第5話 トキワタリの正体

 ★AD1100年未来、○○○(場所名・町)。

 再び依頼人のもとに戻って来たアルド。男性の姿を発見し、近寄って声をかける。

 男性は出かける所だった様子で大荷物を抱えていた。


「こんにちは」

「やぁ、君達か。どうだった?」

「無事見つかったよ。これを」


 アルドは依頼人の男性に回収してきた品々を手渡す。男性は品物を受け取り確認すると笑顔になった。


「間違いない。ありがとう」

「どういたしまして。……ところで出かける所だったのか?」

「そうなんだよ! 実はトキワタリに関する情報を入手したんだ!」

「ほう、ならこれから確認しに行く訳か。けど、随分と大荷物だな」

「これは自衛のためさ。これから行く所は○○○だからね」


 場所を聞いたアルドは驚く。それって凄く危険な場所じゃないか。見た所、とても戦えるようには見えないし心配になる。

 男性は手に入れた情報を確かめたくて仕方ない様子で、護衛を雇うという発想が頭から抜け落ちていた。

 アルドは考える間もなく男性に提案する。


「なぁ、その調査に俺もついて行ってかな。必要なら護衛するよ」

「ああ!? 護衛の事をすっかり忘れてた。……よろしくお願いします」


 意外と猪突猛進そうな男性の了承を得て、アルドは護衛を務めるため一緒に行くことになった。

 まずは、男性が言っていた○○○を目指そう。



 ★AD1100年未来、ドーム。

 男性の指示でドームにやって来たアルド。


「ところでこの先はどこに向かえばいいんだ?」

「えっと、どこだったけかな」

「おいおい……」

「ごめん。慌てて出てきたから確認してなかったよ」

「はぁ……ならまずは情報収集からだな」

「本当に面目ない」


 ガックリと肩を落とす男性を連れて歩き出す。

 手当たり仕出しに声をかけていく。


「すみません。この近くで珍しい鳥について何か知りませんか?」

「珍しい鳥ねぇ。なんて言う鳥だい」

「トキワタリというそうだが」

「トキワタリ……ちょっとしてアレかな」


 通りを歩いていた男性に話しかけて聞いてみると、彼は何やら心当たりがある様子だった。

 教えてくれるよう、頼むアルド。


「近所に住んでる奥さんが最近、光る鳥を見たって噂してたよ」

「その光る鳥がトキワタリだと?」

「そこまでは知らない。だが見たことのない奴だと言っていたんだ」

「彼女は今どこにいるかはわかるか」

「多分、近くで話してるんじゃないかな。噂好きな人だからさ」

「わかった。探して見るよ」


 男性と別れて件の女性を探す。

 しばらく探していると、道端で楽しそうに話す婦人達を発見する。あの中に目的の人物がいるかもしれない。

 アルドは近づいて彼女らに声をかけた。


「あの、光る鳥を見たって人を知らないかな」

「ああ、ソレあたし。え? 何、貴方も未確認生物とかに興味あるの?」


 真ん中にいた女性が自己主張してきて話し始める。


「あれは3日前の昼だったかしら。あたし買い物に出かけて帰る所だったのね。その時に見たのよ、光る鳥」

「ほう、それで」

「光が反射しててはっきり見た訳じゃないの。あ、何で空を見上げたかってのはその日雨が降るかもって予報があったから。鳥、結構大きかったのよね~」

(なんだか、物凄いおしゃべりな人だな)


 女性は、聞いてもいない事までペラペラと話してくる。息つく暇もないほどのペースで話すので相槌を打つのさえ難しい。


「それでその鳥なんだが……」

「いやぁ、あの時はホント驚いたわ~。この辺じゃまず見掛けない鳥だったと思うし、神々しいほどよく光ってたのよ」

「あ、あのー」

「しかもすんごく早かったのよねぇ。あっという間に飛び去って行ったわ」

「すまん! ちょっといいか」


 なかなか割り込むタイミングが掴めず、少々強引にアルドは口を挟んだ。女性が驚いたように固まっている。

 アルドはちょっと悪い気がしながら質問した。


「その光る鳥はどっちからどう飛んで行ったんだ?」

「あ、ああ……確か、左から右に飛んで行ったかしら」

「右……草むらのある方角だな」


 だいたいの情報を聞く事ができたので、アルドは女性らと別れて移動する。彼女相手だと情報収集も大変そうだと感じたからだ。

 他にも光る鳥を見た人がいないかと探索を続けた。


「すみません。光る鳥について知っていませんか」

「光る鳥なら昨日見たよ。奴は決まった時間に草原のほうへ飛んでいくんだ」

「決まった時間とはいつの事だ」

「夕暮れさ。西日がいい具合に当たってすごく綺麗だったよ」

(ん? なんだろう。話を聞く限りだと、鳥が本当に光っているのかわからないな)


 女性も光が反射していたと言っていたし、身体自体が光っていたなら反射して見えるのは違う気がする。

 しかし、決まった時間に飛んでくるとはどういう事だろう。夕暮れに何かあるのか。


「とにかく、夕日が出る時間に草むらで待ち伏せしてみよう」


 アルドは鳥の正体を確かめるべく、行動を開始した。



 ★AD1100年未来、ドーム近辺の草原。時刻、夕方。

 夕日が射しこみ、小金色の草原がキラキラと輝いている。身体が隠れるほど背の高い草の中を進む。


「この辺でいいか」


 手頃な所を見つけ、隠れて待つ事にする。

 しばらく待っていると上空から奇妙な音が聞こえて来た。


「キキーッ」

「どうやら来たようだな」


 鳥の鳴き声にしては機械的な感じのする声音だった。バサバサと金属が擦れる音とともに光る鳥が草原に下り立つ。

 アルドは音のした方角を草の影から覗き込んだ。


「あれはっ」


 そこそこ大きな岩の上に、機械でできた鳥が着地している。艶のある銀色の身体が夕日を反射して輝いていた。近くだとかなり眩しい。

 アルドは草の中から出て鳥に近づく。動く気配はない。


「なるほど。道理で光っているように見えた訳だ」

「うーん。残念ながら私が探しているトキワタリではなさそうですね」


 そんなの見ればわかる。目の前にある鳥は、誰が見ても明らかに人口物だ。


「それにしてもどこから飛んで来たんだろう」


 アルドが鳥に手を伸ばす。


「コラァー! ソイツはオイラのもんだ!」

「ん? 誰だ」


 アルドが鳥に触ろうとした瞬間、大声とともに一人の少年が走ってくる。少年が頭に着けているゴーグルが夕日の光を反射していた。

 腰には工具を入れたベルトポーチを着用している。恰好はメカニックっぽい。

 少年はアルドと鳥の間に割り込む。


「お前、オイラのメカバードを盗む気か。絶対渡さないぞ!」

「いや違う。落ち着いて話を聞いてくれ」

「問答無用」

「ええ!?」


 少年がメカバードをけしかけた。

 メカバードとの戦闘。


「はあぁぁっ!」


 アルドがメカバードにとどめを刺す。


「ああっ、オイラのメカバードがぁ……」

「い、意外と強かったな」

「……よくもメカバードを壊してくれたな!」

「え、あ……ごめん。けど、先にけしかけて来たのはそっちだろ」

「…………」


 涙目で俯き、黙り込む少年。アルドは困った様子で少年と目線を合わせた。


「なぁ、ちゃんと話を聞いてくれないか?」

「ぐすっ(鼻をすする音)」

「メカバードを壊したのは謝るよ。俺は光る鳥について調べていただけだったんだ」

「……光る、鳥?」


 ようやく少年が顔を上げる。少年の瞳はまだ潤んでいたが、どうやら話を聞く気になったようだ。

 アルドはゆっくり頷いて少年に言う。


「そうなんだ。ここに光る珍しい鳥が現れるって聞いて、トキワタリなんじゃかと思ったんだよ」

「お兄ちゃん達はトキワタリって言うのを探してるの?」

「ああ」


 アルドは少年に事情を話した。

 少年は涙を拭い、考えを巡らせる。すぐに何かを思い出したみたいでアルドに向き直った。


「トキワタリってのか分かんないけど、ランドのほうに変な鳥がいるって友達が言ってたぞ」

「本当か!」

「うん。すっごい自慢してたから間違いないよ」


 余程印象に残っていた様子で少年は断言した。

 アルドは、壊れたメカバードを抱える少年に別れを告げて歩き出す。



 ★AD1100年未来、ランド。

 ランドにやって来たアルドは、変な鳥を見たという場所を探して園内を歩いていく。

 寂しげな雰囲気の園内を探索している中、ふと何か物音が聞こえた気がした。


「今、何か聞こえたような……」

『キキ、ピギャァ……』

「やっぱり聞こえる。何の音だ?」


 アルドは音のする方向に視線を向ける。視線の先に何か動くモノが見えた。だが、よくは確認できない。

 動くモノが見えたほうへゆっくりと近づいてみる。


「アレ、いないな」


 周囲を確認したが何もなかった。


(気のせいだったのか?)


 アルドが考えを巡らせていると、道の端に動くモノがチラつく。

 気になったアルドは動くモノを追いかける事にした。


 いくつもある突き当りのひとつまで来たアルド。周囲を見回すが先程見えた影は見当たらない。


「困ったな。見失ったか」

(何か手がかりになるものがあるといいんだが……)


 諦めずに周辺を調べてみる。すると今来た道のほうから影が伸びているのを発見。そちらに目を向けるが、影の主は素早く移動してしまう。

 微かな物音はまだしている。そう遠くへは行っていない筈だ。


「また見失う前に追いかけよう」


 今度こそ、と決意を固めて再び走り出す。

 果たして影の主は探し求めているトキワタリに関係があるのか。


 園内の大分奥までやって来た。

 影はまたもや角を曲がり、突き当りまでアルド達を導く。追いかけて突き当りまで追い込んだ。

 今回は突き当りに何かいる。


「はぁ、はぁ、どうやら追い詰めたみたいだな」

『キ、キキッ』

「なっ!?」


 慎重に近づき目にしたモノは、なんと古びた鳥の玩具だった。いや、コレは本当に鳥なんだろうか。

 全体的な姿形は鳥っぽいが、頭部とか細かい所がトトくんに似ていた。


「なんだか変な鳥だな……」


 しかも動いているからかなり不気味だ。所々壊れているし、汚れも酷い。


『キ、ぼくはトト・ドリームバード。よ……くね』

「しゃべれるのか!?」

『みん……、楽しく遊……う!」

「わっ、来た」


 トト・ドリームバード(?)と戦闘。

 戦闘の末、勝利したアルド。完全に壊れたらしいと鳥をもう一度見る。身体には「不評につき廃棄処分」というシールが貼られていた。


「今回も外れだったみたいだな」

「はぁ。またもや無駄足ですか」

「まぁ、存在が実証された訳じゃないんだろう。仕方ないさ」

「はい。では次行きましょう!」

「ええっ、まだあるのか」


 男性の切り替えの早さに驚く。同時に、まだ他に心当たりがあるのかという所にも。


(こうなったら最後まで行くしかないな)

「それで、次はどこに向かえばいいんだ?」

「最後の情報は島です。今度は化石が発見されたという話なので、かなり期待できそうですよ」

「本当に鳥の化石ならな……」


 どこまで信じていいかわからない情報をもとに、アルドは男性を連れて次の目的へと向かうのだった。



 ★AD1100年未来、島。

 海と砂浜が美しい島。のんびりとした雰囲気が漂う場所を訪れたアルド。


「ここに化石があるんだろうか」


 とても何かがあるようには思えない。綺麗な場所ではあるが、これといったモノがある場所ではなかった。

 まず情報の真偽を確かめるため、島にいる人々が集まる場所で聞き込みをする。

 最初に訪れたのは宿屋だ。人が来る場所なら何か情報を得られるかもしれない。


「すみません。ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「いらっしゃい。何を聞きたいんだい?」

「この辺で化石が見つかったという話を耳にしたんだ。何か知らないかな」

「化石……ああ、何か変わった形の石が見つかったとか言ってたね~」

(本当だったのか。いや、まだ化石と決まった訳じゃないな)


 思い込みは禁物だと気持ちを改め、アルドは詳しく話を聞いてみる。だが、宿の店主はそれ以上知らなかった。


「もっと詳しい人を知らないか」

「広い町じゃないからね。聞いてみれば知ってる人は必ずいる筈だよ」

「それもそうか」


 店主に礼を言って外に出る。

 あまり収穫はなかったが、気を取り直して周囲の人に話を聞いて回る事にした。とにかく手当たり次第に聞いてみるのみ。


「あの、化石が見つかったという話を知らないか」

「化石? さぁ、俺は知らないね」

「そうか、ありがとう」


 何人かに話しかけるも、詳しく知っている人はなかなか見つからない。宿の店主並みの情報しか知らない人ばかりだ。

 それでも諦めずに聞き込みを続ける。まだ話しかけていない人がいる筈だ。


「化石の事ならよく知ってるよ」

「本当か」

「もちろん。掘り出した人と知り合いだからね」

「それで化石は鳥なのか?」

「さぁ? 気になるなら見に行ってみるといいよ。奴は海岸のほうにテントを立てて化石の整理をしてる筈だから」

「わかった。行ってみるよ」


 ようやく有力な情報を得て、アルドは海岸に向かう。



★AD1100年未来、島の海岸。

 海岸まで行くと、端のほうに前来た時はなかったテントが立っているのを見つける。他にそれらしい物はないので間違いはないだろう。

 テントまで歩いていく。


「うお? なんだ、急に反応がっ」

「なんだろう」


 テントの中から声が聞こえる。様子がおかしい。

 様子を見に行こうかと思っていた時だ。


「おや、何か光ってますよ」

「え? 本当だ」


 男性に言われてアルドは荷物の中から光る物体を取り出す。

 光っていたのは、以前古代で拾った羽だった。光る羽がアルドの手元から離れ、テントの中へ――。

 アルドは急いで後を追ってテントの中に入る。


「いったい何が起こったんだ」

「あ、ああ。えっと君は」

「今はそれどころじゃないだろっ。……あれは!」


 急いで飛び込むと、光る羽が同じく光っていた化石に吸い込まれて行く所だった。テンとの中には尻もちをついた青年が1人。二つの光が完全に一体化した瞬間。


「ミギャァァァッ!!」

「うわぁっ、なんだこりゃ」

「どうなっているんだっ」


 青年の悲鳴と、アルドの声がテント内に響く。

 いったいかした光は形を変え、一羽の巨大な鳥に姿を変える。鳥の大きさに堪えられずテントは崩壊。

 巨鳥は猫のような声で鳴き、全身を光る羽に覆われた朱鷺に似た生物だった。


「まさか、これが伝説のトキワタリ。うん、きっとそうに違いない!」


 男性は歓喜に震えている。そう、こいつこそが「トキワタリ」であった。

 どういう原理か、化石より復活したトキワタリは敵意に満ちた眼差しでアルド達を凝視している。嫌な予感がした。


「ミギャアッ」

「不味いっ。皆逃げろ!」


 アルドは男性と青年を強引に下がらせる。直後、アルド達がいた場所に奴の攻撃が及んだ。


(あ、危なかった)


 トキワタリは完全にやる気だ。


「こうなったらやるしかないな!」


 アルドは、敵意をむき出しにしているトキワタリに武器を向けた。

 トキワタリ(ボス)との戦闘。


「はあっ! よし、何とか倒したぞ」


 最後の一撃を加え、辛くも勝利を収める。かなりの強敵だった。

 倒れ伏すトキワタリを見下ろすアルド。倒れた奴の身体は光に包まれ消えつつあった。


「これがトキワタリだとしたら、なぜ化石から蘇ったんだろう」

「おおぉ……これは。実に興味深い」

「そんなぁ。僕のテントがぁ……」


 各々違った反応を示している2人にアルドは目を向けた。あんな目に合ったのに、随分と元気な男性だ。

 トキワタリの身体が完全に消えた後、アルドは男性を無事に送り届ける。



 ★AD1100年未来、町。

 男性を最初に出会った場所まで送り届けたアルド。道中、ずっと何かを考えていた様子の男性に声をかける。


「ところであの鳥について何かわかったのか?」

「ああ、まだ推測の段階だけどね。どうやら奴は、君が持っていた羽に宿る何らかの力で活動を再開したんだと思うよ」

「え、復活したんじゃなくて?」

「おそらくね。化石のように見えて、奴は長い休眠状態にあったんだ。そう仮説すれば辻褄が合うんだよ」


 確かに化石が1人でに復活したというよりも、休眠状態だったものがキッカケを得て目覚めたと考えた方が納得がいく。

 アルドがそう考えていると、男性は不思議そうな目でこちらを見ている。


「な、なんだ」

「ただ一つ謎なのは、そんな不思議な羽をなぜ君が持っていたかだね」

「え……」

「あの羽……一瞬だったから断定はできないけど、奴と同種の鳥の物だったような」

「はは、たまたま似ていただけじゃないか」

(今にして思えば、あの時聞いた鳴き声は同じ鳥だった気がする)


 え、てことは待てよ。奴が覚醒するキッカケとなった何らかの力って、まさか――。

 アルドの脳裏にある想像が過った。果たして羽に宿っていた力だけが原因だろうか、と。もしかしたら、時空を渡る力が羽に移ったのかもしれない。


「まぁ、それもそうだね。さぁ、これからまた研究だ!」

「じゃあ、俺はここで失礼するよ」

「ああ。いろいろとありがとう」


 漲っている男性と別れ、アルドは再び己の旅に戻って行くのであった。

 イベントクリア(完結)。

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時に攫われたモノ 秋紬 白鴉 (読み トキツムギ ハクア) @nimak3110

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