第4話 万年筆を求めて

 ★AD300年現代、緑の村 バオルキー。

 時を越え、一番近い村に来たアルド。久しぶりの故郷に安堵を覚える。

 村についてすぐ、アルドはリィカに向き直った。


「リィカ、詳しい場所を頼む」

「了解。映像データを再度確認、類似する場所をピックアップしマス」


 リィカはツインテール部分を回転させて情報の整理を行う。

 少ししてからリィカは動きを止め、アルドに視線を向けた。


「わかったのか」

「ハイ。ですガ、可能性のある場所ハ複数、存在しマス」

「……焦ってもしょうがない。一つずつ回ろう」

「了解デス」


 2人で話していると、通りの奥から一人のおばさんが歩いてくる。


「あら、アルドじゃない。元気にしてた?」

「もちろん。おばさんこそ元気だったか」

「見ての通りさ。ところで、何か困っているでもあるんじゃないかい」

「どうしてだ」

「そりゃあ、難しそうな顔で話してるから」

「おばさんは鋭いな。実はちょっと探し物をしてるんだよ」


 アルドは触りがない程度に事情を説明した。

 おばさんは考える素振りを見せ、思い出したように口を開く。


「青い万年筆なら、最近拾ったっていう人を知ってるわ」

「え、本当か!?」


 既に拾われている可能性は十分にある。アルドは距離を詰めて意気込む。


「その人は村にいるんだよな」

「ええ、村に住んでる人だからね」

「今どこにいるんだ?」

「さあ。あたしも親しいって訳じゃないしさ」

「わかった。後は自分で探して見るよ」

「そうしておくれ」


 アルドはおばさんと別れ、万年筆を拾ったという人物を探して歩き出した。

 歩き慣れた故郷の道を進みながら人を探す。視界に写る人々がアルドに気づいて挨拶してきた。

 通りを歩いている青年に声をかける。


「万年筆を拾った男? 知らないなぁ」

「そうか、ありが……」

「いや、ちょっと待てよ。ひょっとしてアイツか?」

「え、知ってるのか」

「うーん。この前、酒を飲みに行った時にんな話をしてたよな……」

(よく覚えてないようだな)


 次は丘のほうにいた女性。


「その人なら、いつも忙しそうに走り回ってる人だと思うわ」

「なら今どこにいるか探すのは難しそうだな」

「私も彼が今どこにいるかは知らないわね」


 最後ははずれの井戸の近くにいた少年だ。


「ああ、兄ちゃんなら村長の内に行ったぜ」

「爺ちゃんの所にいるんだな。ありがとう」


 アルドは少年と別れて村長の家(アルドの実家)に向かった。

 村長の家は村の中心にある。扉を開けて中に入るが、村長以外誰もいない。


「おお、アルド。お帰り」

「ただいま。あのさ、ここに誰か尋ねてこなかった?」

「デリクの事か。彼なら少し前に出て行ったぞ」

「ええ!?」

「デリクに用があったのか」

「ああ。彼がどこに行ったが聞いてない? 爺ちゃん」

「ふむ。確か武器屋に行くと言っていたかな」

「武器屋だな。ありがとう、爺ちゃん」


 アルドは村長に会釈して家を飛び出した。急がないとまたどこかに行ってしまう。

 走って武器屋まで行き、勢いよく扉を開けて店内に入る。目の前に店主と話している青年=デリクの姿を発見。

 アルドは歩み寄ってデリクに声をかける。


「君がデリクだな」

「確かにボクはデリクだけど何かかい」

「最近、万年筆を拾わなかったか」

「万年筆……これの事だよね」

「それだ。ちょっと見せてくれ」

「いいけど」


 アルドはデリクから万年筆を受け取った。

 確かに万年筆の本体は青い。だが、金具は銅色で猫の模様がない。本体事態も土で汚れてはいるが新品同然だった。


「どうやら探している物とは違うみたいだ」

「へぇ、そう」

「ああ。これは返すよ」

「どうも」


 アルドは万年筆を返す。デリクが万年筆を探してるのか、と聞いて来たので簡単に事情を話した。


「無事に見つかると良いね」

「ありがとう。頑張るよ」


 彼らと別れ、その場を後にする。

 武器屋の外で顎に手を添え、アルドは考えた。


(まあ、そう簡単には行けないと思ったが。期待していただけに少し堪えたな)

「気を取り直して他を探しに行くか」


 アルドは村を離れて次の場所へ向かう。



 ★AD300年現代、○○○(場所名・町や里)。

 和風な感じの建物が並ぶ場所。人々が往来している中を歩くアルドは、残る万年筆の行方を求めて情報収集する。

 リィカの解析で判明した場所の共通点は「和風」な感じである事。


「俺が知る限りだと、リィカが教えてくれた場所と特徴が合うのはこの辺りなんだけど……」

「んん~。やっぱり舶来物はいいわぁ」

「異国の文化って、変わってるけど素敵よね」

「ええ。こっちでは見かけない柄や飾りが凄く映えるもの」


 通りかかった娘達の会話が聞こえて来る。娘の手には舶来品の小物が握られていた。彼女達の服装とはまるで違う文化を感じる品だ。

 そのうちの1人が持っている物が目に留まる。


「ちょっといいか?」

「何よ、突然」

「ごめん。その手に持ってる物が気になって……どこで手に入れたんだ」

「この万年筆の事? この先の舶来品を取り扱ってる市場よ」

(買ったばかりか。なら、多分違うな)

「今日だけの限定販売なの。欲しいなら急いだほうがいいわよ」

「あ、ああ。ありがとう」


 少々思案していたアルドに娘達がつけ加える。

 娘達が歩き去って行った後、アルドは教えて貰った市の方角を見据えた。


「まさか商品の中に紛れてるとは思わないけど、一応確認しておくか」


 もしかたら売り物になくても、手がかりが見つかるかもしれない。そう感じたアルドは舶来品を販売する市場を目指した。



 広い場所に設けられた市場を訪れるアルド。いろいろな舶来の品が軒に並んでいる。大勢の人が行き交う中を歩き、店の人やその客に声をかけた。


「すみません。銀の金具と猫の模様が入った青い万年筆を探してるんだ。どこかで見かけなかったか」

「猫柄ね……万年筆なら向こうの店で売ってるみたいだったけど」

「誰かが拾ったとか、些細な噂でもいいんだが」

「うーん。悪いね」

「そうですか」


 アルドは話していた男と別れ、教えられた店も見に行ってみる。


 ★AD300年現代、店。

 入手した情報を頼りに、舶来品や骨董品を売買している店を訪れるアルド。店内には、地方の文化を感じさせる珍しい物品が陳列されていた。

 アルドは奥のカウンターにいた店主に話しかける。


「ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「いらっしゃいませ。当店は珍しい品々を取り揃えております。本日はどのような物をお探しでしょうか」

「いや、そうじゃなくて万年筆の話なんだ」

「万年筆ですね。それでしたらこちらに……」


 店主が棚から複数種類の万年筆が入った箱を取り出す。中身が見えるように蓋を開き、丁寧にカウンターテーブルに並べていく。


「どうです。なかなかに綺麗でしょう? こちらの品はさる有名な……」


 品物の解説をし始める気配を匂わせる店主。このままでは長話につき合わされそうだ。アルドは強引に話に割り込んだ。


「すみません。俺は知人が失くした万年筆を探してるんです」

「え?」

「この近くで、万年筆について何か聞いたり見たりはしてないですか? 些細な噂でも構わないんだが」

「なんだ、客じゃないのか……。で、失くし物だっけ。確か○○街道で最近変な物が降ってきたとか聞いたような」

「それは本当か!? それで降ってきたというのは万年筆だと?」

「あくまで噂ですけどね。ウチで扱ってるのは違う万年筆を拾った人がいるとか」

「いいや、十分だ。ありがとう」


 アルドは気落ちしている店主に礼を言って店を飛び出した。



 ★AD300年現代、街道。

 紅葉が美しい道。どことなく和風な感じがする。落ち葉が散りばめられた道を進み、万年筆を持っているという人物を探す。

 茶屋の辺りまで来た時、アルドは騒々しい声を聞く。


「それで、だ。ボクが紅葉狩りで空を見上げた時、天空から輝かしい光を放って降りてきた物がこの万年筆だったのさ!」

「わぁ、凄い。ロマンティック~」

「ふふふっ、この万年筆は選ばれし者の手に舞い降りた奇跡のペンなのだ」

「なんだか凄まじい話というか、妄想だな」


 古びた万年筆を天高く掲げて高笑いをしている若者。


(遠くてここからじゃ目的の物かわからないな)


 アルドは楽しそうに話している一団に近づいていく。


「万年筆を拾ったというのは貴方か?」

「んん? キミも僕の武勇伝を聞きたいのかい」

(いや、さっき聞こえたアレは武勇伝じゃないだろ)

「そうじゃなくて実は……」


 アルドは若者に事情を話す。


「という訳で、万年筆をちょっと見せて貰いたいんだ」

「うーん。仕方ないなぁ」


 若者は少々渋った後、素直に万年筆を見せてくれた。アルドは受け取ったソレを確認する。

 万年筆はかなり古びていたが、柄の部分がネイビーで模様はなかった。金具は銀。よく似ているが違う。


「悪かった。どうやら違うようだ」

「そうなんだ。じゃあ返して貰うよ」

「もちろん」


 アルドは若者に万年筆を返却した。


「しかし、こうなるとどこを探したらいいか」


 リィカが得た情報の場所は大方調べた筈だ。本当にどこに行ってしまったのだろう。

 アルドは頭を悩ませた。


「他に心当たりがないのかい? だったら神頼みしてみると良いかもね」

「神頼み?」

「そうさ。猫の神を祀っている神社があるんだよ」

「確かに。猫は時空を越えるって話を聞いた事があるし、頼んでみたらどうかしら」

「そうだな。ちょっと行ってみるか」


 アルドは若者と女性に別れを告げて歩き出した。



 ★AD300年現代、神社。

 アルドは教えて貰った神社に足を踏み入れる。和風な佇まいの境内を歩き、本殿の前までやってきた。


「神頼みっていうのもどうかと思うが、ひとつ頼んでみよう」


 お賽銭を入れて手を合わせる。


「…………何も起きない、よな」


 あまり期待はしていなかったが、やっぱり無理か。そう諦めて立ち去ろうとした時――。


「ん、なんだっ」


 背後から光を感じ振り返るアルド。小さな光は一瞬だけ眩いほどに輝き、一点へ集まっていく。

 やがて光が止み、猫の形をとった何かが目の前に出現した。


「これは……猫、だよな? 本当にいたのか」

『ニャア~』

「どうしたんだ」

『ニャッ』

「もしかして願いを叶えてくれるとか?」

『ニャニャアー!』

「よくわからないけど、そうらしいな」


 現れた猫らしき存在は、もう一度高らかに鳴き声を上げる。猫の前に光が出現し、中から一本の万年筆が出現した。

 猫らしき存在に促され、アルドが地面に置かれた万年筆を拾い上げる。


 手に取った万年筆を確認した所、青い柄に金の金具、猫の模様が描かれた万年筆。大分使い込まれた感じもある。

 よく見たら柄の端っこにイニシャルらしき文字が記載されていた。


「文字については聞いてなかったがコレっぽいな」

『ニャーオッ』

「えっ、どうしたんだよ」

『ニャ~』

「ひょっとして間違えてないっていいたいのか?」

『ニャンッ』


 どうやらそうらしい。猫らしき存在は力強い声で答える。

 アルドは「大切な万年筆」を入手した。


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