第11話 エピローグ  

お久しぶりです、宗田です。


今日も、老体にムチ打って働く宗田です。


あ、おはようございます、並木さん。


指導役の並木さんが、エプロンをきちっと締めて、髪の毛を整え、不織布のヘアキャップをかぶります。マスクをして、ディスポグローブをキュッキュとはめたら洗い場へ。

(並木さんの提案で、私達も三角巾からヘアキャップをすることになったんです。あと、ディスポっていう薄いゴムの手袋も。感染予防なんですって。防護服着てるみたいですよ。武田さんなんか、手が蒸れるってね、影で文句を言ってますから)

そして、並木さん早速、今日から来た新人さんに言います。

「社員食堂だからって、ゆるい気持ちで働かないでくださいね。社食といえども飲食業です。お客様満足度を考えて仕事をしなければ質が落ちます」

うわ、今度来た人も続かないな。

顔を見ればわかりますよ。

だって、顔に書いてありますもん[時給980円のパートなんですけど…]って。

やっぱりね、パートはパート。

ある程度、気を楽にしてやりたいのが本音でしょ。あー、またはじまった…。ネギ5グラム…。私なんてんなこと気にした事ないですよ。だって、ネギ抜きでって人もいるし、最後はネギのバットも洗っちゃいたいから、後半に近づくと、ネギなんていっぱい入れちゃったりするし…、ナイショですけどね。並木さんに聞かれたらたいへんですもん。なんだかあの人、利益なんてことまで考えてるらしく、難しい事を言ってくるんです。

私達、武田さんと私ね。前まではホールの片付けなんかゆっくりやって残業代つけてもらってたのに、並木さんが「あとは私ひとりで十分なので、お二人は残業無しであがってください。人件費もバカになりませんから」とか言ってね。私達、追い出された気分でしたよ。お給料は減るし。

まったく威張っちゃって、ナニサマなんでしょうか。


並木さんは細かい。とにかくめんどくさいんです。サービス向上にも度が過ぎます。


私達は、もうすぐ定年のとしですからね、今更他に行けないですし、あと何年かはしがみついて働かせてもらうつもりなので、嫌な気分でも続けますけど。


あれから新しいパートさんは一人も続きません。皆、並木さんに細く指導されて、めんどくさくなって辞めていくんですよ。

なんだか「これはパワハラじゃないんですか?」って怒って辞めた人もいるんだって、部長が言ってましたよ。ネギを3本切るだけのために、ネギマシーンを使って、その後の片付けがたいへんだったんですって。

それがね、「ネギ切りが遅くて話しにならない、ネギマシーンを使って!」と並木さんに言われて使ったのに、「マシーンで切ったネギなんか、味が雑でお客様に失礼だ」とダメ出しされたんですってよ。結局、ネギマシーンの片付けがこれまた時間がかかって、「今日はもう、いいから、見てて」と、洗い場の隅に2時間立たせられてたんだって。

そりゃね、並木さんの意地悪ですよ。


そんな調子ですから、誰も続きません。



あーあ、川島くんが戻って来ないかしら。


川島くんはまだ良かったわ。


川島くんは今頃、どこにいるんだろう…。


ぉーぃ、川島くーん。


                 〔完〕

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

川島くん モリナガ チヨコ @furari-b

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ