第2話 それは数多の逸話や語られし雄姿
ギルドナとアルテナの歓迎会の翌日、ギルドナはアルドに言った。
「アルド。俺は四大精霊にもお礼を言いに行きたいんだが お前も一緒に来てくれないか?」
「いいけど アルテナはどうするんだ?」
「アルテナは合成鬼竜に頼んで コニウムまで送ってもらおうと思っている。まだ 体も 本調子ではないからな。」
「合成鬼竜なら任せられるな。早速頼んでみるか!」
その後、ギルドナ、フィーネ、アルテナを連れて合成鬼竜の甲板に来たアルドは、アルテナをコニウムまで送ってほしいと頼んだ。合成鬼竜は少し嬉しさをこらえながら言った。
「うむ。この合成鬼竜がすぐにお送りしよう。」
フィーネも続けて言った。
「わたしも一緒に送っていくね お兄ちゃん!」
「ああ。アルテナのことよろしく頼むよ。」
そういってアルドはギルドナと合成鬼竜から降り、2人を見送った。
合成鬼竜が見えなくなったところで、ギルドナが言った。
「さて 俺たちも行くとするか。」
「ああ。四大精霊の所に行くんだったな。一度ラトルの斧寺さんのところに行こう!」
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火の村ラトルにやってきた2人はさっそく斧寺に要件を話した。
「わかりました。では早速 東方の神秘 離魂術にて あなた方を……」
斧寺が言いかけた時、遠くから2人を呼ぶ声がした。後ろを振り向くと、そこにいたのはサイラスだった。
「サイラスじゃないか! どうしたんだ?」
「いや ラトルを歩いていたら 見知った顔があったので 声をかけたというわけでござる。アルドとギルドナはどうしてここに……?」
「オレたちはアルテナのお礼を四大精霊に言いに行こうとしてたんだ。よかったら サイラスも来ないか? いいかな ギルドナ?」
「俺は別段構わん。」
「では そうさせてもらうでござる。」
アルドは再度斧寺にお願いをした。
「では今度こそ 離魂術にて あなた方を煉獄界に お送りいたします。覚悟の方は よろしいですね?」
「ああ。よろしく頼む。」
煉獄界へとたどり着いたアルドたちはさっそく四大精霊にお礼を言ってまわった。ノーム・シルフ・オンディーヌとまわり、最後に向かったのはサラマンダーであった。
3人の姿を見て懐かしい気持ちになったサラマンダーは、3人に問うた。
「久しいな 人の子よ。今日は我に何の用だ?」
「ギルドナがこの前のことで お礼が言いたいらしいんだ。」
アルドの紹介でギルドナはサラマンダーの前へと来た。
「サラマンダー。お前たち四大精霊のおかげで 妹のアルテナを救うことができた。礼を言う。」
「あれは汝らが力を示した証。ならばあれもまた汝らの力だ。すなわち 汝らが己の力で成し遂げたということ。」
少し笑ってからギルドナは言葉をつづけた。
「用はこれだけだ。では 失礼する。」
「我はいつでも力ある者を待っている 人の子よ。」
サラマンダーの言葉を受けて、帰ろうとする3人。しかし、歩き出したギルドナとサイラスをサラマンダーが呼び止めた。
「魔獣と呪われし者よ。汝らに聞きたいことがある。」
「拙者たち……でござるか?」
2人に続いてアルドもやってきた。
「ギルドナ どうかしたのか?」
「いや ちょっと野暮用ができた。悪いが先に行っててくれ。」
「わかった。じゃあ 先にラトルに戻るよ。」
「ああ。後で向かう。」
アルドが行ったのを確認して、ギルドナはサイラスと共にサラマンダーに問うた。
「それで 俺たちに何の用だ?」
「たいしたことではないのだがな。」
「何だ。」
「あの人間は普段は何をしているのだ?」
「アルドが普段何をしているか……でござるか?」
(またか……。一体 なぜそこまであの男の日常を知りたいんだ……。)
ギルドナはのどまで出かかった思いを押し殺して、サラマンダーに理由を聞いた。
「なぜそれを知りたい?」
「あそこまでの力を示したのだ。日ごろの行いの中に その力の源があるのではないかと思ってな。」
サラマンダーの言葉に少し呆れながら、ギルドナは答えた。
「あいつはお前が出逢ったまんまの男だ。どんな時でもお人よしそのものだ。」
「確かにアルドのお人よしは生粋のものでござるからな……。」
2人に言われてサラマンダーは少し残念な様子だった。
「そうか……。うむ。歩みを止めさせて悪かった。魔獣と呪われし者よ。」
「ああ。」
そういって2人もサラマンダーのもとを去っていた。その道中、おもむろにサイラスが口を開いた。
「しかし アルドとはもう長いでござるが 言われてみれば 普段は何をしているのか 見たことはござらんかった。」
少し嫌な予感がしたギルドナであったが、その予感は早々に的中した。
「せっかくの機会でござる。ここはひとつ 一芝居うって アルドを観察するというのは どうでござるか ギルドナ?」
(嫌な予感ほどよく当たるとはよく言ったものだ。しかし そこまで気になるものか? いや しかし あいつは現代の人間だ。なら 古代では何をするんだ? 待て。俺は何を考えて……。)
自分でもよくわからなくなったと考えこむギルドナを気にすることなく、サイラスは続ける。
「そうと決まれば アルドのもとへ急ぐでござる!」
しばらくしてラトルに戻ってきた2人に、アルドは話しかける。
「遅かったな 2人とも。一体サラマンダーと何を話していたんだ?」
「…………。」
ギルドナはなおも考え込んでしまっているようだ。ギルドナを見かねたサイラスがアルドに言った。
「実は拙者たち サラマンダーに極秘の命を承ったでござる。それ故 アルド殿には申し訳ないでござるが 拙者たちが終わるまで『普段通りに』時間をつぶしていてほしいでござる。」
「ああ。それは構わないけど オレは手伝わなくて大丈夫か?」
「心配は無用! 何せ『極秘の命』でござるからな……!」
「わかったよ。そうしたら 適当に時間をつぶしてくる。」
「かたじけない……。では 拙者たちも行くでござるよ!」
そういって、サイラスはギルドナを引っ張って、しばらく歩いてから建物の陰に隠れた。
「さて これからどうしようかな。古代はバルオキーほど見知った場所じゃないし……。」
少し考えてから、アルドはうなずいて言った。
「そうだ! 人喰い沼に向かおう!」
そういうと、アルドは西へと歩いて行った。
アルドが行った後で2人は物陰から出た。
「早速動いたでござるな。しかし 行き先が人喰い沼とは……。いったい 何をしに行くつもりでござろう……?」
「とにかく 行けばわかるだろう。その人喰い沼とやらに。」
「そうでござるな。ではいざ 人喰い沼へ向かうでござる!」
こうして、2人はアルドを追っていった。
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2人が人喰い沼にたどり着いた時には、まだアルドはいなかった。
「どうやら アルドよりも先に来れたようでござるな。」
「随分と陰気なところだ。それに隠れるところもない。」
「それについては 心配ご無用でござるよ ギルドナ! ここなら 隠れることができるでござる!」
「うん……? 何か部屋のようにも見えるが 何なんだ ここは。」
「何って家でござるよ。」
「家だと? こんなところに住む奴などおらんだろう。もしいたら 逢ってみたいものだ。」
「何を言ってるでござるか ギルドナ。目の前にいるではござろうに。」
「目の前? まさか……。」
「その通り 拙者が住んでいたのでござるよ! むむっ……! アルドでござる!
隠れるでござるよ!」
2人が隠れてしばらく、アルドもやってきた。
「あっ あったあった。」
そういって、サイラスの家を眺めるアルド。幸いサイラスとギルドナには気付いていない。
「パルシファル宮殿に行って パルシファル王にあったと思ったら いきなりこの沼に落とされて……。あの時は大変だったな……。」
あたりを見回しながら、更に話を続ける。
「そのうえ たどり着いた先にいるのがサイラスだったからな。今は何とも思わないけど 最初見た時はさすがに驚いたな……。呪いのせいとはいえ どう見てもカエルだし……。」
話を聞いて、サイラスは思わずささやく。
「やはり アルドもそう思っていたのでござるか……!」
「静かにしろ……! 気付かれる……!」
「はっ! 拙者としたことが取り乱したでござる……。」
そんな2人の会話も気づかず、さらにアルドは話し続ける。
「でも 今思うと サイラスにも出逢えたし よかったのかもな。ああ見えて頼りになるし。旅先でも結構助かってるし 心強いよ。」
少し間を置いてから、アルドは言った。
「さてと 今度はどこに行こうかな……。よし パルシファル宮殿に行こう。」
そういって、アルドは去っていった。
姿が見えなくなったのを確認して、ギルドナとサイラスは出てきた。
「アルド……。そこまでの仕打ちを受けたのに そういってもらえるとは……。」
「相変わらず どこまでも人のいいことだ。」
ギルドナはそういって視線をやると、サイラスは背を向けて肩を震わせていた。
様子を察したギルドナは来た道を戻りながら言った。
「俺は先に行く。落ち着いたらお前も来い。」
そうして、ギルドナは地上へと上がっていった。
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パルシファル宮殿にたどり着いた2人。あたりを見回すと、アルドが部屋に入っていくところだった。
「今度はパルシファル宮殿……。しかもあそこは食堂でござるな……。腹が減ったのでござろうか……?」
「さあな。だが 今回は部屋の中だ。入ったとして隠れるところはあるのか?」
「確か 中に大きな机があったはず……。静かに入って その机に隠れるでござる。」
誰にも気づかれないように静かに入った2人は、素早く大きなテーブルの陰に隠れた。しかし、その動きに思わず食堂のスタッフが驚いてしまう。
「うわっ なんだ?」
「しーっ! とにかく静かにするでござる……!」
「わ わかった……。」
スタッフを落ち着かせたところで、アルドを探す2人。
「あそこだ……!」
「どうやら ラチェットと話しているようでござるな……。」
どうやらこちらには気付いてないらしい。会話の内容が何とか聞き取れる程度までは近づくことができた。どうやら、今の状況を伝えたところのようだ。
「それにしても 私の知らないうちに また世界の危機を救ったそうね?」
「ああ オーガ族のことか。あれも大変だったな……。でも なんでそのことを……?」
「前にサイラスに逢ったときに聞いたのよ。ほんと私たちの想像を超えるようなことを 平気でこなしてしまうんだから……。」
「オレはもう慣れっこだからな……。でも それもこれも全部仲間がいてくれたからだよ。」
「ふふっ あなたらしいわね。でも、たまには今日みたいに自分を休ませないと。これだけ活躍しているんだから しっかり自分の時間をとっても 罰は当たらないわ。」
「ついこの前にも同じことを言われたよ……。」
「それだけあなたのことが心配だってことよ。裏を返せば それだけ人のために働いているってことでもあるけど。」
「みんながいなかったら これだけのことはできなかった。だから オレはその仲間のために できる限りのことをしたいんだ……!」
「あなたの場合は 何を言ってもそう答えると思ってたわ。いらないおせっかいだったかしらね……。」
「ま まあ 今日はたまたまひとりだし ゆっくりすることにするよ。」
「そうしなさい。それからたまには こうして顔を見せに来てちょうだい。」
「ああ。それじゃあそろそろいくよ。ありがとう。」
こうして、アルドは食堂を後にした。すると、ラチェットは言った。
「ほら そんなところに隠れてないで でてきなさい。」
隠れていることがばれた2人は、言われるがままにすがたをあらわした。
「気づいていたでござるか ラチェット……。」
「当たり前じゃない……! バレバレだったわよ? まあ 空気を読んで黙っておいてあげたけど。」
「かたじけない……。」
「それにしても あなた あんないい人と旅ができて幸せね。」
「今まさにそれをかみしめているところでござるよ……。」
「そういえば あなたたち あの子を追っているんじゃないの? 早く追いかけないと見失うわよ?」
「そうでござった……! 早く追いかけるでござるよ ギルドナ!」
サイラスはそういうと、すぐに食堂を後にした。そして、ギルドナも扉に手をかけた時、ラチェットが呼び止めた。
「ねえ あなた。」
「何だ。」
「あの子のお人よしな性格は治らないみたいなの。」
「どうやらそのようだな。」
「だから 精一杯サポートしてあげてちょうだい。」
ギルドナは一瞬目を閉じて、また開いた。
「まったく世話が焼ける。」
そういって食堂を後にした。
ギルドナが宮殿を出ると、サイラスは門番から話を聞き終えたところであった。
「門番によると アルドはどうやら星の塔に向かったようでござる……。なぜそんなところに……。」
2人はアルドを追って星の塔へと駆けていった。
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星の塔の最上階へと向かった2人は、そこでアルドを見つける。アルドも少し前に着いたばかりのようだ。しばらくあたりを見てから アルドは話し始めた。
「ここも 色々あったな……。パルシファル王もクロノス博士も相当苦しかっただろうな……。まあ まさか パルシファル王と煉獄界で再会するとは思わなかったけど。」
ふと、目をやると、そこにはロボットのようなものが立っていた。ガリアード2世だ。アルドは彼のそばへと歩いて行きながら語った。
「この星の塔を見るたびに エデンを思い出すな……。」
ガリアード2世を見つめる顔は少し悲しげであった。
「エデン……。オレはお前を救うことはできなかった……。」
しばらくして、アルドは顔を上げていった。
「でも 必ずお前を助け出して見せる。それがオレの……クロノス博士とマドカ博士から託された者の務めだ……!」
決意を述べるアルドを遠くから見ているサイラスとギルドナは、アルドがどんな表情なのかは見えなかったが、聞こえてくる声には強い意志を感じていた。
ギルドナはふと自分の近くから、機械音のようなものが聞こえるのに気付いた。音のする方を向くと、敵が押し寄せてきていた。
「サイラス! 敵だ!」
「何と……!」
声と音に気づいたアルドはもちろんサイラスとギルドナにも気づいた。
「サイラスにギルドナ……! どうしてこんなところに!」
「それよりも手を貸せ! 今はこいつらを退けるぞ!」
アルドはそういえば前にもこんなことがあったような気がすると思いながら、急いで2人のもとへと向かった。
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3人の剣術は次々と敵を退け、倒していった。そして、瞬く間に先ほどまでの静かな空間へと戻っていた。
一段落したところで、アルドは2人に尋ねる。
「何とか倒せてよかった……。それにしても 何でここに2人がいるんだ……? 極秘の命は終わったのか……?」
「アルド 申し訳ない……。あれはこうやってアルドの普段を観察するための嘘でござる……。」
「つまるところ この前のフィーネとアルテナと同じだ。どうやら お前に関わるものはお前の普段の生活に興味があるらしい。」
「どうりでこの展開に見覚えがあると思ったら そういうことだったんだな!」
「しかし アルドのお話が聞けて 拙者は嬉しかったでござるよ! それに……。」
「それに どうしたんだ?」
「このサイラス どこまでもアルドと共に参ることを誓うでござるよ!」
突然の意志表明に驚いたアルドだったが、すぐに笑顔になって答えた。
「ありがとう。これからもよろしく頼むよ! もちろん ギルドナも!」
そういいながら、3人はこの場を後にした。アルドは階段を下りる前にもう一度ガリアード2世を見た。
「必ず助けに行くからな エデン……。」
その声は、ガリアード2世には聞こえなかったが、その思いは確かに届いていた。
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