転移特典で貰った聖剣が働きたくないと言って鞘から抜けない。

卯月 為夜

プロローグ 神様との出会い

「こんにちは、寺野てらの健人けんとさん。いきなりですが、貴方の人生は幕を閉じました」


俺の目の前にいるのは、ふわりとなびく白い羽衣を纏って、二次元の世界から出てきたのではないかという程の美貌の持ち主。金色の長い髪に整った顔のパーツが映え、俺の陳腐な語彙力では表せない程の人だ。



──いや、人というよりは人を超えた存在なのかもしれない。



なにせ、俺は死んだのだから。





***



「──よし! いいぞ……ほっ! っぶねぇ……って! 全方位弾幕とかキツすぎねぇか!? 」


部屋にはひたすらにコントローラーを動かす音と、PCのモニターに映されたゲームからなる音が響いていた。


「よしよしよしよし! 今だ! オラオラオラオラ!! お前にどれだけリセマラさせられたと思ってんだ! 今回で終わりだァァァァァァァッ!!」


そう、このゲームは一度死ねば最初から、という鬼畜というかクソな仕様なのだ。それでもやり込みがいがあるという事が理由で結構な人気を誇っているが。


因みに俺はもう50回以上リセマラ──リセットマラソンを繰り返している。実は敗北と同時に再起動すると1からにならずに再プレイ可能なのだ。


と、画面には[YouWin!]の文字が。


「シャアアアアアアッ!! ざまーみろクソス! 俺の勝ちだァァァァァァッ! ──よし、エナドリでも飲むか」


冥界の神ハデス──通称クソスを倒す事に成功した俺は、キリのいい所になったのでエナドリで栄養チャージをする──が。




何だこれ……胃がムカムカする……。それに頭が痛い。クラクラする。


「あれ? 目が……」


目を擦ってみてもずっとチカチカと明暗を繰り返している。



──瞬間、脚に力が入らなくなり、思わず膝から崩れ落ちる。

その拍子に持っていたエナドリの残りが、缶から床にバシャッと音を立てながら流れて行く。これは本格的に不味い。救急車を──


「と、ここで貴方の意識は無くなりました。貴方が亡くなった原因は過労死のようなものですね」


バタンと音を立てながら俺の死亡シーンをわざわざ音読していた彼女は本を閉じた。


しかしそこに敢えてふれることはせず、最初から言いたかったことがあるため、手を挙げて質問をすることにした。


「あのー、一つだけ良いですか」


「はい、何でしょうか」


「今、夜なんですけど」

俺は空を指さしてそう言う。そこには、暗がりの中綺麗に輝く丸く大きな月があった。


「「……」」


俺も彼女も沈黙する。俺は回答を待っているがゆえの沈黙。しかし彼女は焦っているがゆえの沈黙に見える。──と、



「こんばんは、寺野健人さん。いきなりですが、貴方の人生は幕を閉じました」


何事も無かったかのように、目を逸らしながら挨拶をこんばんはに変えて彼女は再び初めからやり直し出した。


もう一度先程の俺の死因の音読をされた後……つまり今に至る。


「私は生を司る神、セレス。若くして亡くなった貴方には、2つの選択肢があります。1つは、記憶を抹消し、1から赤子としてやり直すこと。もう1つは今の肉体と精神のまま──






異世界に行くこと、です」



異世界!! 本当に存在するのか……! 夢にまで見た心躍るような冒険や、剣や魔法が存在する世界……!!

俺もライトノベルは読むし、特に異世界ものは大好きだった。これは行かない手があるか? ……いいや、無い!


「行きます! 異世界に行きます!!」


俺は迷わず異世界行きを選択する。


「本当に良いんですか? 」


「はい、でもなんでまた確認を?」


俺が聞くと、彼女は死んだような目で答える。

「2人前に俺は天国に行きたい、と駄々をこねる人がいてつい……」


あ、そうか。何か足りないと思ったら天国があったか。でも選択肢で天国は言われなかったぞ……?


「天国は……その、実は……罪を犯した者が行く所で……」


非常に言いにくそうにそう言う彼女に、俺は思わず目を見張った。


天国という所は、いい所で、地獄というのが罪人の行くところ、という教育を受けてきた俺からしたら、いや多分世界中全員が驚くと思う。


「なるほど……じゃあ地球でのあれはデマなんですね?


「まあ、そうなりますね……」目を伏せて泣きそうな顔になる彼女。そりゃあそうだろう。自分の管理している地球の皆が一生懸命に地獄に行こうとしているのだから。

しかも干渉出来ないから止めようにも止められない。こんなの俺なら心折れるわ。


「んんっ、話が逸れましたが、貴方に行っていただく世界には12の古からの厄災──十二邪龍が世界を脅かしています。どうか、十二邪龍を全て倒して、この世界を救って下さい」


おおっ、言っちゃあ失礼だが物凄くテンプレな世界だな。でもな、お約束のアレ・・がないと俺はただのクソザコナメクジだから、欲しいところではあるが。


「勿論、この世界を地力だけで救えとは言いません。こちらの剣、聖剣ネファリルを差し上げます」


そうそう! これだよこれ! 異世界と言ったらチート的な強さのアイテムだよな! 俺の特典は聖剣か。楽しみだな!



「聖剣ネファリルは身体能力向上や、動作補助、会話等の機能を持った凄い剣なんです。あ、残念ですが準備が出来たので、ここでお別れとなります。

ネファリルは異世界に着いた時に貴方が身につけているはずです。では、お気を付けて。行ってらっしゃい──!」


彼女のその一言を最後に、俺はワープホールの様なものに吸い込まれた。



待ってろ異世界……! その思いで胸を踊らせながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転移特典で貰った聖剣が働きたくないと言って鞘から抜けない。 卯月 為夜 @urunero321

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ