時に攫われたモノ

秋紬 白鴉 (読み トキツムギ ハクア)

第1話 変わり者の災難

★AD1100年未来、○○〇(場所名・町A)。

道を歩くアルドは、目の前の家から2人の男性が出て揉めているのを目撃する。


「だから本当なんです!」

「そんな話、信じられるか。まったく事件だというから来たのに」

「何だろう。話を聞いてみるか」


 憤慨して立ち去る1人とすれ違う。すれ違う時に男性の話が聞こえる。


「まったく時の裂け目だか穴だか知らんが、別の時代に大事な物が持っていかれたなんてある訳がないだろ」


 気になる単語を耳にしたアルドは、訴えていたほうの男性に声をかけた。


「困っている様子だけどどうしたんだ」

「聞かれちゃったのか……。実は大事な物を失くしてしまってね」

「大事な物ですか」

「ああ。ところで君は『トキワタリ』という鳥の話を知ってるかい?」

「トキワタリ? 聞いた事ないな」


 詳しい事情を聞こうとしたら、唐突に話題が切り替わる。しかし男性の様子ではまったくの無関係という風には感じられない。


「まぁ、そうだろうね。トキワタリとは、名前の通り時を渡る鳥のことさ」

「時空を渡る鳥だって!?」

「そうだよ。猫が時空を渡る話は僕も聞いた事があった。だが、トキワタリにも同じような事ができると僕は知ったんだ」

「本当にいるのか?」

「もちろん。この世界にたった数羽だけいるとされる幻の鳥だけどね」


 男性はこう考えた。猫や鳥が時の波に乗れるのなら、自分達も時を覗き見る事が、ひいては時を渡る乗り物を作れるんじゃないか、と。


「凄い事を考えるんだな」

「そうだろう。皆は全然信じてくれないが、僕は信じて研究を続けている」

「だが、鳥が時空を越えるなんて聞いた事がないぞ」

「まだ確証がないからそう言われるのも無理はない。けど僕は信じているんだよ」


 信じなければ研究は続けられない、と男性は握り拳を作っている。

 自分達が言えたことではないが、いるかどうかも判明していない存在を研究している彼に関心を覚えた。まさか目の前に、時空を渡っている人がいるとは思いもしていないだろう。


(だが、そろそろ本題を聞かないとな)

「それで、失くした時の状況を教えてくれないか?」

「そ、そうだった。……君に言っても仕方ないかもしれないが、研究の最中にちょっとした事故があってね」

「まさか時空の穴が開いたとかか」

「よくわかったね」


 いや、それはさっき通り過ぎた人が言っていただけだ。

 そんな事とは知らず、男性は話を続ける。


「実際に見た僕も驚きを隠せなかった。しかし、確かに不思議な穴が開いたんだ。穴の向こうには見たこともない風景がいくつも映し出されて」

「ちょっと待て。穴の先はひとつじゃないのか」

「知らんよ。でも、見えた風景は大分雰囲気が違ったなぁ」


 頭が痛くなりそな状況だった。

 まあ、アルドが使っているモノよりもかなり不安定なのは間違いない。偶然開いてしまったものだろうし、当然ながら行き先を選べた訳ではない筈だ。

 まったく、より面倒な事になってきたぞ。


「聞くのを忘れていたが、大事な物って何なんだ」

「探してくれるのか。探して欲しいのは、妻から貰った万年筆だよ」


 何でも、古い物好きの男性の為に苦労して手に入れてくれた逸品らしい。残念ながら彼の妻は数年前に亡くなってしまった。


「あの万年筆がないと研究に集中できない。資料もなくごっそりないし……」

「わかった。俺も可能な限り探して見るよ」

「ありがとう」

「礼なら見つかってからにしてくれ。それで穴が現れた時に見えたものについて詳しく教えて欲しい」

「だったらこの記憶映像の入ったメモリを見るといいよ。解析できそうな連れもいるみたいだし」


 男性が見ているのはリィカだ。

 アルドは男性から映像データを渡された。



 男性と別れて万年筆と研究資料を探すことになったアルド。研究資料も、過去の改変に影響を及ぼす可能性が少しである以上は集めなければ。


 男性から万年筆の詳しい特徴と資料の内容を聞く。

 資料は予想通り、トキワタリと時空に関するもの。万年筆のほうは大分使い込まれていて、青い本体に銀の金具と猫の模様があるらしい。


 リィカに映像データを解析して貰った結果、過去・現代のあちこちへ飛ばされたようだった。



 ★AD300年現代、○○〇(場所名・町B)の通りA。

 時空を移動し、映像にあった町でアルドは情報を集める事にする。


「探し物をしているんだ。万年筆か変わった資料を見なかったか」

「資料? どんな内容なんだい」

「時間に関係する難しそうなヤツかな」


 アルドは通りを歩く青年(男)に声をかけた。

 できるだけ不自然を抱かれないよう、また噂になっても大丈夫なように言葉を選んで伝える。これがなかなか難しい。

 不用意な事を言って未来に影響が出てはいけないのだから。

 青年はしばし思案を巡らせて返事をする。


「ひょっとしてアレかな?」

「何か心当たりがあるのか」

「ああ。確かその辺で遊んでいる子供達が持っていたような……」

「近くで遊んでいる子供達だな。探して見るよ」


 アルドは青年に礼を言って歩き出した。



 ★AD300年現代、○○○(場所名・町B)の通りB。

 町を歩くこと数分、手に紙を持った少年と数人の子供達を見つける。


(あの子達かな)


 話しかける前に少し様子を覗う。耳を澄ませると、子供達の話声が聞こえて来た。そこまで注意しなくても結構声が大きいので聞こえるのだが。

 彼らの元気に溢れた声音が辺りに響き渡る。


「おーし、お前ら集まったな」

「今日は何するの?」

「早く教えろよ」

「ふふーん、見よ。コイツはオレが町の外れで拾った宝の地図だ!」

「おおー」


 話を聞く子供達から歓声に似た声が上がった。随分と楽しそうだ。

 話を持ち掛けている少年は胸を張っている。


「でもホントに宝の地図なのかよ」

「間違いなって。見ろよ、むずかしい絵が描かれてるだろ」

「ホントだ、すげー」

「だけどコレ、どこかで見た事があるような」


 少年が持っている紙を覗き込んで盛り上がっている子供達。難しい顔をして図形を読み解こうとしているようだ。

 地図、と間違われているから探している資料か怪しいが、ここはちゃんと確かめてみるか。

 アルドは子供達に近づき声をかけた。


「ちょっといいかな。その地図、俺にも見せてくれ」

「お兄ちゃんも仲間に入れて欲しいの」

「いや、俺はその地図をちょっと見せて欲しいだけで」

「ダメだよ。コイツは大切な地図だから、仲間にしか見せられないぜ」


 少年が持ってた紙を隠してしまう。アルドは仕方なしに答えた。


「わかった。仲間になれば良いんだな」

「決まりだ。まずは新メンバーのしけんをするぞ」

「試験って、何をするんだ」

「そうだな……宝探しをするんだから、ズッゲーお宝を探してきて貰おうかな。

よし、○○〇(宝石名)を取ってきてくれ」

「○○〇を取ってくればいいのか。わかった」


 アルドは少年に頼まれた宝石を探しに行くことにする。子供達にはその場で待っているよう伝えておく。


 子供達といったん別れたアルドは、まず目的の物がある場所を調べる事にした。鉱石のことなら武器屋に聞くのが一番良さそうだと踏んで、武器屋の店主を尋ねる。

 


 ★AD300年現代、○○○(場所名・町B)の武器屋。


「いらっしゃい」

「オヤジさん、○○〇について知っている事はないか?」

「○○〇なら森で稀に出没するモンスターが集めているよ」

「という事は巣を探せばいいな」

「気をつけろよ、奴等は手強いって噂だからよ」

「ありがとう」


 店主からモンスターの詳細を聞き出した後、アルドは武器屋を出て森へと向かう。



 ★AD300年現代、森。

 森へと辿り着いたアルドは魔物の巣を探し、慎重に歩みを進めていた。見落としがないように周囲へ注意を払って進む。

 道中、何度かモンスターと遭遇したが目的のモンスターには出会えていない。


「この辺りのはずだが……」


 店主から聞いた近辺まで来た。周囲を見回す。

 少し先に見たことのないモンスターの姿、その近くに巣らしきものを発見。


「アイツだな」

「グガァァー!」


 モンスターがアルドに気づき咆哮を上げた。

 アルドは武器を構える。


(戦闘は中略)


「これでとどめだ」


 襲ってきたモンスターを、アルドが放った一撃が倒す。

 武器を収めて巣に歩み寄った。膝を折り、巣の中を漁ると綺麗な宝石が見つかる。他にそれらしい物も見当たらないので間違いはなさそうだ。


 アルドは○○〇(宝石名)を手に入れた。


「さあ、子供達の所に戻ろう」


 アルドは手に入れた物を大事にしまって町に戻る。



 ★AD300年現代、○○○(場所名・町B)。


「持って来たぞ」

「あ、お兄ちゃん早かったね」


 アルドから例の品を受け取った少年は嬉しそうに確認した。間違いがなかった様子で無事に仲間入りを果たす。


「約束だからな。これがオレの見つけた地図だよ」

「ありがとう。見せて貰うぞ」


 少年から紙を見せて貰う。描かれていたのは何かの設計図らしかった。よく見たら端に時計職人の名前が記載されている。という事は……。


「これ、宝の地図じゃないみたいだぞ」

「ウソだ! だってこんなむずかしそうな絵見た事ないもん」

「でも、ここに時計職人の名前が書かれているぞ。ただの失くし物だと思う」

「あ……」


 言われた少年は自分の目で確かめ、しょんぼりと肩を下ろした。探していた研究資料ではない。


「なぁ、その紙はちゃんと持ち主に返したほうが良い。きっと探してる筈だ」

「うん、この人ならきっと父ちゃんに聞けばわかると思うし返しておくよ」

「頼んだぞ」

「任せとけって」


 自信たっぷりに言う彼らに後を任せ、再び探し物の続きを始めることにした。

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