第3話 フウちゃん、捕まる!?

フウ :『み、みなさん、こ、こんポコー。シロルーム四期生の狸川フウたぬがわふうです……ぽこー』



 いつもより緊張した面持ちのフウがぎこちない態度をしながら配信画面に現れる。

 やや口下手なところはいつも通りなのだが、それでもどこか覚束ないようで、やたら周囲の様子を窺っている。

 それもそのはずでいつもなら宇多野葵うたのあおいが側にいるのだが、今日はフウ一人。それでも大丈夫だと思っていたのだが、意外と孤独を感じてしまった。


 前までは一人で配信してもそんなことはなかったはずなのに……。


 むしろソロ配信のほうが昔は多かったのだが、すっかりコラボに慣れきってしまいどこか孤独を感じてしまった。

 そんな寂しさを紛らわそうとゲリラ配信を行なったのだが……。



フウ :『えとえと、特に何をするとか決まってないのですけど、せっかくだから雑談でもしようかなと思って枠を取ってみました……ぽこ』



 葵と再開するまでは一人で配信をしていたのに。

 どうしてここまで緊張してしまうのだろうか?


 ……思えば誰かと一緒に配信するのはとても楽しかった。それを一度経験してしまったらもう辞められなかった。



フウ :『何か……、ゲームを用意したほうがよかったかな……?』



 独り言のつもりが思わず口に出してしまう。

 それに気づいたフウは顔を赤く染めて慌てて訂正する。



フウ :『い、今のは忘れて!? き、切り取りもダメだからね!!』



 葵と一緒ならこんなこともなかったんだけどね。


 少し寂しい気持ちになるが今日きてくれた人たちには関係がないことだから気を取り直してコメントを眺める。



【コメント】

:かわいい

:こんポコー

:脳内切り抜きしました

:しっかり覚えた

:ホラーしてほしいな

:壺やろう!

アカネ🔧:私とやろうぜ!

:間に合ったー



フウ :『えっ!? あ、アカネ先輩!?』



 これまでコラボで数回接したことはあるもののソロで話をするのは始めてだった。少し緊張で声が上ずってしまう。



フウ :『えっと、これ、コラボのお誘いってことポコかな? みんな、ちょっと待っててポコ』



 フウはチャットのDMからアカネの名前を探し出すと直接連絡を入れる。



フウ :[アカネ先輩、コメント見ました。よかったら今度、フウとコラボをしてほしいです]

アカネ:[もちろんだよ! 今からやる?]

フウ :[良いのですか?]

アカネ:[もちろん!]

フウ :[ありがとうございます。よろしくお願いします]



 チャットのやりとりのあと、雑談へと戻る。



フウ :『みんな、アカネ先輩と急遽コラボすることになったポコよー。ということでここにアカネ先輩を呼びたいと思うポコー』



【コメント】

:止めてくれー

:俺たちのフウちゃんを汚さないでくれー

:フウちゃんを汚して良いのはイツ姉だけなんだ!!

:呼ぶなー

:フウちゃんは純真なんだ

:通報しました

:パイセンを呼ぶしかない!



アカネ:『おやおやー? みんなこのアカネちゃんを待っていてくれたのかなー? 歓迎のコメント、ありがとー! みんなのアイドル、美空アカネだよー!』



 細目をしてニヤけながら登場したアカネ。

 その瞬間にコメントの流れる速度が加速する。



【コメント】

:待ってない!

:パイセンまだー

:やめてくれ

:フウちゃん、逃げて

:通報しないと



 加速したコメントを見て、更にアカネは嬉しそうに微笑む。



アカネ:『よしよし、みんなは私ことアカネちゃんがフウちゃんとヤルところを見たいんだね。くひひっ』


フウ :『はいっ、ポコ。みんなもきっとみたいはずポコ』



 何もわかっていないフウをよそにアカネは更に加速する。



アカネ:『せっかくだからフウちゃんとやるゲームも用意したぞ。なんと抜いたり抜かれたりするゲームだぞ』



 にやりと微笑むアカネにコメント欄は阿鼻叫喚となる。

 ただ、普通にトランプでババ抜きをしたり七並べしたりするだけなのになんでこんなに盛り上がってるんだろう、とフウは不思議に思う。

 これもすべてアカネの盛り上げ方が良いのだろう。


 そう判断したフウは真剣なまなざしで言う。



フウ :『アカネ先輩はすごいポコ。色々と学ばせてもらうポコ』



【コメント】

:学ばないでくれ!

:純真なフウちゃんを奪わないでくれ

:はやく、早く来てくれ!

:パイセン、自分も枠を始めてるぞ



アカネ:『ははははっ、私がコウの配信時間を知らないとでも思ったのか? コウがいたらはっちゃけられないじゃないか』



 アカネが高笑いすると七並べが始まる。



――あまり手は良くないね。アカネ先輩は……。



 アバターだが彼女の様子を伺う。

「はははっ」と尊大な笑みを浮かべている。

 すごく表情に出そうなのだが、なぜかそれが作ったものに見えてしまう。

 実際は何も考えずに素直に出しているのだが、そう思わせない不思議さが今のアカネにはあったのだ。

 だからこそフウはアカネを戸惑わせて表情に出させようとすることにした。



フウ :『アカネ先輩とコウ先輩のコラボ、ふうは好きポコです』


アカネ:『はははっ、コウも私の魅力にメロメロだからな。裏ではデレてるのに配信だと恥ずかしがってツンツンしてるんだよね』


フウ :『裏だとデレてるポコですか!?』


アカネ:『今度見に来る?』


フウ :『うぅぅ……。究極の選択ポコ。実際に見たいポコだけど、行ったら間に挟まってしまうポコ』




 フウが真剣に迷っているとアカネがにやり微笑む。




アカネ:『そういえばフウちゃんの方こそ、イツキちゃんとはどこまでいったの?』

フウ :『どこまで?』

アカネ:『それはもちろん……、私の勝ちね』

フウ :『あーーーーっ!?』



 策士策に溺れる。

 アカネを困惑させようとしていたのにいつの間にか自分が動揺してしまって、その結果あっさりアカネが上がってしまった。




フウ :『アカネ先輩やるポコね』


アカネ:『フウちゃんはまだまだだね。もっと本気を出して良いんだよ』




 バチバチと視線を飛ばし合う。




【コメント】

:心理戦で暴走特急に勝てるやついないよな

:心理というか本心だろうしな

:フウちゃんが汚れる

:こんぽこー

:負けたフウちゃんもかわいい




アカネ:『ふふっ、試合に勝って勝負に負けるとはこのことだね。まさかコメントが全部フウちゃんの味方とは』


フウ :『子狸さんはふうの味方ポコ』


アカネ:『でもフウちゃんはこの私がもらう!』


フウ :『次は負けないポコ!』


アカネ:『それなら次はババ抜きだ!』



 新しいゲームを開く。

 ただ、ジョーカーを引くたびにはっきりと表情が出てしまうフウの相手は余裕だったようでアカネが再び圧勝してしまう。




フウ :『うぅぅ……』


アカネ:『私が勝ったら今日からフウちゃんは私のペットだよ。あんなことやこんなことをしちゃうよ』


フウ :『ま、まだ負けないポコ。次はスピードポコ。心理戦がないこれなら勝てるポコ!』


アカネ:『私がスピードキングと知っての勝負か?』


フウ :『えっ、キングポコ?』


アカネ:『敢えてクイーンじゃなくてキングを選ぶセンスがアカネさんだぞ』


フウ :『よくわからないポコだけど、次は勝つポコ』




 見た目敵にはフウの方がのんびりしていそうなのだが、実際もその通りでアカネの圧倒的スピードを前にフウは涙目でがっくり手をついて項垂れていた。




アカネ:『あれー、何本先取だったかな? もう降参してもいいんだよ。あんなことやこんなことを体験させてあげるよー』


フウ :『つ、次ポコ!』




 しかし、最後の最後までフウがアカネに勝つことはなかった。




フウ :『か、完敗ポコ……。今日からふうはアカネ先輩のペットになるポコ……』


アカネ:『はははっ、純真なフウちゃんを汚すのは私だ!!』




【コメント】

:フウちゃん……

:下手だもんな

:俺たちのフウちゃんが

海星コウ🔧:アカネ、一体何をしてるのかな?

:きたぁぁぁぁぁ!!!

:パイセン、お願いします!!

姉川イツキ🔧:ちらっ



アカネ:『うっ、コウが来たか。しかーし、フウちゃんは今日の景品。おいそれと返すわけにはいかーん!』


フウ :『ふうは弱いポコ……』



 項垂れたままのフウに対して、コウとイツキの二人からDMが届く。



コウ :[僕も入って良いかな?]

イツキ:[私も入るよ。フウの敵は取るからね]

フウ :[もちろんだよ]



 こうして対アカネ同盟が結集されることとなった。




フウ :『コウ先輩とイツキちゃんが参戦してくれることになったポコ』


アカネ:『はははっ、もうフウちゃんは私のペットだからな。取り返したければ二人でかかってくると良い』


コウ :『へぇー、そんなことを言うんだ。アカネはよっぽどボクのおしおきを受けたいのかな?』


イツキ:『お姉さんがフウを助けるからね』




 アカネは気づいていないが、対戦相手の二人は目に炎を燃やしていた。

 そんな状態で計算高い二人を相手にする、ということだけでも自殺行為なのに、ペアとして組んだフウのゲームの腕はからきし。

 足手まといを連れて相手にするわけだから、それで勝てるはずもなく……。




アカネ:『くっ、まさかこのアカネさんが負けるとは』


コウ :『負けたら罰ゲームだったわよね?』


イツキ:『私はフウをペットにするのでアカネさんはあげますね』


フウ :『イツキちゃーん、助かったポコー。ってどこに手を入れてるの!?』


イツキ:『えっ? もちろんスカートの中だけど?』


フウ :『そ、そんなことしたらダメポコ!!』


イツキ:『いつもしてることでしょ?』


フウ :『確かにいつもしてくるポコだけど』


イツキ:『つまりいつも通り』


フウ :『そっか……。あれっ?』


アカネ:『ふふふっ、今更コウの罰ゲームなんて怖くない。私が何度コウから罰ゲームを受けてきたと思うんだ?』


コウ『そっか。でも今日は相手をペットにできるんでしょ? ペットなら主に逆らったらダメよね? アカネをどうやって真人間にするか悩んでたんだけど、助かったよ』


アカネ:『くっ』




 悔しそうにアカネが口を噛みしめると次の瞬間に逃走をする。

 ところまで読んでたコウがアカネの首根っこを掴む。




アカネ:『締まる、締まる。そこ締められると死んでしまうよ』


コウ :『アカネがこの程度で死ぬはずないでしょ』


アカネ:『そこは誰でも死んじゃう。あぁぁぁぁぁぁぁ』



 アカネが画面外へと連れ去られていった。

 それを見送ったフウは無言のままイツキの胸の中に顔を埋めていた。




フウ :『やっぱりふうにはイツキちゃんがいないとダメだったポコ。これからも一緒にいて欲しいポコ』


イツキ:『もちろんよ。お姉さんが一緒にいてあげるからね』



 イツキはにやりと微笑む。

 そして、誰にも聞こえないように「計画通り」と呟くのだった。

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女性限定なのにスカウトされた僕、なぜか美少女VTuberとなる 空野進 @ikadamo

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