第9話『また上空へ逃げ去るドラゴン』


連載戯曲

ステルスドラゴンとグリムの森・9『また上空へ逃げ去るドラゴン』


 時   ある日ある時

 所   グリムの森とお城

 人物  赤ずきん

 白雪姫

 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)

 家来(ヨンチョ・パンサ)





赤ずきん: そんなもんじゃないよ、ちょっとくせがあるけどね(苦しそうに飲む)

王子: なあにハナクソでさえなければ……(飲む。とりつくろってはいるが気持ち悪そう)なあに大したことは……ない。

ヨンチョ: おつな味だねえ……で、本当は何なんだい?

赤ずきん: 聞かない方がいい……。

ヨンチョ: そう言われると余計知りたくなる。

赤ずきん: 青い狼のミミクソ!

二人: ゲッ?!

赤ずきん: 吐いちゃだめ! あーもどしちゃった。(王子はかろうじてこらえる)

ヨンチョ: おまえが言うから……。

赤ずきん: ヨンチョのおじさんが聞くから……

王子: シッ! 来るぞ……。

赤ずきん: ほんとだ……。

ヨンチョ: え、どこに……?

王子: 来た!

ヨンチョ: え?……ワッ!


 ドラゴンの降下音。一瞬目玉を思わせる光が走る、王子と赤ずきんは左右の藪に、素早く身を隠す。

 ヨンチョだけボンヤリ立っていてふっとばされる。脱げ落ちたヘルメットを拾いつつ……。


ヨンチョ: すまん、あのミミクソまだあるか?

赤ずきん: 今度は吐いちゃだめだよ……。

ヨンチョ: ありがとう(あわてて飲む)

王子: 今のはほんの小手調べ、上空を旋回しながら様子を見ている……。

ヨンチョ: 今度は儂にもわかる……。

赤ずきん: 王子さま。

王子 :心配しなくても、貴重な弾を無駄に使ったりはしない。

 降りてきたところを二三度ぶちのめしてから、とどめに……。

赤ずきん: 違うの。王子さまには、もう一つ薬を飲んでもらいたいんです。

王子: 今度は何のクソだ?

赤ずきん: 違いますよ。お婆ちゃんからもらってきた幸福の薬、敵の打撃を弱める力があります。はい、このポーション!

王子: ヨーグルトみたいな味だなあ……。

赤ずきん: 天使たちが世界中の母親の愛情を一万人分集めて作ったエッセンスだそうです。

王子: そうか、一万人分の母性愛に守られるわけだなあ。

赤ずきん: 王子さまは、この国でただ一人の王位継承者、大事にしていただかねば。

ヨンチョ: 来るぞ!


 戦闘のBGMカットイン、飛翔音、降下音、光が走る。

 三人それぞれに剣をふるい、ドラゴンに当たるたびに金属音がする。

 二三合渡りあうと、ドラゴンは再び上空へ、藪へころがりこむ三人(戦闘を歌とダンスで表現してもいい)

 赤ずきんは頬を、ヨンチョは腕に打撃を受ける。


王子: 大丈夫か?!

赤ずきん: ホッペを少し(頬横一線に出血)

ヨンチョ: 右腕を少し、大丈夫でさあ……かえって燃えてきましたぜ!

王子: 気をつけろ、今度は奴も気がたっている……来たぞ!


 再び前に増す飛翔音、降下音、光が走る。

 激闘。ヨンチョ、赤ずきんは何度かころび、ヘルメットはとび、王子の服にも血しぶきが飛ぶ。

 前回にも増して激しい打撃の金属音。

 赤ずきんなど、藪までふき飛び、袖もちぎれ、胸から腕にかけて血しぶきをあび「大丈夫か!?」と王子の声。

 瞬間の気絶のあと、渾身の力をこめて、ドラゴンに斬りかかる(前の台詞を間奏にして、歌とダンスの処理でもよい)


赤ずきん: オリャー!


 ザクッと金属に切り込む音がして、王子が鉄砲を放つ。意外に重々しい「ドキューン」という腹に響く音。

 「キュー」っという悲鳴を残し、また上空へ逃げ去るドラゴン


赤ずきん: やった?!

ヨンチョ: ……いいや、傷は負わせたが急所は外したようだ……。

王子: そのようだなあ……二人とも大丈夫か?

ヨンチョ: まだまだ。

赤ずきん: 大丈夫よ。


 と言いながら二人とも、あちこち服は破れ、血しぶきをあび、あまり大丈夫そうではない

 (これらの傷、血しぶきは藪に忍ばせた黒子による。歌とダンスの処理なら省略)


ヨンチョ: 弾はあと二発です。

王子: わかっている。今度こそしとめてやる!(銃を、目標にあわせつつかまえる)

赤ずきん: 来る……!

ヨンチョ: 来るぞ……!

王子: わたしにまかせろ!!


 戦闘のBGM、カットアウト。

 腰を据え、今や水平からの攻撃の体制に入ったドラゴンにピタリと照準をあわせる王子。

 剣を構えながらも、動物的勘で身をよじり、王子にその瞬間を譲る二人。

 ドラゴンは王子一人を目指し渾身の力でいどみかかってくる。二発連続で発砲する王子。断末魔のドラゴンの叫び。

 この一連の運動はスローモーションでおこなわれる。

 わずかに間を置いて通常のモーションにもどると、ドラゴンの突撃してきた、ほとんど水平に近い方向から、

 大量のマンガ、マンガ雑誌、CD、ゲームソフトなどが、空中分解したミサイルの部品のようにとびこんでくる

 (CD等は実物を使うと危険なので、銀紙を貼ったボール紙などの代用品が良いと思われる。

 または、音と演技だけで表現してもいい) 

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