異世界からあいつらが来たら

太刀山いめ

第1話 異世界オルグ

オルグ。オークともよばれる種族。ある作家が妖精から教えてもらったと言う存在。

悪神が善神に対抗するため、善神が産み出した種族、エルフやドワーフを改造して作り出したと言う。

基本的には闘う事を求めて作られるので男しか居らず、他の種族の女性を慰み物にする事もある。

エルフ時代としての特徴として高い知能がある。悪神の邪念によって凶悪な精神をしていると言う。



とある時代の小さな砦にオルグが集まっていた。闇夜。彼等悪神の加護を受けた種族の時間。

彼等は薄汚れていた。肌は黄土色や緑色や灰色で所々傷んだ防具を身に付けている。そして項垂れて焚き火を囲んでいた。

「残りはこれだけか」

一際目が大きく聡明そうなオルグが言った。脂ぎった長髪に高い鼻、少し尖った耳、人間を基準とすると大柄な部類に入る。灰色オルグ。

「ああ、南の砦は落ちた。降伏したが皆殺しだ。反対して逃げ出した俺以外は」

緑色オルグが言う。矢が刺さっており、青色の血が乾いてついていた。

「目ぼしい生き残りは俺達だけか」

灰色オルグが言う。焚き火を囲んでいたオルグ以外にも居るが十人居るか居ないかだ。

「悪神の呪縛は解かれたと言うのに…」

灰色オルグが月を見上げてボソリと言った。


そうなのだ。悪神はもう半年前に討たれた。

それにより悪神のコントロールにかかっていたオルグはオルグになる前の…エルフの心を取り戻した。

そして降伏した。

だが善神側についた種族、特に被害の大きかった人間は降伏を認めなかった。



それからは地獄だった。もう闘うつもりのないオルグ達は次々に殺されていった。

密かに砦に籠って自衛をはかっても、敵対行為とみなされ焼き討ちされた。

オルグ達は仲間を庇う以外は反撃しなかった。

そして半年、殺しに殺されてオルグは十人居るか居ないかだ。


「明日は我が身か」

緑色オルグは矢傷を労りながら言う。

そう。もうこの砦も囲まれて居るのだ。


人間達に。


彼等は槍先に殺したオルグの首を晒していた。

オルグは人間の三倍は強い。それも鍛えた人間のだ。だから人間は狩られる側だった。それが逆転してからは自分達がされたことをやり返している。もうどちらがオルグか分からない。


うおおおおおおおおお!


鬨の声があがる。

人間達はオルグを夜襲する積もりのようだ。

一刻も早く絶滅させる。そんな怨念が籠った叫びだった。


「最後位は闘おう」

黙っていた黄土色オルグが静かに言った。

「俺は百人隊を率いた事がある。従ってくれ」

回りは嫌も無かった。どうせここには十人隊未満。人間は何千。悪足掻きにしかならない。獲物もばらばら。良くて凹んだ剣位だ。他は石を握りこんでの殴り合いか。



ひゅっ、ひゅっ、ひゅっ、


砦に火矢が放たれる。

人間の声も大きくなる。


どっか、ぎしぃ


どっか、ぎしぃ


破城槌だ。砦の扉を破るつもりだ。


「各々武器を持て!」

黄土色オルグが声を張り上げた。


灰色オルグは近くに手頃な石がないか集め始めた。投石もこの際立派な武器だ。


「お前からは少し女の匂いがする」

いきなり後ろから黄土色オルグが言った。

「ああ、オルグにされる前は女だった」

ドキリとしながらも平静を装い灰色オルグが答える。


「お前は死ぬな」

そう言うと黄土色オルグはしゃがんでいた灰色オルグの脳天を石で殴り、ふらついた灰色オルグの腰を支えて砦に唯一ある井戸に投げ込んだ。

「俺は元ドワーフだ。ドワーフにはこんな話がある」

井戸に背を向けて黄土色オルグは言った。

「井戸は異界に通じていると」

他のオルグ達は何も言わなかった。



バキッ、ドドドドッ…


門が破られた。


「女を守って死ぬのは悪くない」

矢を抜きながら緑色オルグは剣を片手に構えた。


「オルグになった者の意地を見よ!」

残ったもの達は一斉に人間に向かって言った。







「うっ、ぐえっ」

灰色オルグは水を吐き出しながら水辺から上がった。

水辺だ。井戸ではない。

井戸が何処かに通じている訳はない。更にオルグになって鋭敏になった鼻に戦の臭いはしてこなかった。

だが血の臭いがする。

まだ殴られた頭はふらつくが近くに有った石を両手に握り混む。

そしてエルフ時代のしなやかさで見たことの無い林を素早くかけた。



ヴルルルルル


そこには麦を背をって血を微かに流す黒髪の女に熊が襲い掛かろうといていた。


「ああ…ああ」

女は諦めた様に体を縮こまらせている。

このままでは食われる。


灰色オルグは身軽に林を越えて静かに熊の背後に立った。

そして石を握り混み熊の頭を一撃した。


ズドッ


ぐうぅ


ズズン


熊は呆気なく死んだ。

握り混まれた石は割れていた。



「これで最後か…」

縮こまった女は声を微かに出した。だがいくら待っても熊は来ない。

おかしいと思い薄目を開けると、倒れた熊を見下ろす美しい女が立っていた。


美しい銀髪を流した色白の女。服装は戦から帰った男の様だったが確かに女だ。



灰色オルグは割れた石で掌を切り「赤い血」を流していた。おかしい。オルグは青い血だ。赤い血は善神に作られた生物のものだ。

「きれいな女の人、貴女が熊を倒してくれたの?」

目の前まで黒髪の女が近寄って来ていた。

「ここは」

声が高く変わっている。遥か昔に失った声だ。

「ここ?ここは風車の里、貴女は旅人さん?」

女が全く怖がっていないことに気づいた。

オルグは目がでかく鼻が高く肌は色が違い牙だって生えている。

灰色オルグは解放されたのだ。完全に。


悪神の加護から



風車の里、猪や熊等しか危険な動物も居ない平和な村。


黄土色オルグ達の願いは叶ったのだ。

ただ一人の同胞だが。


救うことが出来たのだ。

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異世界からあいつらが来たら 太刀山いめ @tachiyamaime

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