第2話 誕生日プレゼント開封の儀そのにー

 開封作業自体は黙々と進んでいった。

 最初の段ボールのインパクトが強すぎて、他のものが普通に見えてしまう。



『プレゼント開封は平穏無事に終わりそうだね』

ユイ :『うみゅ? ユキくん、眼科行く?』

『うん、行かないよ』

ココネ:『悪くなる前に早めに行った方が良いよ』



 ユイもココママも酷いなぁ。

 でも、客観的に今の状況を見れば、言わんとしていることはわかる。


 犬用のリードやドッグフード。

 ホテルの宿泊券なんかが並べられている。ただし、ホテルも動物ホテル。

 一体僕をどこに飼うつもりなのかと問い詰めたくなる。


 しかし、今更そこについて詳しく聞くのもおかしい。

 というか、良い風に納得させられるオチが見えている。

 だからこの件に関しては僕は触れない。

 そう固く決意していた。



???:『ねぇ、さっきから私の事、無視してない? うん、三人がボケ倒してるから仕方ないんだけどね』



 新しい段ボールを運んできてくれたスタッフさんが呆れた口調で言ってくる。

 まるで僕たちのことを詳しく知ってるような……あっ!?


 顔は段ボールで隠れているもののその声は田島瑠璃香たじまるりかその人のものだった。

 こよりさんと結坂が来ているのだからそこも気づいておくべきだったかも知れない。



『べ、べ、別に気づいてなかったわけじゃないよ!? カグラさんがわざわざプレゼントを運んでくれてるところも知ってたよ?』

カグラ:『はいはい、それでいいよ。それよりも運ぶのも手伝ってくれるかしら?』

『そ、そ、そうだね。それじゃあ、僕が――』

ココネ:『ユキくんは犬好きさんたちの相手でしょ。私たちが運ぶから!』

ユイ :『うみゅー、がんばってー』

ココネ:『ほらっ、ユイも来るの!』

ユイ :『うみゅー、ユイは犬好きさん達の相手をするの。ユキくん、よろしくー』

『うん、わかったよ』

ココネ:『わかったらダメだよ!? ほらっ、頑張ってくれたらユイの欲しいものを買ってあげるから』

ユイ :『うみゅー!? それならユイはユキくんが欲しいの!!』

『ぼ、僕っ!?』

ココネ:『仕方ないですね』

『えっ!? いいの!?』

ココネ:『そっか……、ユキくんは知らなかったですね。これをあげるだけですよ』



 こよりさんの手にはデフォルメされたユキくんのぬいぐるみが持たれていた。



『何これ?』

ココネ:『ユキくんの誕生日記念に販売されたぬいぐるみだよ?』

『ぼ、僕聞いてないよ?』

ユイ :『うみゅー、ユキくんに内緒で勝手に売ってたの。ようやく完成したの。ずっと欲しいって言ってたの』

ココネ:『私もずっと楽しみにしてたんですよ』

カグラ:『三人とも、いい加減手伝ってくれないかしら?』

『あっ、ご、ごめん。すぐ行くよ』



 結局僕たち四人でプレゼントを運ぶことになる。

 そんな中、やたらと重い段ボールがあった。

 大きさも一メートル四方でかなり大きく、重量があるものが入ってるようで一人ではとても持ち上がらなかった。



???:『私はそんなに重くないよ!?』



 あれっ? 段ボールがしゃべった?


 僕は思わずじっと持とうとした段ボールを眺める。

 特に何もおかしいことはない普通の段ボール。

 敢えて言うなら運ばれてきた割には汚れや傷がひとつもない、まるで今組み立てた新品のようにも思えるが、それは宅配業者の人が丁寧に運んできてくれた結果なのだろう。



ユイ :『うみゅー、これは重たいから捨てておくの』

『だ、だめだよ!? そんなことをしたら』

カグラ:『そうね。段ボールなら燃えるゴミよ。捨てる日は今日じゃないわよ』

『か、カグラさん!?!? す、捨てたらだめだからね。』

カグラ:『嘘よ。そんなことするはずないでしょ? リスナーさんからの貰い物を』

ココネ:『……本当に犬好きさんからのプレゼントなのでしょうか?』



 こよりさんが疑問を呈してくる。

 確かに郵送されてきたはずなのだが、伝票はついていない。

 スタッフの人が気を効かして外してくれたのかと思ったが、そもそもがついていたような気配もない。



『もしかしてこれは別の人の荷物なのかな? 引越しの荷物が紛れちゃったとか?』

ココネ:『それはあるかもしれませんね』

ユイ :『うみゅー、なら外に出しておくの』

カグラ:『だからどうやって運ぶのよ!』

???:『ごめんね。それ、回収に来たよ』



 部屋の外から声が聞こえた。

 聞き慣れたその声はコウ先輩のものだった。



『わふっ!? こ、コウ先輩!?』

コウ :『遅くなったけど、改めてユキくん、お誕生日おめでとうね』

『あ、ありがとうございます』



 腰が90度になりそうなほど頭を下げる。

 するとコウ先輩は苦笑をしながら手を振る。



コウ :『やっ、気にしないでいいよ。それよりもそれ、邪魔でしょ? ボクが責任を持って運ぶよ』

『それは助かります。その……、僕たちだと全く動かなくて……』

コウ :『うん、これは運ぶのにコツがあるんだよ。見ててね』



 コウ先輩が笑顔を見せると表情を変えずにそのまま正拳突きを段ボールにしていた。



???:『ぐはっ……』



 段ボールの中から苦しそうな声が聞こえる。

 ……じゃなくて。



『こ、コウ先輩!? ひ、人の段ボールにそんなことをしたらだめですよ!?』

コウ :『大丈夫よ。ボクはこれの持ち主を知ってるからね。でしょ?』



 コウ先輩が段ボールを見ると中から真っ青な顔をしたアカネ先輩が這い出てくる。



アカネ:『こ、コウ……、少しは手加減をしてくれても良いんじゃないか?』

コウ :『あらっ、手加減してあげたから生きてるんでしょ? それよりもまず言うことがあるでしょ?』

アカネ:『そうだった。ユキくん、聞いてくれ。実はだな――』



 依然として体は伏したままだが、その状態でアカネ先輩が真剣な視線を送ってくる。そして、意味深な間を置いてくる。

 それにつられるように僕も思わず息をのんでいた。



アカネ:『実はだな。今日のコウのパンツは水い……ぐはっ!?』



 アカネ先輩がすべてを言い切る前にコウ先輩の右ストレートが炸裂していた。

 そして、真っ赤になりながら僕の方を向いてくる。



コウ :『聞いてた……よね? わ、忘れてくれる……かな?』

『あの……、えっと……、その……。僕は忘れても良いのですけど――』



 僕はゆっくりと後ろにいるこよりさんたちを見る。



コウ :『みんなもそれでいい?』

ココネ:『もちろんですよ』

カグラ:『別に覚えていることでもないわね』

ユイ :『うみゅー。コウ先輩のパンツの色が水色なんてもう忘れたの』

コウ :『しっかり覚えてるじゃない!? ほらっ、忘れるの!』



 コウ先輩が結坂の服を掴むと軽く揺すっていた。



ユイ :『うみゅーーーー』

コウ :『ほらっ、もう忘れたわよね? ならもう安心……』

カグラ:『えっと、この様子も配信してるわよ? 良いのかしら?』

コウ :『だ、だめだよ!?』

『あ、あははっ……。カメラはずっと動いてたもんね。えっとちょっと待ってね……』



 僕は画面上にコウ先輩のイラストとアカネ先輩のイラストを表示させる。

 ただ、当の二人はまともに話はできなさそうだけど。

 落ち着くまでしばらくかかっていた。





『それでどうして段ボールの中に入っていたのですか?』



 僕は目の前で正座をさせられているアカネ先輩に問いかける。

 まだ苦しそうにお腹の辺りを擦っている。



アカネ:『よくぞ聞いてくれた! それはだな。もちろん、ユキくんがプレゼント開封配信をすると聞いて、こうなったら伝説のあれをするしかないと思い、前日から準備をしていたんだ!』

『伝説のあれ?』



 僕が首をかしげるとこよりさんが何かわかったようで頷く。



ココネ:『わかりました。「私がプレゼント」っていうあれですね』

アカネ:『うむ、そうだ。それをやらずしてプレゼント配信は成り立たないであろう?』



 確かにそれなら僕も漫画とかで見たことがある。

 むしろそういった場面でしか見たことがないけど。



ユイ :『うみゅー? それならどうして服を着てるの?』



 結坂のその一言に場が固まる。



カグラ:『こんな場所で服を脱ぐ馬鹿がいるわけないでしょ!?』

『それより服を着てるってどういうこと?』



 顔を真っ赤にしている瑠璃香さんに対して、僕は本当に何かわからなくて首を傾げていた。



コウ :『そういえば昨日なにかひもを準備していたわね?』

アカネ:『あ、あれはだな。その……。さ、さすがの私でも裸で自分の体にひもを巻き付けてプレゼントとするのは恥ずかしくて――』



 僕の方をちらっと見たアカネ先輩は顔を真っ赤にしていた。

 その珍しい態度にコウ先輩は嬉しそうに頷いていた。



コウ :『へぇ……、アカネがそんな態度をするなんて珍しいわね』

アカネ:『い、いや、そんなことないぞ!? み、見てみろ、私は別に裸になることを恥ずかしがってるわけじゃないからな』



 顔を真っ赤にしながら服を脱ごうとするアカネ先輩。

 それを大慌てで隠そうとするコウ先輩。



コウ :『な、何をしてるのよ!?』

アカネ:『もちろん私をプレゼントしようとしてるのよ! いくらコウとはいえ邪魔したら許さないからね』

コウ :『邪魔するに決まってるでしょ!』



 アカネ先輩はコウ先輩に思いっきり殴られて気を失っていた。



コウ :『邪魔してごめんなさいね。私たちはもう行くね』

『えっと、来てくれて……、ありがとうございます?』

コウ :『あははっ、邪魔しただけだからね』



 アカネ先輩を引きずって、コウ先輩は部屋を出て行った。

 その際に山のように置かれたプレゼントの一つが大きく動いたことに誰も気づいていなかった。



『えっと、本当になんだろう?』

ココネ:『きっとユキ君に会いたかったんですよ』

ユイ :『うみゅー、ギルティーなの』

カグラ:『こらっ、先輩に対してそんなことを言ったらだめでしょ!』

『うん、そうだね。でも、自分がプレゼントってアカネ先輩らしいよね』



 苦笑を浮かべながら残りのプレゼント開封に取りかかる。

 あとはトラブルらしいトラブルは起こらずに無事に開封を終えることができた。





『これで……全部かな?』



 さすがに量が多くてすっかり息が上がってしまっていた。



『みんなが来てくれて本当に助かったよ。ありがとう』

ココネ:『ユキ君のためならいくらでも駆けつけますよ』

カグラ:『まぁ、同期だからね。当然よ』

ユイ :『うみゅー、このお礼は体で返してもらうからいいの』

『か、体で!? あっ、そういうこと。そうだね、みんなの時も力を貸すよ』

ユイ :『なら次の配信でユキ君単体のホラー配信を――』

『そ、それは違うよね!?』



 思わずユイに対して突っ込みを入れてしまう。

 するとその瞬間に扉が開く。



ハル :『みんなー! 助っ人を連れてきたよー!』



 母さんが嬉しそうに手を上げながら入ってくる。

 その後ろにはユージさんの姿があった。



ユージ:『ちーっす。みんなお待ちかねのユージさんが登場っすよ』



 二本指を立てて、それを目に当てる。



ユイ :『うみゅ、邪魔』

ココネ:『ですね』

カグラ:『燃やされたくなかったらさっさと出て行くと良いわ』

ユージ:『ひどいっす。わざわざ来たのに俺の扱いひどくないっすか?』

『あ、あははっ……。わざわざ来てもらったのに申し訳ないのですけど、もう開封は終わりました』



 僕たちの後ろにはたくさん置かれたプレゼントの山があった。

 それを見たユージさんは思わず声を漏らしていた。



ユージ:『ふぇ?? それじゃあ俺っちの華麗な活躍のシーンは?』

『えっと……、あ、あははっ……』

ユイ :『うみゅ、花火のように華麗に咲くと良いの』

ココネ:『そんなことを言ったらだめですよ、ユイ』

ユージ:『さ、さすがは三期生のママ。俺っちのことも助けてくれるんっすか?』

ココネ:『私たちが何かしなくてもユージ先輩は燃えてますからね』



 確かにこよりさんの言うとおり、ユージさんが来てからコメント欄は加速していた。

 主に『🔥』だけだったが。



『あの……、僕の配信を燃やさないでくれますか?』

ユージ:『俺っちは無実だぁぁぁぁ!!』

カグラ:『燃える人はみんなそういうのよ』

ユイ :『ギルティなの』

『み、みんなもほどほどにしてあげてね。あの……、ユージさんも手伝いに来てくれたわけだから……』

ユージ:『ゆ、ユキ君……』



 ユージさんが目を潤ませて僕のことを見てくる。

 しかし、その瞬間にコメント欄が🔥一色に変わってしまった。

 それだけではなく、スパチャも一万円以上送ったときの色である赤一色に。



『わわわっ、ユージさんが余計なことをしたから赤くなっちゃったじゃないですか!?』

ユージ:『お、俺っちのせいですか!?』

『と、とにかくもうお手伝いは大丈夫ですので、お帰りください』

ユージ:『お、俺っちの出番、これだけっすか!? そ、そうっすよね。俺っちなんてどうせ……』



 だんだんユージさんの声が遠ざかっていく。

 悪いことをした気もするが、このままユージさんがいたら高額スパチャの流れが止まらなかったので仕方がなかった。

 必要悪だったと言うことで許してもらおう。

 こうして、無事にプレゼント配信は終わるのだった……。

























「私もアカネ先輩と同じことをしてた……なんていえないよね」


 ユキくんの配信後、とぼとぼと段ボールを引きずりながら七瀬奈々ななせななは歩いて帰っていた。

 さすがにアカネ先輩の二番煎じと思われたら、喜ばれるどころか冷めた目で見られてしまう。

 自分ならそれでもいいけど、ユキくんがそんな視線を送られるのは耐えられなかった。

 ただ、やっぱりユキくんのお祝いを二人でしたかったな、という気持ちはあった。


「これなら家でライブ配信を見てた方がよかったかな……?」

「誰のライブを見るの?」

「それはもちろんユキ先輩の――」


 突然声をかけてきた相手を見るとそこにいたのは祐季本人だった。

 やや息が上がっているところを見ると走って追いかけてきてくれたようだった。


「えっ!? ゆ、ユキ先輩!? ど、どうして!?」

「さっき段ボールが一つ動いた音がしたからね。もしかしたら他にも誰かいたのかなって思って追いかけてきたんだよ。こういうことをするのは七瀬かなってね。でも、それなら出てきてくれたらよかったのに」

「配信中にそんな二番煎じのこと、できませんよ。祐季先輩に恥をかかせてしまいますから」


 これはルルとしての自分のプライドでもあった。

 配信を見ている人には楽しんでもらう。


 自分をさらけ出し、ユキくん愛を出していてもそれだけは忘れたことがなかった。

 自分の配信を見に来てくれる人もそんなぼくが見たくて来てくれる、と。


「そっか……」


 祐季は優しい笑みを向けていた。


「それならこれから一緒にご飯へ行かない? 僕、もうお腹ペコペコなんだよね。ほらっ、力作業をしたからね」


 祐季は全く盛り上がらない力こぶを見せてくる。

 せっかくだからそれを触らせてもらう。


ぷにっ。


 見た目通りに柔らかい。


「きょ、今日はたまたまだからね。さっき使いすぎたから柔らかくなっただけだからね!?」


 あたふたとする祐季の姿を見て思わず笑みが零れる。


「筋肉は使ったからって柔らかくならないですよ、先輩」

「あうぅぅ……」

「それより私と一緒に食事へ行ってくれるんですよね? 先輩の奢りで」

「うんっ。……って僕の奢り!?」

「やたーっ。先輩、お肉行きましょう、お肉。昨日配信で美味しそうなお肉のレビュー見たんですよ。そこ行きましょうよ!」


 祐季の手を握るとお店がある方へ指差す。

 ただ、すぐにさっきいた三期生の面々のことを思い出す。


「あっ……、私だけじゃなくて他のみんなも一緒ですよね」

「それが今日はみんなこのあとに配信があるらしいんだよ。一人でお店って怖くて入れないよね? 七瀬がいて助かったよ」

「私は結構一人で入れますよ。でも先輩と一緒ならもっと嬉しいですよ」


 祐季の方に振り向いて笑みを見せる。

 それを見て祐季は苦笑を浮かべていた。


「そっか……。それなら早速行こー!」

「おー!」






※あとがき

本当に長々とお待たせしてしまい申し訳ありません。

締め切りが重なって死んでました。そしてまた死にます……_:(´ཀ`」∠):_

隙間時間で本当にちょっとずつ書き進めておりました。

どのくらい時間が取れるかで新章へ進めるか閑話を挟むか考えようと思っています。

新章では五期生の影が……。キャラ設定も徐々に作ってます。

当面は非常にスローペースになりますがよろしくお願いします(੭ु˙꒳˙)੭ु⁾ぺこっ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る