第15話 忍ばない冒険者の日常
僕ら三人は今、ダンジョンの五階層にいる。
エリーはCランク。
僕はDランクに上がったから、二人だとパーティーのランクもC扱いとなる。
ちょっとくらいは骨のあるクエストに挑めるだろう。
だが、シャノワはEランクなのに加えて、新しく登録したばかりの新人冒険者だ。
その中身は得体の知れないどこから来たか、分からない黒い獣だろうが、見た目は非力で庇護欲をそそるような華奢で小柄な少女に過ぎない。
つまり、僕らが受けられるのは当面、パーティーランクがEということになる。
この場合、残念なことに十階層に降りることすら、出来ない。
ダンジョンは無謀な挑戦で犠牲者が出ないようにギルドの方が入場制限を行っているのだ。
十階層まで行きたければ、最低でもDランクまで上げてなければならない。
諦めて、五階層までで受けられるような簡単な討伐クエストでもしておけ、雑魚どもということらしい。
「難しいね。首の皮一枚は難しい」
あれから、ひたすら首の皮一枚を残して、首を飛ばす練習をしている。
どうにもうまく、いかない。
今のゴブリンで何匹目だろうか?
もうすぐ百匹くらいじゃないだろうか。
「ファルコ。お姉ちゃん、暇なんだけど」
「
左方向から、曲刀を振りかぶってきたゴブリンに即座に反応し、軽く回し蹴りを無防備な首に向け、放ってみた。
メキャという嫌な音がして、僕の足先が触れたその首はあらぬ方向に曲がり、物言わぬ死体となったゴブリンはそのまま、ゴロゴロと地面を転がりながら、飛んでいく。
足でやるのは手でやるのより、ずっと手加減が難しいようだ。
手だとまるで刃物のようにスパッと切れるんだが、足だと単純に力業になってしまう。
下手すると獲物に穴を開けちゃうし、変な損傷を与えちゃうから、問題あるんだよね。
細かいところでクエスト報酬に絡んでくるからなぁ。
「ワッターシの力は簡単にお見せデキマセンよ」
ニタァと気味の悪い笑みを浮かべるシャノワはいつもと変わらないミニスカートのように短い裾のメイド服に身を包んでる。
おまけにわざとらしい片言を使うとか、本当、得体の知れないやつだよ。
「私は何デモ出来るけど何ニモ出来ないんですヨ。ダカラあなたを支援スルノです」
つまり、シャノワの言いたいことはこういうことらしい。
このパーティーは前衛が僕だけで後方からの支援がエリーとシャノワ。
『積極的に戦いません』と宣言したのだ。
この腹黒猫は!
だがそれでいいとも思ってる。
僕の戦闘力はかなり高い方だろう。
武器を何も持たないで素手で金属を貫けるし、切断が出来る。
多少の衝撃では掠り傷くらいしか負わない身体だし、筋力や瞬発力も尋常じゃない。
だけど致命的な弱点は精神に作用する魔法に滅茶苦茶、弱いってことだ。
この弱点のせいでリザードマンとの戦いの時に思わぬ不覚を取った。
シャノワはこの弱点を補ってくれるようだ。
エリーは支援魔法にあまり詳しくないので、戦闘中に僕のサポートが出来ない。
シャノワはそれが出来ると言う。
「まぁ、期待してるよ、シャノワ」
「お任せクダサイよ」
今のところ、敵がゴブリンだけだから、魔法が飛んでくる前に全て、片付いてる。
そのせいでシャノワがしてくれる支援を実感は出来てない。
「二人だけでずるいわ。お姉ちゃんも混ぜなさい」
「「あっ、はい」」
後方で見ているだけでフラストレーションが溜まってたんだろうか。
エリーがモルゲンシュテルンをブンブン振り回し、ゴブリンが哀れな肉塊に変わっていく。
信じられる?
あれで徳の高い聖女様なんだから。
「叩き潰すから、勿体ない」
「ソウデスネ」
報酬が幾らか、減ってしまうことを残念に思いながらもどことなく、楽しそうなエリーを見ているとポッカリと開いた胸の穴がふさがったような不思議な気分に浸れる。
これでいいんだよね、おやっさん。
脱いだ方が強いので自重するのやめました 黒幸 @noirneige
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