第5話 「終わらない闇」
アルドたちは、セバスちゃんをエルジオンのシータ区画にある自宅へを送り届けた。
お茶くらい飲んでいきなさいよ、という彼女からの誘いを受けて、3人は部屋で寛がせてもらっている。
ヌームたち8体のロボットは、今まで以上に元気に、そして強くなり「最新のバトルシミュレータにミンナで挑戦シテきます!」と部屋の奥に篭ってしまった。
お茶を淹れている間、セバスちゃんがヌームたちの出生の秘密について、調べてわかったことを話してくれた。
「昔、K M S社の研究者たちはクロノス博士が作ったような、人型の合成人間……ガリアードやヘレナのように体は機械、顔は人間というもの……を作ろうとしていたらしいの。だけど、どうしても顔だけは再現することができなかったみたい。そこで、……実際の人間の頭部を合成人間の体につけてしまえばいいと考えたの」
セバスちゃんの話に、アルドがゴクリと唾を飲み込む。
「実験に選ばれたのは3人の優秀な子供たち。記録によると、赤毛の少年と、黒髪の双子の兄妹だったって。子供の脳の方が、機械と同化させやすいと考えたんでしょうね。だけど結果は失敗。赤毛の少年は脳だけを機械に移植して完全な合成人間に。双子の方はなんとか形だけは成功。だけど思うように制御できずにスリープ状態に。研究者たちは2体の合成人間をいつか完全にコントロールできる日が来ることを信じて、旧K M S社に隠した……というわけ」
「なるほど……」
エイミが先ほどの戦いを振り返りながら小さく数回頷く。
「双子の方は、合成人間になる前に脱走を企てて、たまたま旧K M S社に来ていたガルファゲンの中へ逃げ込んだ。結局捕まって、合成人間にされちゃうんだけど、その前に、そこで8体のロボットを作ってエルジオン各地へ放った……『8体の子供たちとそれを導き合わせてくれた誰かに、自分たちを破壊してほしい』という願いを込めて……ね」
セバスちゃんは話を終えて、ふうっと息を吐く。
「ソノ8体の子供……っていうのが、ヌームサンたちということデスネ。」
リィカが髪の毛をくるくると回しながら言うと、「そう、だからガルファゲンに部品があったってわけ」とセバスちゃんが答えた。
「しかし、K M S社はそんなことまでやっていたなんて……」
アルドは憤りを感じていた。人間を改造して合成人間にするなんて、許せなかった。
「私も今回調べてみて初めて知ったことよ。他にも隠していることがありそうな気がするわ。なんか自分で自分の首を絞めてるみたいだけど、もしその時は、協力してね、アルド」
「ああ、今回みたいな悲劇が起こらないように……」
アルドが力強く答える。そんな中、エイミが眉を下げながら、こう言った。
「それにしても、さっきのセバスちゃんの話に出てきた合成人間にされた赤毛の少年って……今はどうしているんでしょうね。廃棄されていないんでしょ?」
「さあね、そこまでは記録に残ってなかったわ。」
「赤毛ダッタから赤色の合成人間になっているコトでショウ!……ナーンテ……アレ?」
「……まさか……ね」
リィカのジョークはなかなかに笑えず、4人の頭の中に赤色の合成人間、リ・ア=バルクのことが浮かび上がった。
◆ ◇ ◆
K M S本社、研究室。
白い壁に囲まれた部屋に、白衣を着た一人の男がいた。
奥の壁にはびっしりと円柱状のガラスケースが並べられていて、その中には、首から下だけの合成人間が納められている。
首から伸びた何本ものケーブルは、隣に置かれている人間の頭部と繋がっていた。数にして、十数体はあるだろうか。
男はガラスケースの下にあるコンピュータを操作し、胴体と頭部を交互に観察し、またコンピュータを操作する。
そんな中、扉が開き研究員と思われる白衣を着た男が慌ただしく入ってきた。
「博士、リ・ア=バルクのシステムログにエラーが発見されました。」
博士と呼ばれた男は、表情を変えずに答える。
「どんなエラーだね?」
「ありもしない記憶が勝手に蘇り、おかしな行動を起こしたと思われます」
「ふん……またか。一旦初期化して、システムを再インストールし直すのだ」
「……了解しました。それと……」
「なんだね」
「旧社屋に保管してあった、アダムとメルキオが、何者かに破壊されました」
それを聞いて少し顔をしかめた博士だったが、何事もなかったかのように話す。
「……まあいい。どうせあいつらは使い物にならんかった。それに、見てみろ」
博士はそう言って壁に並べられた多数の合成人間を見ながら言った。
「ここにはたくさん実験体がいる。我々の研究は止まることはないのだよ……」
◆ ◇ ◆
機械仕掛けの願い 完
機械仕掛けの願い まめいえ @mameie_clock
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