第2話 取り返しがつかなくなる前に

 ★AD300年現代、○○○(場所名・町B)。

 引き続き町で聞き込みを続けるアルド。リィカの解析で得た情報が確かなら、必ずこの町の中か近辺にある筈だ。

 今度は宿屋の前で世間話をしている婦人達に声をかける。


「お話し中すまない。探し物しているんだが、万年筆か難しい内容が書かれた資料を見掛けなかったか」

「それってどんな物なのかしら」


 アルドは探し物の詳細を上手く伝えた。

 婦人達は互いに言葉を交わし、意見が揃ったところで答えを返す。


「万年筆の落とし物の話は聞かないねぇ」

「そうですか……」

「でも、最近変な紙を拾ったっていう人がいるらしいと聞いた事があるわ」

「どこの誰だ」

「私達も聞いた話だからね。酒場にいる老爺に聞いてみるといいよ」

「わかった。ありがとう」


 アルドは婦人達と別れて酒場に向かう。



 ★AD300年現代、○○○(場所名・町B)の酒場。

 店内に目を向ける。壁際のカウンターに老爺の姿を発見した。他に該当する年齢の人物はいない。

 アルドは老爺に歩み寄り話しかける。


「すみません」

「なんだい? 儂に用でもあるのか」

「はい。実は、最近変な紙を拾った人物について話していたと聞いて……」

「ああ、あの話か」

「是非、詳しく教えてください」


 さすがに老人相手には少し丁寧な口調で話す。

 老人は椅子に座ったまま身体の向けだけを変えて話始める。


「一日くらい前かの。町に行商人が来て、そいつが途中で空から紙が降ってくるのを目撃したらしい」

「空から紙が降って来たんですか?」

「確かにそう言っとったよ。その紙はそいつが拾って今も持っておる筈さ」

「その人は今も町に?」

「しばらく商売するようだったからね。いるんじゃないかな」


 ならもう少し町を探して見るか。今度は商人らしい人を注意して探せば見つけられる筈だ。

 アルドは老爺に礼を言って酒場を後にした。



 ★AD300年現代、○○○(場所名・町B)。

 再び通りに出て町の中を探索する。道行く人々に行商人の居場所を尋ね、町の中心で荷を広げている男を発見した。

 行商人とはあの人のことだろう。


「いらっしゃいませ」

「貴方が空から降ってきた紙を拾ったっていう人か」

「はい。お客さん、あの紙束が欲しいんですね」

「その前に確認させて欲しいんだが」

「良いですよ」


 研究資料は聞いていた通り、紙で作成された物だった。

 行商人から数枚の紙束を見せて貰う。難しい内容だったので完全に理解はできなかったが、読み取れる単語から間違いないようであった。

 アルドは特に気にしなかったが、未来において紙を使ている辺りかなりの拘りがあるのだろう。万年筆のこともある通り、古い物に大分愛着があると見える。


「どうやら間違いないようだ。これを譲ってくれ」

「わかりました。ではお勘定を」

「か、金をとるのか!?」

「当たり前です。物々交換でもいいですよ」

「仕方ないな」


 アルドは彼のいい値を支払って研究資料を購入。


「毎度ありがとうございました」

「はぁ~」


 少し離れた場所で、購入した品を確認する。すると、あることに気づいた。


「あれ、足りないぞ」


 聞いていた枚数と数が合わない。それに部分的に抜けているようだ。何度も確認したが、やはり前後の記述があっていないページがある……多分だけど。


(薄々嫌な予感はしていたが、やはりまた別の場所を探す必要がありそうだ)

「よし、次の場所を探しに行こう」



 ★BC20000年古代、○○○(場所名・都)。

 リィカの助言で古代にやって来た。道を歩く。


「ちょっといいか。探している物があるんだ」


 散歩中の若者に声をかける。若者はアルドに向き直った。


「構わないよ。何を探してるんだい」

「猫の模様が入った青い万年筆と、時間に関係する難しい内容の書類だ。知らないか」

「うーん、知らないな」

「そうか」


 若者に挨拶して次に向かう。

 次に話しかけたのは女性だ。


「紙束の落とし物ね。よく知らないけど、〇道で少し前に騒ぎがあったみたいよ」

「わかった。行ってみる」


 アルドは情報の場所に向けて歩き出した。



 ★BC20000年古代、○○○(場所名・〇道)。

 モンスターが徘徊する道を進む。雑魚敵との戦闘あり。

 進行方向に兵士の姿を発見した。


「兵士さん、この辺りで騒ぎがあったと聞いたんだが」

「それならこの先へ進んだ所だ。他の奴がまだ調べてる筈だから一目瞭然さ」

「わかった」


 アルドは兵士が示した方向に移動する。

 しばらく進んだ先、兵士が数人いる場所が見えた。近づいて声をかける。地面には何も落ちていない。


「すみません。ここで何かがあったんだ」

「ん? ああ、このありで不審物が飛来したという目撃情報を掴んでね。調べに来たんだが……」

「問題でもあったのか」

「そうなんだ。我々が駆けつけた時には何者かに持ち去られた後だったんだよ」

「なぜ、持ち去られたと」

「見ればわかるよ。ほら、足跡があるだろう」


 兵士が視線で促す。アルドは近づいて確認した。人の足跡がある。


「本当だな。足跡は、宮殿の方角に向かっているようだ」

「まったく困った奴がいたもんだよ」


 疲れた様子の兵士から距離を置き、アルドは思案した。


(次は宮殿か。行ってみるしかないな)


 アルドは宮殿を目指して歩き出す。



 ★AD20000年古代、宮殿。

 宮殿内を走り回り、人だかりができているのを発見する。


(なんだろう)


 アルドは近づいて様子を覗う。

 人だかりの中心には一人の男がいた。


「おいおい本当なのか」

「出まかせを言っているんじゃないでしょうね」

「まぁまぁ、皆さん落ち着いて。ここに先刻入手したばかりの有難い書があります」


 男が懐から取り出した紙束を見えるように掲げる。人々がざわめいた。


「こちらには時空を覗く術について書かれている。考えてみてください。もしも未来の一端を知ることができれば、私達の生活はより豊かなものとなる」

(何だか怪しい感じになって来たぞ)

「私達は自然の力にあまりにも無力です。しかし! 予め未来を知る力を得れば、災いを恐れる必要はなくなる」

「まあ、確かに」

「でもそんな事をしたら精霊様のお怒りを買うわ」

「うーん」


 人々の間に動揺が走る。再び場が騒がしくなった。不安を口にする者、期待を向ける者、静かに相手の言葉を待つ者、人々の反応は様々だ。


「ここには未来を知る術について事細かに書かれています。皆さん、どうか私に力を貸してください」

(マズいな。まさか信じるとは思えないけど、止めなければ)

「ちょっと待て。お前は、本当に力を得る方法だと本気で思っているのか」


 皆の視線がアルドに集まった。中心に立つ人物の前に歩み寄る。


「どういう事だね」

「そのままの意味だ。どんな事が書かれていようと、それは誰かが考えた夢物語に過ぎないんじゃないか」」

「ぐっ……」

「言われてみればそうだな」

「やっぱりインチキだったのか。ソイツを俺にも見せろ」

「私にも見せて頂戴」


 後退る男へ人々が一斉に集まる。人の波に揉まれ、男が持っていた紙束が床に散乱。人垣がはけ、紙が散らばった中央に大きな空間ができた。

 人々が紙に集中し、アルドも床に散らばった紙束に視線を向ける。


「おい、これ」

「ちょっと。この内容、どう考えても現実離れしてるじゃない」

「しかも肝心な事がまったく書かれていないぞ」

(そりゃ、一部なんだから当然だな)

「どけ。これはお前らが気軽に見ていい物ではない。離れろ、触るな!」


 男が急いで紙を拾い集めた。


「ちっ、やっぱりデマかよ」

「余計な時間を取らせやがって。行こうぜ」

「期待して損しちゃったわ」


 人混みが解散。アルドと男だけになる。

 男がガックリと肩と視線を落とした。続いてアルドに目を向ける。


「まったく、余計な事をしてくれたな」

「無茶苦茶を言った報いだろう」

「くそっ、せっかく一儲けできると思ってたのに。こんなもん、もう何の役にも立たない!」


 男が紙束を床に叩きつけ、歩き去って行く。


(ちょっと悪い事をしてしまったな……)


 アルドは男が去っていた方向を一瞥し、床に落ちた紙束を拾う。


「悪いが、こいつは回収させて貰うぞ」


 アルドは研究資料を手に入れた。


「まだ大分足りないな。次の場所を探そう」


 再び移動を開始する。

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