後編

「…で?ここがあんたの通学路なの?」

「うん…」

次の日の夕方。

ちょうど学校も休みだったから例の件でお姉ちゃんについてきてもらった。

例の件というのは…まぁ、察してほしい。

ていうかもう話したくない。

ただでさえ今は逢魔時と云われている時間帯なのだ。

例の怪異以外の怪異が出てきたら堪ったものじゃない、私引き寄せる体質らしいし…あ、例の怪異って言っちゃった…怖いからちゃんと伏せたのに…。

もうほんとに陰鬱だ。

いや、陰鬱を通り越してもう鬱状態だ。

だって私の周り今めっちゃ黒いもん、真っ暗だもん。

と、私が独りでべそべそと泣き言をぶつぶつ脳内放送していると不意にお姉ちゃんが呟いた。


「…


何が?と間抜けな声を前にいるお姉ちゃんに出そうとした瞬間。



ゾッと寒気がする。

そして。



例の音が聞こえた。

私が通学路で聞いたあの音と寸分違わない、背筋がすぅっとなるような音。

ごくん、と生唾を飲み込む。



私の後ろに。

そこに。

息ができない。


そこに


動けずに硬直している私を無理にぐいっと引き寄せて、お姉ちゃんが呟いた。

「…いいか、一、二、三で逃げるからな?安心しろ、手は引いてやる。ちゃんとついてこい。わかったか」

無言で頷く。

お姉ちゃんが私の後ろをみて顔を歪ませた。

「…思ったより近いな」

手が握られて、声が掛けられた。

「一、」

どんどんとソレが近づいてくる気配がする。

頭が痛い。

「二の、」

ズキズキするような痛み。

さっきまでなんとも無かったのに。

どうしよう、走れるだろうか。

ぐっと手が強く掴まれた。

引っ張られる。

「三…!!」

号令がかかった時には、お姉ちゃんはもう走り出していた。

お姉ちゃんに手を引かれながら思い出す。

昔にもこんなことがあった。

ああ、そうだ。

あれは小学生の時だ。


小学校低学年の頃。

私は一回、お姉ちゃんと怪異に直面したことがある。

なんだかわからないけど、確か夜に忘れ物かなにかで学校まで行った時の事だった。

無事に忘れ物を回収して、帰りに通学路を通った時。


ガサガサ、カタカタ…


変な音が聞こえた。

怖くてお姉ちゃんに引っ付く。

お姉ちゃんも聞こえてるらしく、私の手をぎゅっと握ってくれた。

「…お、おねーちゃん…なんかいる…」

「…ここで、待ってて」

お姉ちゃんが私の頭を撫でてそう言った。

「大丈夫、すぐ帰ってくるから」

そう言って、元きた道を戻り始めた。

お姉ちゃんの姿が闇夜に消えてから随分と経っても、お姉ちゃんは帰ってこなかった。

なにかあったんだ。

幼心にそう思って、迷った挙句お姉ちゃんを探しに道を戻った。

戻り始めて数分。

お姉ちゃんはいた。

「あ、おねーちゃ」

ただし。


に捕まって。


ひゅっ、と喉がなった。

がくがくと足が震えだす。

立っていられない。

なんだ、あれ。

お姉ちゃんの瞳が私を捕らえた。

はっと気づいて叫ぶお姉ちゃんを見つめる。


「逃げて!!来ちゃダメ!」


なんで。

なにがどうなっているのかがわからない。

私はどうすればいいの。

真っ黒いナニカがにたりと嗤って私を見た。

「走って!止まっちゃダメ!」

お姉ちゃんの声に押されるまま走りだす。

街の噂。

学校で聞いた事のある噂。

“通学路には怪異がでる”

“その怪異が見ている間は

“その怪異が見ている間は

“その怪異に取り憑かれたら”

“その人は

ふと思った。

それならば。


のか?


そう思った時には遅かった。



真後ろに怪異。

もうダメだ、そう思って目を瞑る。

いつまで経ってもなにも起こらない。

目を開ける。

その時、目の前には。


前をいくお姉ちゃんの手をぱしっと払う。

「おい!?どうしたんだ!?早くしないと追いつかれるぞ!!」

わかってしまった。

震えながら声に出す。


「あなたは…?」


あの日。

私のお姉ちゃんは

お姉ちゃんは言った。

“怪異に捕まったら”と。

なら。

目の前の人は。

お姉ちゃんだったモノが下を向く。

「…あーあ。いけると思ったんだけどなぁ…

お姉ちゃんが振り返る。

その顔は。


あの日見ただった。


「ザンネン」

にたにた嗤ってソレが言った。

その場に崩れ落ちる。

足が、動かない。

「デモモウオソイ」

ぐっ、と気味が悪い顔が近付いてくる。


「オマエモ、


逢魔時の夕陽の中に。

独りの少女の悲鳴が響いた。

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通学路の怪異 雪音 愛美 @yukimegu-san

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