そうだよな。じゃあ コニウムに寄ってからエルジオンへと向かおう。エイミ それでいいか?」

「ええ。こっちは急ぎの用事じゃないから大丈夫。」

「じゃあ そうしよう。合成鬼竜 先にコニウムに向かってくれ。」

「了解した。航時目標点 座標AD300年 魔獣の村。続けて 航時目標点 座標AD3300年 曙光都市!」


>>>


 こうして、ギルドナを送ったアルド一行は曙光都市エルジオンに降り立ち、研究施設ゼノ・ドメインへと向かった。たどり着いた先でアルドたちは、セバスちゃんのパーツのリストをもとに回収作業を行った。


「あとは このパーツだけね。これは ガードドローンが持っているはずよ。」

「ガードドローンか……。」


アルドが辺りを見回すと、少し先に2体のガードドローンが飛んでいた。

「2体の無人機の反応を確認! 目的のガードドローンのヨウデス!」

「なら 早いところ片付けましょう。」

ヘレナも戦闘態勢のようだ。アルドも剣を抜いた。


>>>


 ヘレナの魔法、リィカとエイミの打撃、そしてアルドの剣が次々と繰り出され、2体のガードドローンは跡形もなく破壊された。こうして無事、全パーツを回収したアルドたちはセバスちゃんのもとへと向かった。


>>>


 「ありがとう! 助かったわ! それに アルドもわざわざありがとう!」

「いいって。 セバスちゃんにはお世話になってるし! それじゃ!」


そういってアルドはエイミたちと共に部屋を出た。しかし、アルドたちに続いて最後にエイミも出ようとした時、セバスちゃんが呼び止めた。


「エイミ!」

「……どうしたの?」

「別に大したことじゃないんだけどさ……。」

「……?」

「アルドって その…… 彼女とかっているの……?」

「……!! か か 彼女!?」

「いや エイミたちが アルドを呼びに行っている間に思ったんだけど アルドって 恰好はコスプレみたいだけど 誰にでも優しいし この世界を何度となく救ってきたし……。」

「……そうだけど……。」

「それに IDAスクールからエルジオン COAやKMS社 さらには司政官まで とても顔が広いじゃない? そんな人 エルジオン中探しても アルドぐらいしかいないと思うの。」

「……確かに。」

「それなら そういった人の一人はいても不思議じゃないなと思ったのよね。」

「……。」

「それに 複数の人と話していて その中には女性も混じっていたっていうし……。」

「……!!」

「ま まあ あくまで可能性の話よ! その噂も本当かわからないし……! それじゃ わたしは作業があるから……!」


そういってセバスちゃんは逃げるように自室に帰った。エイミはしばらく立ち尽くしてから、部屋を後にした。


「お 来た来た。遅かったじゃないか。どうかしたのか?」


アルドたちは少し心配している様子だ。


「いや 何もないわ……。」

「そういう割には顔色があまりよくないけど?」


エイミは何とかして隠そうと思ったが、ヘレナはお見通しのようだ。


「ううん。大丈夫よ! それより 大事な用事を思い出したから行くわね……! リィカ ヘレナ 行くわよ!」

「了解デス!」

「えっ 私も?」


突然のことにアルドは思わず声をかける。


「エイミ オレも手伝う……」

「アルドは来ないでっ!」


エイミの急な大声にみんなは驚きを隠せないでいる。


「あっ え えーと……。お 女の子にしか頼めない事なの……!」

「……そうなのか?」

「え ええ……。まあ たまにはエルジオンでゆっくりしたら? わたしたちと逢う前にも何か忙しそうだったし……。それじゃっ!」


(なんか前にも同じことがあったような気が……。)


 もやもやした気持ちのアルドをよそに、エイミは2人を連れてセバスちゃんの家があるシータ区画からガンマ区画へ走った。さすがにおかしいと感じたヘレナはエイミを呼び止める。


「ちょっと エイミ……!」

「……ここなら大丈夫ね……!」


息を切らしながら、ようやくエイミは足を止めた。


「セバスちゃんの家で いったい何があったのか ちゃんと説明してちょうだい。」

「急な展開ニ ワタシのブレインサーキットが パニックになっていマスノデ!」

「そうよね……。わたしとしたことが取り乱したわ……。ごめんなさい……。」


そういってエイミは、セバスちゃんとの会話を2人に説明した。


「そういうことだったのね……。」

「やっと理解 デス! ブレインサーキットも安定シマシタ!」


2人もようやく理解できたようだ。しかし、ヘレナはその話に疑問を口にした。


「でも……。そんなことがあるのかしら……? あのアルドに限ってそんなことはないと思うけど。」

「わたしもそう思ったんだけど 何か気になってね……。」


ようやく落ち着いたエイミは、頭に浮かんだ考えを2人に提案した。


「そこでなんだけど みんなでアルドをこっそり追ってみない……?」

「スニーキング・ミッション デスネ! お任せクダサイ!」

「それなら 早くアルドを追わないと 見失うわよ?」

「それもそうね……! とりあえずさっきいた場所に戻ってみましょう!」


話がまとまった3人は、シータ区画へと駆けて行った。走りながら、ヘレナは少しむずがゆい心地だった。


(なんだかんだいっても エイミも お年頃かしら……!)


>>>


 セバスちゃんの家の前に戻ってきた3人だったが、そこにアルドの姿はなかった。

あたりを見回したエイミは、近くを歩く男に声をかけた。


「ちょっと いいかしら……!」

「な 何だ……?」

「ここら辺で変な恰好をした男の子を見なかったかしら……?」

「ああ あのコスプレしてた子か。たしかIDAスクールがどうとか……」

「IDAスクールね……! ありがとう!」


答を聞くや否やエイミは一目散にカーゴ・ステーションへと走っていった。


「リィカ! エイミを追うわよ!」

「了解デス!」


嵐のような出来事に男はわけがわからずにいた。


「一体何だったんだ……? でも あんなに女の子たちに追われて 意外とあんな奴でもモテるんだな……!」


>>>


 IDAスクールへのH棟へとたどり着いた3人は、すぐにアルドを見つけることができた。


「あっ あそこ……!」

「何かの部屋に入ったみたいね。一体何かしら?」

「IDAスクールの マップを検索……。ドウヤラ 保健室のヨウデス!」

「とりあえず 部屋の前まで行ってみましょう! くれぐれも見つからないように……!」


3人は保健室の前に行くと、そっと中の様子を確認した。中の光景に3人は言葉を失った。アルドが紫色の髪留めをした女子生徒と楽しそうに話をしていたのだ。


「あ あれって……。」

「まさか 本当なの……?」

「コレハ 一大スクープの予感 デス!」


 息をのんで観察していると、アルドが部屋を出る素振りを見せたため、3人は慌てて隠れる。

 アルドが校舎を出たのを見届けてから、3人は再び保健室の前に戻ってきた。すると、後ろから急に声がかかる。


「おや アルドのお仲間がこんなところでどうしたんだい?」


びっくりして振り返るとそこにいたのはIDEA会長のイスカと闇リンゴ事件を機にIDEAに加入したサキだった。


「イスカ……! それに……」

「サキです……! アルドさんにはお世話になってます……!」

「アルドにお世話に……?」


怪訝そうなエイミの空気を察して、イスカは笑いながら答えた。


「アルドには 彼女や他の生徒が被害にあった 事件の解決に 大いに貢献してくれてね。アルドが 一番最初に協力してくれた事件の被害者が 彼女だったんだ。」

「何だ そうだったの……!」

「決して キミたちが想像しているような そんな関係ではないから安心してくれ。」

「……!」


イスカに全て見透かされたエイミは恥ずかしくて下を向いてしまった。その様子を見て、ヘレナがエイミの代わりに説明した。


「ごめんなさいね。ちょっと立て込んでて……。私はヘレナ。こっちのアンドロイドがリィカ。そして こっちがエイミよ。」


サキは一行に挨拶をした後で、ここにいるわけを聞いた。


「ところで 皆さんは どうしてここに……?」

「今 アルドのとある噂を 本人には内緒で 捜査しているの。」

「ソシタラ 早速 アルドさんガ 保健室であちらノ女性ト 楽しソウニ お話をされテいたノデ!」

「一体何を話していたのかしら……?」


一連の話を聞いたイスカは、いたずらっ子のような顔をしながら、ヘレナ達に言った。


「それなら サキが適任だと思うよ。」

「そうですね……! あの子―マユちゃんは 友達ですから……!」

「それじゃあ お願いしてもいい……?」


気を持ち直したエイミは、サキに目を輝かせて言った。


うなずいたサキは保健室に向かうと、マユと話し始めた。

エイミ・リィカ・ヘレナは緊張した様子だったが、イスカだけはただ一人笑顔だった。

 しばらくして戻ってきたサキに、エイミはドキドキしながら聞いた。


「どうだった……?」

「アルドさんはマユちゃんと ただお話をしてただけみたいでしたよ?」

「どんな話か具体的に聞かせてもらえるかしら?」


ヘレナの要望に応じて、サキはマユから聞いた内容を話し始めた。


<回想>

「やあ マユ。」

「あ アルドさん。お久しぶりです……!」

「久しぶりだな! 体の調子はどうだ?」

「ロード・オブ・マナの力もあってか だいぶ体が動くようになりました……! それに サキちゃんやIDEAの方々も お話に来てくださって……。」

「それは良かった! サキやIDEAがいたら安心だしな!」

「そういえば アルドさんはどうしてここに……?」

「オレは 急に一人の時間ができたから どうしようか考えてたら そういえばマユは元気かなと思ってさ。」

「アルドさん……。ありがとうございます……。」

「また IDAスクールに来た時は寄るよ。」

「はい。」

「それじゃあ オレは これで。」


<現実>

「……とのことでした。」

「話を聞いた感じだと いつものアルドと変わらないんじゃないかな?」


イスカの意見にみんなも同意見だった。落ち着いた口調でエイミはサキに聞いた。


「ありがとう サキ……。それで アルドはどこに行くとかは 言ってなかった?」

「マユちゃんの話だと イシャール堂に行くとかって言ってました。なんでも大事な人のことを聞きに行くとか……。」

「大事な人……!?」


話を聞いて、再び眼の色が変わったエイミは、少し語気を荒げていった。


「もしかして うちでアルドは誰かと逢おうとしてるのかしら……? きっとそうに違いないわ……! あっ もしかしたら 父さんが手助けしてるんじゃ……! あのバカ親父……!!! 行くわよ! みんな!」


そういって、エイミはとてつもない速さでIDAスクールを後にした。リィカも遅れてエイミを追いかける。

残ったヘレナは呆れた感じでイスカとサキに言った。


「ごめんなさいね。私たちのために動いてくれたのに。」

「大丈夫です……! 私の兄も似たところがあるので……。」

「それにしても キミたちに比べたら わたしはアルドと過ごした時間はそう多くはないが わたしの経験からしても キミたちが思っているようなことを アルドがするとは思えないな。」

「私もそう思うわ。今回のことも ただのお人よしに過ぎないでしょうね。」

「まあ それが彼のいいところなんだけどね。実際 わたしたちもそれで助かっている。しかし 彼女があれほどまでに活発に動くとはね。ああ見えて彼女は……」

「そういうのに興味のあるお年頃なのよ。」

「そのようだね……。」


落ち着いていて、それでいてすべてを見透かし、楽しんでいるようにも見える2人の会話に、サキはまだついていくことができなかった。


>>>


 3人がガンマ区画にあるイシャール堂へと向かうと、ちょうどアルドが出ていったところであった。

3人はこれ幸いと、入れ違いになるかようにして、イシャール堂へと入った。

 イシャール堂に入るや否や、エイミはこの店の主であり父でもある、ザオルに問い詰めた。

「父さん! 洗いざらいすべて話してもらうわよ……!」

「な なんだ エイミ。俺が何かしたか……?」


IDAスクールからの長距離を走ってきたうえに、興奮気味なため、息が上がり切ったエイミを後ろに退け、ヘレナは聞いた。


「さっき ここにアルドが来たと思うのだけど 何を話していたのか 教えてもらえるかしら?」

「そ それは……。すまんが聞けない頼みだな……。」

「コレガ 訳アリ デスネ……!」


ザオルの反応に、リィカもツインテールを回している。興奮気味のエイミとリィカを無視して、ヘレナは続けた。


「あら それはどうしてかしら?」

「アルドに内緒にしてくれって言われててな……。特に エイミには黙っといてほしいって……。」

「……! 何よ それ! 何でわたしは特に内緒なのよ……!」

「仕方ねぇだろ……。お前のことなんだから……。」


エイミの勢いに思わず口を滑らせたザオルを見逃すヘレナではなかった。


「つまり エイミのことで話をしていたのね……?」

「……。もう隠し通せる状況じゃないか……。すまん アルド……。」


呆気に取られているエイミをちらっと見てから、ザオルはその時のことを話した。


<回想>

「やあ ザオル。」

「おお! アルドじゃないか! こっちに来てたのか!」

「ちょっと前にな。相変わらず元気そうだな……!」

「おう! そうでもなきゃ エルジオン一の鍛冶屋の名が廃るからな! ところで 今日は何の用だ? 武器か? それとも防具か?」

「いや そうじゃなくて……。」

「……? じゃあ何の用だ?」

「実は エイミのことで聞きたいことが……。」

「……! まさか お前 エイミと……!」

「違う違う! そうじゃなくって 最近エイミに何か変わったことはなかったか……? なんか悩み事があるとか 最近色々うまくいってないとか……。」

「何だ違うのか……。変わったこと? 特に思い当たることはねぇが……。」

「そっか……。」

「エイミと何かあったのか……?」

「……実は さっきまで エイミと一緒だったんだけど 急に大声出したり 走っていっちゃったりして……。だから 何かあったのかなと思ってさ。」

「そんなことがあったのか……。うちのエイミがすまねぇことをしたな。」

「いや いいんだ。それより 何もなければいいんだけど……。」

「アルド……。」

「ごめんな 急に押しかけたりして。あっ あとこの話はみんな 特にエイミには内緒にしておいてくれ。」

「……わかった。鍛冶屋に二言はねぇ!」

「ありがとう……!」


<現実>

「……とまあ こんなところだ。」

「アルド……。」


エイミは先ほどまでの勢いが嘘のように、落ち込んでいた。さすがのリィカも空気を察したらしく黙っている。ヘレナは落ち着いていたが、エイミにかける言葉に迷っていた。そんな中でザオルは口を開く。


「エイミ。何があったかしらねぇけどよ。仲間にあんな心配させちゃいけねぇ。いきなりこれだけのことがあったのに それでもお前のことを心配してくれる。そんなやつなかなかいねぇぞ?」

「……わたし……。」


父の言葉を聞いてからしばらくして、エイミは顔を上げた。


「父さん。アルドがどこに行ったか分かる……?」

「たしか エルジオン・エアポートに行くって言ってたな。」

「わかった。……わたし 行ってくる。」

「おう。気ぃつけてな。」


エイミは勢いよく扉を開けると、振り返って言った。


「……父さん。」

「何だ?」

「……ごめんなさい。あと ありがとう。」

「……俺のことはいいさ。はやいとこ行ってやんな。」


ザオルの言葉にうなずくとエイミは駆けて行った。リィカとヘレナもそれに続く。


>>>


 エルジオン・エアポートに着いた3人だったが、まだアルドを見つけられずにいた。

そして、最奥部にまで来たところで、ようやくアルドの姿を見つけることができた。


「やっと見つけた……!」


安堵と緊張と決意が入り混じった気持ちで、アルドのところに向かおうとするエイミたち。しかし、そこで思わぬ事態が起こった。なんと、女性がアルドの方へ駆け寄っていったのだ。


「えっ……。」


エイミはもはや言葉を失い立ち尽くした。しかし、悪いことは畳みかけて起こるものだ。


「……! 3体のサーチビットを確認! 戦闘態勢のヨウデス……!」


エイミの様子を見たヘレナは再度サーチビットに向き直る。


「リィカ! 私たちだけで何とかするわよ。」


>>>


 リィカとヘレナの繰り出す技に、サーチビットは見る影もなかった。心なしかいつもよりも威力が上がっているかのように思えた。2人は何とかエイミを立ち直らせ、アルドのもとへと走った。この時は、落ち着いていたヘレナでさえも、すごい勢いだった。


「アルド!」

「うん…‥? ヘレナにリィカじゃないか!? それにエイミも……! 一体どうし……」

「アルド! あなたなんてことを……!!」

「アルドさん! ワタシの メインユニットは 怒り一色デス ノデ!」

「……アルド……。」

「ちょっと待ってくれ……! いったいどうしたっていうんだ?」


状況を呑み込めないアルドに、駆けて行った女性はおびえながら聞いた。


「あの……。この人たちは……?」

「あ ああ。オレの旅の仲間なんだ……。」

「そうだったんですね……。わ 私の用は済んだので こ これで……。」


そういうと、女性は逃げるように去っていった。ヘレナは困惑するアルドにさらに聞いた。


「アルド……! あれはいったい誰なの! まさか あなた 誰もいないところで こっそりあの女性と……!」


今まで見たことが無いくらい、怒っているヘレナに対し、アルドは答えた。


「さっきから何を言ってるんだ……? あの人はオレが落とした財布を届けてくれただけだぞ……?」

「あなたも嘘をつくなら もっとマシな嘘をつくべきだったわね……!」

「いや 嘘じゃないって……! とにかく落ち着いてくれ!」


 収拾のつかないこの状況に困ったアルド。しかしそんな空気を変えたのは、なんとザオルだった。


「お前たち 落ち着け! 姉ちゃんも 怖がっているじゃねえか!」


ザオルの言葉にようやく落ち着いた3人。よく見ると、そこには先ほどの女性もいた。


「さあ こいつらに話してやってくれ。」


ザオルの言葉に少し落ち着いた女性は、口を開いた。


「その方が言っていたことは本当なんです。私がシータ区画を歩いていた時に ちょうどその方が エアポートに向かっていくのが見えたんです。そしたら 何か落としたのが見えたので 急いで拾って すぐに届けようと思ったのですが なにか急がれていたのか 走って行ってしまったので 私も走って追いかけていたというわけです……。ようやくこの方に追いついて 落とし物を届けたら とても喜んでくださって……。それで なぜこんなところに来たのか気になったので 理由を教えてもらったところで その……。」


状況を話して言葉に詰まった女性を察して、ザオルが続ける。


「そしたら お前たちがすごい剣幕できたってわけだ。まったくかわいそうにな……。」


一呼吸おいてから、ザオルはさらに続ける。


「お前たちに何があったかは知らねぇ。けどよぉ アルドが嘘をつくような そんな奴じゃないって お前たちが一番わかってるだろ。」


「ごめんなさい……。わたしったらどうして……。」

「ス スミマセン…‥‥ デス……。」

「……私としたことが感情的になってしまったわね。本当にごめんなさい……。」


3人の謝罪を受けて女性も深々と頭を下げた。ザオルはうなずいてから、女性と共にエルジオンへと帰っていった。


 「アルド……。その……」


申し訳なさそうにしているエイミたちにアルドはいつもの調子で答えた。


「オレは大丈夫だよ。少しびっくりしたけどな……。」


アルドは少し考えてから、エイミに言った。


「なあ エイミ。何があったのか教えてくれないか?」


アルドの言葉に促されて、エイミは一連のことをアルドに話した。


「なるほどな……。やっと理解できたよ。」

「本当にごめんなさい……。アルド……。」

「いいんだって。でも 一つだけみんなに伝えておくよ。」

「……?」

「オレは みんなが思っているようなことはしない。少なくとも この旅が終わるまでは。」

「……!」

「それに 今はそんなことより もっと大切なことがある。エデンのこともそうだけど 何よりみんなのことは 本当に感謝してるし 大切に思ってる。だから オレのことを信じてほしい。」

「……アルド……。」


アルドの言葉を聞いて、ようやくみんなは元の調子に戻れたようだ。


「あなたは呆れるほどにお人よしね……。」

「ソコガ アルドさんノ グッドポイント デスノデ!」


そんな中、エイミはアルドに疑問を投げかける。


「ねえ アルド。」

「うん……? 何だ エイミ?」

「どうしてこんなところまで来たの……?」

「ああ。それは……。」


アルドは目の前に広がる光景を見ながら言った。


「ここが オレが初めて未来に来た場所だから。」


皆もアルドにならって、視線を外に向ける。


「オレをここへと連れてきてくれたから リィカやエイミ ヘレナに出逢えた。だから ここは オレにとって思い出の場所なんだ。」

「アルド……。」


しっとりとした雰囲気で包まれた4人。その雰囲気を破ったのは、エイミの腹の虫だった。


「ぐぅぅ~~~……」

「あっ……。」


恥ずかしそうにするエイミをよそに、みんなは思わず笑ってしまう。


「そういえば さっきまでずっと走りっぱなしだったものね。」

「ワタシも バッテリーが 20%̪しか アリマセン ノデ!」

「じゃあ エルジオンに戻って ご飯でも食べるか!」


アルドの提案に賛成したみんなは一目散に駆けていった。

ふと、アルドをエイミが呼び止める。


「アルド……!」

「……どうしたんだ?」

「その……。今日はごめんなさい。それから 心配してくれてありがとう。」


アルドはエイミに向き直って笑いながら答えた。


「当たり前じゃないか。だって エイミは オレにとって大切な……」

「……!」

「……大切な 仲間なんだからな……!」


そういうと、アルドはリィカたちを追いかけていった。


(ほんと アルドは どんな時でも アルドなのね……。)


そう思ったエイミの顔は、笑顔に満ちていた。






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