第8話

「ふ、ふひいいい」


 真朱。


 がたがたと震えている。


「ん。どうした?」


 狐は、音もなく消えた。


「待っ。待ってください。そのペンをわたしに向けないでおねがいこわい」


 真朱。狸から人に変わって、壁にぴたっと張り付いて首を横に振っている。


 真朱に、ペンを向けてみた。


「うひいいいいい」


 逃げた。


 さっきよりも遠いところの壁に、また張り付く。


「なんですかその筆。こわいこわいこわい」


「そんなにこわいのか、これが」


 怒りは。


 消えていた。


 ペンを、真朱に向かって投げる。


「うわおおおおっ。おおわっ」


 真朱。びっくりしながらペンを回避して。


 こちらに、抱きついてくる。


「こわいこわいこわい。なんですかあれ」


「地球を壊せるペン」


「ねえこわい。こわいです」


「生きててよかった」


「ちょっと。ごめんなさい。こしぬけた」


「重いんだけど」


「あっごめんなさい狸モードに切り替えますね」


 狸になった。


 軽くなる。


 まだ震えている真朱を抱えて。起き上がる。


「帰って、飯でも食うか?」


「はいっ」


 真朱の尻尾を撫でる。


 気持ち良さそうだ。


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狐狩り⚓ 春嵐 @aiot3110

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