惑星キプァロイ周辺で、謎の本を発見(その2)
あ。
あー、あー。
入ってんのかな。わかんないな。
はい、ええと、改めまして、ァ*ピニァ*ユペです。
前回は『バーンアウト・コメットレース』という小説を翻訳にかけたところで終わったけど、今はもう翻訳は終わって、自分でも最後まで読みました。
いや~……、
おもしろかった。
描写や展開の丁寧さと、終盤のスピード感を両立してて、すごかった。
特に、クライマックスだよね。
ボク、慣性制御が甘いオンボロな高速宇宙舟に乗ってぐおんぐおん振り回されたことがあるんだけど、例えるのなら、そんな感じの読書体験だったな。
……例え、ヘタ?
じゃ、内容を紹介しつつ、感想を散りばめていくね。
序盤の舞台は惑星キプァロイ。
現実のキプァロイは、生命がほとんど住めない星になってしまっているけれど……この物語では、命あふれる水の星として描かれてる。
実際、そういう星だった頃もあったみたい。ライブラリーに、そう書いてあった。
序盤で主に活躍するのは、当然、キプァロイ星人。
キプァロイ星人は十一本の脚を持つ多足種で、母星を愛しながらも宇宙進出もどんどんしている元気な人たち。まあ、現実では、彼らは環境が変化しすぎた母星を捨てて、銀河じゅうに散ってしまったらしいんだけど……。
主人公は、メェロ海にある海上街〝メェロヒア〟で巫女さんをやっている、ミリイ*シャリンザちゃん。
この子は、海上街の一区画に住む、幼い子供たちに慕われるお姉さんで……優しいけど、ちょっと天然なところがある。
得意なことは、料理、背泳ぎ、柔軟体操。
そして……〝世界の声〟を聞くこと。
本作を読む前に、惑星キプァロイについての文献に軽く目を通したんだけど……
キプァロイ星人は、聴知覚において異次元的な能力を持っていたみたい。
たとえば……言語を解さないはずの動物の声が聞こえたり。
すごいのだと、命がないはずの岩からも声を聞けるという人も一定数いたんだって。
キプァロイ星人にとっては、何か不思議なものの声を聞くというのが日常茶飯事で……、
ただ、人によって、聞ける声は数種類から数十種類に限られていたらしい。
でも、本作のミリイちゃんは、森羅万象すべての声を聞ける。
小鳥からも、船からも、海からも、暗がりからも、あらゆるものからいろんな声を聞けるんだって。
なんだか……エルメオミュア星人のボクは「えっ!」って思うけど、この設定、キプァロイ星人には受け入れられやすかったのかも。
そんなミリイちゃんなんだけれど……、
海上街の若者たちの例に漏れず、都市の外への憧れを持っていた。
風や渡り鳥から大陸の話を聞くたびに、ミリイちゃんはまだ踏みしめたことのない大地というものを想像した。
恒星の光から宇宙の話を聞くたびに、遠い空へ飛んでいくロケットの行方を想像した。
異なる星の、二本しか脚のない知的生命体と挨拶する自分を、想像した……。
このへんは、読んでて、ドキッとしちゃった。
ボクも、二本脚の知的生命体だから。
まあ、さすがに作者もエルメオミュア星人がこの小説を読むことは想定してなかったと思うんだけどね。ふふ。
とにかく……
ミリイちゃんは、ちょっと夢見がちなところのある、可愛い女の子なんだよね。
それでね。そんな中で、大陸から宇宙省の公務員さんがやってくるんだ。
レミュエッタ*メヵム。
スペースレーサーになるという夢を諦めて、オフィスワーカーになった女性。
これは現実でもそうだと思うんだけど、スペースレーサーになるには特殊な厳しい訓練が必要なうえ、一握りの天才しか生き残れない、過酷な道らしい。
レミュエッタさんは訓練は受けたんだけど、最初の方に怪我で脱落しちゃって、後遺症で足を引きずりながらも宇宙省で仕事をしている。
「諦める時は案外すんなり納得できたよ。わはは……」というのは、実際に本文にあったレミュエッタさんのセリフ。
人当たりが良くて、いつもカラッと笑っていて、でもたまに少し、陰がある。
そんな人。
彼女がわざわざ辺境の海上街にやってきたのは、もちろん理由がある。
それは……〝バーンアウト・コメットレース〟の出場レーサーを探すため。
アシャラティオ銀河最速のスペースレーサーを決める祭典、それが、バーンアウト・コメットレース。
もちろんこれは著者の創作で……まあ、現実にも、エチェリエリューテ星系最速のスペースレーサーを決める大会とかあったけどね。
本作のレースは、三兆第三宇宙距離の超長距離で、最終生存率四割の超難度で、光速を超えるほどの超高速レース。
優勝者や入賞者には、栄誉とか賞金とか地位とか物品とか、その他もろもろの特権が与えられる。
でも、出場レーサーたちが欲しているのは、全力でかっ飛ばしても銀河警察に怒られない、このレースそのものなんだって。
スピードジャンキー、ってやつだ。
惑星キプァロイは、レースに優勝することで銀河内での地位を上げるため、才覚ある者を血眼になって探す。
切り札である〝アビスダイバー〟を乗りこなせる〝適合者〟を。
アビスダイバー……
惑星キプァロイには実際に、遥か海底で栄華を極めた超古代文明の伝説があったそうなんだけど、本作においては、超古代文明は本当に存在したことになってる。
アビスダイバーはその失われた海底文明の遺跡で発見された、陸海空・全環境対応型の、戦闘機みたいな形のすごい乗り物。
そしてそれは、驚くべきことに、宇宙空間でこそ真価を発揮する設計になっていたんだ。
とはいえ、操縦方法は不明。
普通の人が搭乗しても、操縦者と機体の適合率を表すとされるメーターがほとんど動かず、機体の方も勝手に動かなくなっちゃう。
世界の声を聞く夢見がちな巫女のミリイちゃんと、夢を諦めて地に足をつけた公務員のレミュエッタさん。
ふたりは海上街の〝パラソル区〟にあるジュース屋で偶然、出会うんだ。
ミリイちゃんが、街を案内しますねと申し出て、レミュエッタさんは、そういうことならお願いするよと脚を鳴らして肯定を示す。
ふたりは、街を歩く中で、少しずつ互いの人となりを知っていく。
そうして、ミリイちゃんの名前を聞いたレミュエッタさんは、すごく驚くんだ。
失われた海底文明の巫女と、同姓同名じゃあないか、って。
大陸では、超古代文明についての研究が進んでいて、海底文明の謎も解明されつつあった。
その過程でアビスダイバーも発見されたし、解読された古代文字から巫女の名前もわかってきていた。
レミュエッタさんは、彼女ならもしかすると、と思う。偶然の一致の可能性はあるけれど、アビスダイバーと縁のある者なのかもしれない、ってね。
でも、それ以上に……、
レミュエッタさんから見たミリイちゃんは、眩しかった。
大陸や空や遥か宇宙への憧れを語るミリイちゃんにかつての自分を重ねたんだよね。レーサーになりたかった頃は、ミリイちゃんのように自由を手にして飛びたがっていたから。だから、レミュエッタさんはミリイちゃんに自分の目的を明かし、アビスダイバーに乗ってみないかと提案する。
その時だったんだ。
物語が、動く。
海上街メェロヒア上空に、謎の飛行物体が浮かんでいる。それは立方体の形をしている。何かを伝えてくるでもなく、不気味に街を見下ろしている。騒がしくなる街。謎の立方体はどんどんと空から現れ、遂には、街を攻撃し始めた。立方体の放つ黒い光に当たった物質は跡形もなく消えてしまう。
街は、街自体が要塞となるよう造られている。巨大な砲塔が一斉に立方体に狙いを定め、砲撃を放つ。だけど無駄だった。砲撃は立方体に吸い込まれて消え、何の手応えもない。
やがて攻撃はミリイちゃんの住む〝こま区〟の方角に向き始める。逃げ惑う人々。為す術もなく星に祈る子供たち。圧倒的な暴力の前に、ミリイは無力だった。涙を流しながら、それでもみんなを助けたくて、闇雲に走り続ける。
その時、天と地のすべてを聞き取るミリイの聴覚が、何か、古い……太古の昔の声を聞く。
超古代文明の遺産。巫女の血統にのみ適合するもの。
アビスダイバー。
「私に乗れ、大海の巫女よ」
導かれるままに、ミリイはその舟と邂逅する。
遙かなる時を超え、巫女の手が操縦桿を握る。
適合率……1014%!
それからの空戦はすごかった~……! 立方体を次々と駆逐し、蒼空を飛翔するアビスダイバーとミリイちゃん。それを見上げて、自分でも理由がわからないままに泣いてしまうレミュエッタさん……。最高のクライマックスだったね。一気に心を掴まれちゃった。
…………。
夢、か。
きっとミリイちゃんは、夢を叶えるために飛び続けるんだろうなって思う。
……ボクは今、ムーンバードで宇宙を飛んでいるけれど……、
この小説を読んでる時にボクが感情移入したのは、空を飛ぶミリイちゃんじゃなく、レミュエッタさんの方だった。
ミリイちゃんが、必死で、だけどどこか楽しそうに空を飛びまわるのを見て……
うらやましいって、ちょっと思った。
忘れていた感情だったから。
もう届かない感情だと……思うから。
そんな、やりきれないような気持ちになったボクの前で……
レミュエッタさんが、泣いてくれた。
ボクの代わりに泣いてくれたんだって、なぜか、そう思ったよ。
物語上の存在なのに、ね……。
でも……、
それが物語の力なのかもなって、思ったな。
襲撃を退け、街のみんなに英雄扱いされるミリイちゃん。
彼女は宴を抜け出して、レミュエッタさんと言葉を交わす。
ここで、あらすじにもあった名言。
「わたしは飛ぶよ、レミュエッタ。そのために、生まれた気がする」
そして、レミュエッタさんの一言。
「ミリイ*シャリンザ。きみを飛ばそう。宇宙の果てのどこへでも」
あー面白かった。
第一巻の内容はここまで。
本格的なレースバトル展開は、第二巻から始まるみたい。
デブリの中に発見したボックスの中には、ちゃんと二巻以降も入っていたよ。
これから読むのが楽しみだな。
でも、ひとつだけ、謎がある。
どうしてこんな宇宙空間に、ボックスが漂っていたんだろう?
宝石でデコってあって、宇宙空間でもきらきらと輝いていた、ボックス。
近寄って見れば、綺麗で、目立っていた。
この本をボックスに入れた人は、何を考えて惑星キプァロイの宇宙に放り出したんだろう。
ひょっとして……
待っていたのかな。
誰かに見つけてもらえるのを待っていたのかな。
茫漠たる宇宙の闇の中で……どれだけの時間、漂っていたのか、わからないけれど。
見つけてくれた人が、読んでくれるのを、待っていた。
きっと……この本が好きで、誰かに読んでほしかったんだね。
広い宇宙の、彼方から……
ボクが確かに、受け取ったよ。
ありがとう。面白かった。
読書って、楽しいんだね。
……けほけほ。
喋りすぎて、喉が痛くなってきちゃった。
今回はここまでにしようかな。なんだか楽しかったし、次は別のテーマで、なにかしらを語っていこうかなって思うよ。
じゃあ、このへんで。
ブルーストーン、発信終了。
ほしぼしを、わたるたび かぎろ @kagiro_
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