第11話『塩味王子!』


連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・11『塩味王子!』




 時   ある日ある時

 所   グリムの森とお城

 人物  赤ずきん

 白雪姫

 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)

 家来(ヨンチョ・パンサ)



 白雪、その場で半歩進み、目を閉じ、王子の口づけを待つ姿勢をとる。




王子: 白雪姫……(白雪を両手で抱きしめ、口づけの一歩手前までいく)しかし、今のわたしは汗くさい……。

三人: ガクッ……。

白雪: 何を汗くささなど、お気にしすぎです。それこそ殿方の雄々しさのしるし、その軽い塩味こそが男の値打ちと申すもの。

赤ずきん: がんばれ、塩味王子!

王子: エヘン、オホン……。

ヨンチョ: 勝負どころでございますぞ、殿下!

王子: ケホン、では……。

白雪: どうぞ!


 再度いどむ王子! しかし一センチの壁を越えられない……。


王子: だめだ……わたしという男は!

白雪: 王子さまあァ……。

ヨンチョ: 殿下ァ……(わが事のように身悶える)

赤ずきん: こんなオクテ見たことないよ……。

王子: (顔を被って)すまん……泣きたいくらい自分が情けないよ。

白雪: 泣きたいのは、わたくしの方でございます。

ヨンチョ: ここで口づけなさいませんと、姫は朝にはまた仮死状態におなりになるのですぞ……!

赤ずきん: わかった、最後の手段!

王子: 何か他の方法が……。

白雪: あるの!?

赤ずきん: 二人とも、例の一万人のお母さんの心のエッセンスの薬、幸福のポーションを飲んだでしょう?

 効き目は半分ほどしかないみたいだけど……握手をしてごらんなさい。

 ほら、二人とも愛しあっているから……握手と言っただけで、外分泌腺を刺激して汗ばんできたでしょ。

 口づけのかわりになるかもしれない……。

王子: 握手ぐらいなら……。

白雪: 少しもの足りないけど……。

王子: では、姫、失礼します!

白雪: どおぞっ!!


 握手する二人、赤ずきんはポンプの仕掛けにかかる。


赤ずきん: 誓いの言葉を……黙っていちゃあ何の握手だかわかんないでしょ!

王子: なんと言えば……。

ヨンチョ: じれってええええええええええ!!

赤ずきん: 「愛しています」でいいわよ

王子: ……(息を吸う)

白雪: 愛しています、神の御名にかけて、そしてわが命にかけて……愛していますっ!!

王子: うん……あ、愛しています、神の御名と、この名誉と……。

白雪: この方々の友情にかけて、愛していますっ!


 この誓いの言葉の途中から、白雪のおなかが膨らみはじめる

 (白雪のスカートの中に風船が仕込んであり、白雪の背後で赤ずきんが懸命にポンプを押している。工夫は様々)


白雪: あ……ああ、なんということ!?

ヨンチョ: おお、なんという神の御技!

白雪: ああ、おなかが、おなかの中に赤ちゃんが……。

赤ずきん: この薬、オクテのおじいちゃんを口説かせる時に使ったって言ってたけど、

 ほんとうに、効き目があったんだ!(白々しい。赤ずきんはかなりの役者である)

王子: これは、早く医者を産婆を……誰がサンバを踊れと言った(ヨンチョをはり倒す)

 そうか、人まかせではいかんのだな、赤ずきん?

赤ずきん: そうよ、自分で、自分の愛する者のために行動をおこして!

王子: わかった、わたし自身、城下まで走り医者と産婆を連れてこよう、ヨンチョ、赤ずきん、それまで姫を頼んだぞ!

ヨンチョ: アイアイサー!

赤ずきん: まかしといてー!

白雪: がんばってね、あなた……。


 間


赤ずきん: けなげねえ……少しかわいそうな気もするけど……。

ヨンチョ: ああやって大人になっていかれるんだモラトリアム王子は……。

白雪: もういいかしら……。

赤ずきん: いいわよ、もう峠のむこうまで行っちゃったから。


 白雪、手にしていたピンで、おなかを一刺しする、ボンと音がして、おなかの風船が割れる。


白雪: なにか騙したようで気がひける。

赤ずきん: 念のためと思ったことが役にたったんだからいいじゃない。

ヨンチョ: 儂も事前に話を聞いていなかったら、ぶったまげて怒ったかも知れねえだども、これでいいよ。

 さっきの戦闘指揮もなかなか立派なもんでがした。お子様の方は、男と女いっしょに暮らしていれば、どうにかなるもんだで。

赤ずきん: おじいちゃんの時はうまくいったんだけどね。

ヨンチョ: 何十年もたってるんだで仕方のないことさ。

 なんせ敵の攻撃をやわらげ、傷もやわらげ、オクテの男もやわらげようって欲ばった薬だもんなあ、

 その分効き目が早く抜けても仕方ねえ。

白雪: 王子さまには想像妊娠だったって言えばいいのね?

赤ずきん: でも、これでもう朝がきても仮死状態にもどらないはずだよ……気がとがめる?

白雪: ……。

赤ずきん: 王子さまの手を握ったとき、心が通じたような気がしたでしょ?

白雪: うん……シャイで恥ずかしがり屋で、普段は思ってることの半分も言えず、

 やりたいことの十分の一もできない……その分良くも悪くも思い込みが強く……これと思うことにはまっすぐで……。

赤ずきん: まっすぐ白雪さんを愛している。

白雪: 手を握って王子さまと目があったとき、一瞬本当に赤ちゃんが……ウッ(口をおさえて、えずきはじめる)

 こ、これって……ウッ

赤ずきん: 効いたんだ! そうか、つわりだよ白雪さん! 

 白雪さんも傷を治すためにゆうべ 飲んだから、飲んだもの同志手を握って汗を通して効き目が〇.五かける二で一に、

 元の効き目が出てきたんだ!

ヨンチョ: ほ、ほんとけ!?

赤ずきん: きっとそうだよ。

白雪: 嬉しい……けど苦しい……ウッ……。

赤ずきん: がんばりな白雪さん。

白雪: うん……がんばる……。

ヨンチョ: 儂は何を?

赤ずきん: 婆ちゃんとオオカミさんに知らせてきて。

ヨンチョ: アイアイ……。

赤ずきん: ごめん、それよりも、王子さまを手伝って二人で、お医者様と産婆さんを背負って……。

ヨンチョ: アイアイ……。

赤ずきん: でも、やっぱりお婆ちゃんに……いえやっぱり王子さま……やっぱ婆ちゃん……

 がんばって白雪さんん……やっぱ王子……やっぱ……。


 白雪がえずきはじめた頃からハッピーエンドを思わせるテーマFI 

 ここで一気にFUして、キャストと出られるだけの黒子、スタッフが出てきてフィナーレの歌とダンスになり……幕 




 

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ステルスドラゴンとグリムの森 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018

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