第10話『ドラゴンの正体』


連載戯曲

ステルスドラゴンとグリムの森・10『ドラゴンの正体』






 時   ある日ある時

 所   グリムの森とお城

 人物  赤ずきん

 白雪姫

 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)

 家来(ヨンチョ・パンサ)





ヨンチョ: これは……。

赤ずきん: これがドラゴンの正体……。

王子 :マンガ……CDにゲームソフト……。

赤ずきん: みんな童話の世界の敵……。

王子: 敵にしてしまったんだ……。

二人: ……?

王子: これらは、みな童話の世界から、別れ、自立し、育っていった者たちだ……。

 それが異常繁殖し、ドラゴンとなって、この世界を食いつぶしかけていたんだ。

ヨンチョ: とんでもねえ野郎共だ(踏みつける)

王子: よせヨンチョ……ドラゴンに変化(へんげ)したとは言え、もとはわが同胞、兄弟も同然、後ほど、塚をつくり丁重に葬ってやろう。

赤ずきん: 王子さま……。

王子: おお、こんなに怪我をして……二人ともよくふんばってくれた。

赤ずきん: 王子さまこそお怪我は?

王子: 大丈夫、みな軽いかすり傷だ……。

ヨンチョ: おう、あれに……!


 花道に白雪があらわれる、怪我は意外にも治りかけていて、額や頬にバンソーコウを残す程度に回復しかけている。


白雪: 王子さまーっ! 赤ずきんちゃーん! それに……。

ヨンチョ: 王子さま第一の家来にして近習頭のヨンチョ・パンサと申します。

白雪: こんにちはヨンチョさん、そしてありがとう。

 みなさんの御奮闘ぶりは、その丘の木陰から見せていただきました。

 三度目のドラゴンの突撃の時など思わず目をふせてしまいましたが、御立派にお果たしになられたのですね。

赤ずきん:駄目じゃないか、ちゃんとお婆ちゃんの家に籠っていなくちゃ。

白雪: ごめんなさい、赤ずきんちゃんの話を聞いて、矢も盾もたまらず。

 それに夜になって体が自由になると、思いの他傷も……ゆうべお婆ちゃんにいただいた薬が効いたみたい、幸福のポーション。

赤ずきん: でも、それ古い薬だから、効き目は半分だね、まだ、体のあちこちが痛いでしょ?

王子: お体はしっかりといたわらねば。

白雪: それはこちらが申す言葉ですわ。三人とも、こんなに傷だらけになられて。

赤ずきん: 白雪さん……。

白雪: 御心配ありがとう、でも、もう大丈夫。

 こんな痛み、薬の力で半分に、そしてこの喜びと感謝の気持ちでさらに半分に減ったわ。

 今までは仮死状態の心の目でしか王子さまを見ることができなかったけど、

 やっとこうして、フルカラー、スリーDのお姿として拝見して……バーチャルじゃない、本当の王子さまなのね。

赤ずきん: きまってるじゃないか。百パーセント混じりっ気なしの王子さまだよ。

ヨンチョ: 戦闘で、ちょいと薄汚れっちまってらっしゃいますがね、

 なあに一風呂あびて磨き直せば、この百五十パーセントくらいにはルックスもおもどりになります。

白雪: いいえ、このままでも、わたしには十分凛々しく雄々しくていらっしゃいます。

 これ以上磨かれては、そのまぶしさに目が開けていられなくなります。

王子: 姫……。

白雪: 王子さま……。

赤ずきん: 行け! 白雪さん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る