とある勇者の1日

さだyeah

第1話 未来を救けし勇者

 ある日、フィーネはバルオキ―の村長(むらおさ)からの頼みで、一人で王都ユニガンへと出向いていた。頼みの内容は月影の森で採れた鉱石を鍛冶屋に届けるというものだった。フィーネが一人で来たのは、アルドが警備隊のことで手が離せず、ついてくることができなかったためだ。


 街の中央にある鍛冶屋へと着いたフィーネは鍛冶屋の男に挨拶をした。


「こんにちは おじさん!」

「よお お嬢ちゃん。鍛冶屋になんか用か? あいにく お嬢ちゃんに合うような武器は……。」


鍛冶屋の男にそう言われたフィーネは、首を横に振り答えた。


「ごめんなさい……! わたし 武器を買いに来たんじゃなくて バルオキーのお爺ちゃん……じゃなくて村長さんから頼まれて この鉱石を届けに来たの! はい これ!」


話を聞いて、鍛冶屋の男は笑顔で言った。


「なんだ そうだったのか! いや すまなかった! 遠いのにごくろうさん! 確かに受け取ったよ。村長によろしく言っといてくれ!」


鉱石を受け取り、鍛冶屋は店の中へと消えていった。


 一段落したフィーネは、帰り際にふと気になってミグランス城を眺めた。


「それにしても 本当に立派なお城だなぁ~。まるで絵本から飛び出したみたい……。」


「あっ フィーネーー!」


急に名前を呼ばれて我に返ったフィーネ。声のする方を向くと、そこにいたのはギルドナとアルテナだった。フィーネは驚きと嬉しさと懐かしさの入り混じったような心地がした。


「久しぶり フィーネ!」

「ギルドナさんにアルテナ……! どうしてこんなところにいるの!?」


フィーネの問いにギルドナが答えた。


「いや 先のアルテナを助けてもらった件について ミグランス王に礼の一つも言ってないと思ってな。こうして2人で今しがた礼を言ってきたところだ。」


続けてアルテナが言う。


「フィーネはどうしてここに?」

「わたしは忙しいお兄ちゃんの代わりに おつかいに来たんだ!」

「どうりでアルドの姿が見えないわけだ。」


ギルドナはそういうと、少し考えてからフィーネに言った。


「そういえば アルドは普段は何をしているんだ?」

「お兄ちゃんは バルオキーの警備隊に入ってて 魔物を倒したりしながら村のみんなを守っているんだ!」


自慢げに言うフィーネ。それに対して、アルテナはさらに聞く。


「じゃあ 魔物の討伐以外には何をしてるの?」

「それ以外だと 村で困っている人の手助けをしてるんじゃないかな? わたしも詳しくは知らないけど……。」


それに対して、アルテナが不思議そうに聞く。


「アルドの普段のこと あまり知らないの……?」

「普段はお兄ちゃんが警備隊に行っている間は 家にいることが多いから……。」


少し考えてから、フィーネは、ぽつっとつぶやいた。


「お兄ちゃんって普段何してるんだろう……?」


すると、フィーネの様子を見たアルテナが突然言った。


「フィーネ! 今からアルドの様子をこっそり見に行かない?」

「えっ!?」

「そしたら 普段アルドが何してるのかわかるし! もちろん 邪魔しないようにするからっ! どうかな?」

「普段のお兄ちゃん……。」


少し考えてからフィーネは嬉しそうに言った。


「うん! そうしよう!」

「じゃあ さっそく行かなくちゃ! 案内お願いできるかな?」

「もちろん! こっちよ!」


そういって、フィーネとアルテナは笑顔で駆けていく。2人の様子を見てギルドナは踵を返した。


「にぎやかなことだな……。さて アルテナはフィーネに任せて 俺は先に帰るか。」


そういって、歩を進めようとしたギルドナを、アルテナが止める。


「何してるの! 兄さんも一緒に行くよ!」

「いや 別に俺は……。」

「つべこべ言わずに来るの!」


そういって、アルテナはギルドナを引っ張りながら、フィーネについていった。


>>>


 バルオキーに着いたフィーネ一行は、村長のもとへと向かった。


「おかえり フィーネ。おや そちらはお友達の方かの……?」


村長はフィーネの後ろにいる2人を見て言った。


「ギルドナだ。こいつは妹のアルテナ。」

「よろしく!」


ギルドナとアルテナは村長に挨拶した。続けて、フィーネが聞く。


「お爺ちゃん。お兄ちゃんがどこにいるかわかる?」

「あぁ アルドだったら アシュティアに頼まれごとをされておったの。」

「わかった! ありがとう お爺ちゃん!」


そういって、3人は勢いよく飛び出していった。


「またいい仲間が増えたんじゃな……。元気そうで何よりじゃ。」


村長は優しく、フィーネたちの後ろ姿を見送った。


 バルオキーの西側にあるアシュティアの家に向かうと、さっそくアルドの姿を発見した3人。急いで近くの植え込みに隠れる。アルドは仕事を終わらせてアシュティアと話しているようだ。


「運ぶものはこれで全部か?」

「そうよ。助かったわアルド!」

「困ったときはお互い様だからな。」

「いつもありがとう アルド。だけど たまには自分の時間も大切にしなさいよ?」

「ありがとう。仕事も片付いたし せっかくだからそうさせてもらおうかな。」


そういって、少し考えた後、アルドは北の方へと向かっていった。

3人はアルドが行った後に植え込みから出ると、アルテナは言った。


「警備隊はああいった仕事もするのね!」

「相変わらず お人よしなことだ。」


ギルドナも続いていった。


「でも お兄ちゃんいったいどこにいったんだろ……?」


フィーネは不思議そうな面持ちだ。


「確か 北の方に向かったよね。行ってみよう!」


そういうと3人は北へと向かった。


>>>


 3人が追いかけていくと、そこにはアルドと一匹の猫がいた。早速3人は近くの木の陰に隠れた。


「やあ ランジェロ。元気にしてたか?」


ランジェロはニャーと一鳴きして、アルドにすり寄ってきた。


「元気そうで何よりだ。」


アルドは片膝をついてランジェロを撫でながら、ふいに穏やかな顔になって続けた。


「オレたちが旅に行ってるから 寂しいかもしれないけど バルオキーに戻ってきた時はヴァルヲのこと よろしく頼むよ。」


ランジェロは何も言わず、しっぽをゆっくりと振った。


「あっ でも喧嘩はやめてくれよ?」


ランジェロは、こちらを見てから丸くなった。どうやら眠ってしまったようだ。

アルドはランジェロを優しく撫でると、立ち上がって少し考えてから、西の方へと歩き出した。

 3人は木陰から出てきた。フィーネは優しい顔でアルドの後ろ姿を見つめている。そんなフィーネにアルテナは聞いた。


「あの猫 ランジェロってアルドは呼んでたけどどんな子なの?」

「ランジェロはいつもお兄ちゃんが連れてる猫のヴァルヲとお友達なの。でも 顔を合わせると毎回けんかしてて……。」


フィーネは我に返ったようにして言った。


「そうなんだ……。そんなランジェロにあんなことを……。優しいね アルド。」


アルテナは微笑ましそうに言った。


「とりあえず 後を追ってみよう! 多分月影の森に行ったと思うから!」


そういって、フィーネたちは走っていった。ギルドナは2人を横目に、ランジェロへと向きを変えて、一撫でした。


「お前たちのことはわからんが あいつの頼みだ。仲よくしてやれ。」


独り言のように言ったギルドナは、向きを変えて走っていった。


>>>


 月影の森へとやってきた3人。


「かなり奥まで来たけど どこに行ったんだろ……?」


フィーネは少し息を切らしながら言う。


「いた! あそこ……!」


アルテナが指さす方に目をやると、アルドが立っていた。例にならって近くの木陰に隠れる3人。


「懐かしいな ここ。」


誰に言うでもなく、アルドはつぶやいた。木々は静かに葉っぱを鳴らしている。空を見上げながらアルドはさらに続けた。


「あの時はフィーネを助けるのに必死で どうなるのかもわからない状態で ヴァレスを追いかけたっけ。」


目を閉じて深呼吸をする。草木の薫りが体を巡っていく。


「そしたら 光る穴が出てきて 吸い込まれて 気付いたら雲の上の知らないところで……。」


目を閉じたまま、しばらくして口をまた開く。


「でも そのおかげで知らない土地に行って 色々なものに触れて……。そして たくさんの仲間に出逢えた。」


目を開いたアルドの眼は少し潤んでいた。


「ここからオレたちの旅が始まったんだな……。」


木陰にいたフィーネとアルテナの眼も潤んでいた。

すると、とっさにギルドナが叫ぶ。


「魔物だ……! アルドの方へ向かっている! お前たち 行くぞ!」


いち早く姿をあらわしたギルドナに、アルドは驚きを隠せなかった。


「ギルドナ……!? どうしてここに……?」

「話はあとだ! 今は目の前の敵に集中しろ!」


遅れて入ってきたのはフィーネとアルテナだ。


「フィーネにアルテナも……!」

「せっかくの雰囲気を台無しにして……。許さないんだから……!」


>>>


 こうして、フィーネとアルテナの弓と術に続いて、アルドとギルドナの剣が魔物を貫き、魔物はその場に倒れた。


「何とか終わったか。」


ギルドナが剣を納める。


「ありがとう みんな。でも なんでこんなところにみんながいたんだ?」

「それは……。」


言いにくそうなフィーネを見て、ギルドナが口を開いた。


「お前が普段は何をしているのか 気になってな。俺たちがいると こちらに気を遣うと思ったが故の行動だ。」

「ごめんね お兄ちゃん……。」


それを聞いたアルドは笑って答えた。


「なるほどな! でも そんなに気を遣っている気はないんだけどな……。」

「まあ 改めてお前はどこにいっても お人よしだということがよくわかった。」


ギルドナはアルドに苦笑交じりで言った。


「でも 普段のお兄ちゃんがみれて 嬉しかったよ!」


フィーネは嬉しそうにそういった。それを見たアルテナも嬉しそうだ。


「そうだ! 今日はオレたちの家に来るといいよ! 爺ちゃんもきっと喜ぶさ!」


アルドの提案に3人も賛成のようだ。月影の森を後にしようとするなか フィーネはアルドの後姿を見ながらひとりささやいた。


「お疲れ様……。そして ありがとう。わたしのアルドお兄ちゃん……。」

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