ほしぼしを、わたるたび
かぎろ
惑星キプァロイ周辺で、謎の本を発見(その1)
……ん。
えー、こんにちは。
…………。
声、入ってんのかな。
入ってると信じて喋ります。
ボクの名前は、ァ*ピニァ*ユペ。
今日からブルーストーンでボクの声を発信していきます。
あー……。
ええと。
最初から説明……は長くなるから、かいつまんで基本的な情報を言っておくと……
現在、ボクは宇宙舟〝ムーンバード〟に乗って宇宙を旅しています。
目的は……はっきりしたものはないんだけど。旅自体が目的というか。綺麗なものを探したい、みたいな。
エチェリエリューテ星系の、惑星エルメオミュア出身。
故郷の話は……あんまりしたくない、かも。
一応、銀河標準語で喋るけど、下手なのはご愛嬌ということで……。
旅を始めて、今日で百三十日めになる。
ムーンバードは宇宙空間のダークマターを取り込んで推進力に変えるから、燃料不足の心配はないんだけど……食糧とかは、ちょっと困った。
一応、少ない素材からでも宇宙食を生成できる装置はあるけど、だんだん、飽きてくるんだよね。
そんな時は、いくつかの小さな星を見て回って、大丈夫そうならたまに着陸して。
現地に人がいれば、すこしだけ食べ物を分けてもらったり。まあ、ボクが食べられるものっていうのは、なかなかないんだけれど……。
あと、訪れた星の写真を撮ったり……星を去る時には、記念に、詩をつくったり……。
……みたいな内容の日記を、最初は電子メモに書いていたんだけれど……それじゃ物足りなくなっちゃって。
宇宙空間に、ボクの音声を含んだ信号をてきとうにばらまいていくことにしました。
ブルーストーンのような専用ツールがあれば、信号は読み取れるはずだけど……
…………。
後で恥ずかしくなったら、やめよう……。
……ええ、と。
今日は惑星キプァロイの残骸圏で、変なものを見つけたんだ。
そのことを、話すね。
見えるかな。
ブルーストーンの撮影機能で、ボクの手元を映しているんだけど。
これは、既に死の星になったキプァロイの周辺を飛んでいた時に、偶然見つけたもので……宇宙線や恒星風とかから守るためのボックスに入ってた。
ボックスには、宝石みたいな装飾が散りばめられていて……、
宇宙空間に浮かぶたくさんのデブリの中でも、不思議と惹かれるものを感じた。
それで、回収してみたボックスの中に、これが入っていたんだ。
最初に見た時、ボクは、あっ、と思ったよ。
これと同じものを、学校の歴史の授業で見たことがある。
ボクのいた惑星でも、大昔には、こういったものが娯楽として用いられていたらしい。
今はブルーストーンの一部機能に取って代わられた、文書を読むための紙の束。
うん。
これは、本、で間違いないと思う。
表紙には、本の題名と、イラストが描かれてる。
題名は、キプァロイ語で読めないな。さんかく、とか、しかく、みたいな形の文字だ。
イラストは、白背景に、変わった装いの人物がひとり。
その人物は、ボクのようなエルメオミュア星人と同じように、単頭種で、二本腕なのだけど……なんか、脚はいっぱいある。
十本くらいあるんじゃないかな、これ。ちょっとヌメッとしてるし、這うように歩く感じなのかな。
まあ多足種は珍しくはないけど。
でも、肌の色が水色っていうのは、意外と見ないかも。
どんな内容の本なんだろう。
……あ、解析が終わったみたい。
ブルーストーン、結果を出して。
title:バーンアウト・コメットレース① ~邂逅~
author:シャェル*アィア*アキャルキヲ
label:モョミア・ンシ文庫
ふむふむ。
察するに、雑誌とか実用書とかではなくて、空想の物語の書かれた小説みたいだ。
著者はキプァロイ星人だろうね。
ブルーストーン、あらすじは?
outline:
バーンアウト・コメットレース。それはアシャラティオ銀河のナンバーワン・スペースレーサーを決める、超長距離・超難度・超高速のスペースレースである。13アヶ後に迫ったレースに向けて、各星は代表選手の選抜のために奔走していた。
キプァロイで宇宙省に勤める女・レミュエッタ*メヵムもまた、広大な母星のどこかに住まう〝適合者〟を探してメェロ海の海上街を訪れていた。こんな辺境に適合者がいるはずがないと半ば諦める彼の前に現れたのは、森羅万象と心を通わす優しき少女。レースのための知識などなく、マシンを触ったことすらなかった彼女は、失われた海底文明の巫女と同じ名前、〝ミリイ*シャリンザ〟を名乗り――――!?
「わたしは飛ぶよ、レミュエッタ。そのために、生まれた気がする」
メェロヒアの巫女が祈る時、宇宙の闇を、光が裂く。銀河最速を決める異次元のレース、これはその序章である。
……うん。
キプァロイの言語データがライブラリーに残っていて助かった。銀河標準語への翻訳もだいぶスムーズだ。
さて……
スペースレースを描いた小説作品なんだね。
バーンアウト・コメットレース……なんだか、わくわくする響き。
きっと、白熱したレースバトルが繰り広げられるんだろうな。
でも、これは第一巻みたいだし、この巻だけでレースバトルを楽しめるものなんだろうか。
わからないけど、読んでみたいな。
とりあえず、全文を翻訳にかけてみよう。ここをこの値に合わせて、と……。
うん、数分で終わるみたいだ。
翻訳が終わって小説を読み終わるまで、発信は一旦切るよ。
次回発信する時、小説の内容と感想を語っていこうかな。
じゃあ、このへんで。
ブルーストーン、発信終了。
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