第7話

「あっ」


「あ?」


 狐の幽霊は、おらず。


 人間体の真朱がいた。


「あっ。あっいやええとこれはその」


「おまえ。死んだんじゃないのか。なんでここにいる」


「え。えへへ。なんでだろうえへへ」


「えへへじゃねえよ」


 歩み寄って。


 真朱の首もとを掴み。


 地面に叩きつけた。


「ぎゃんっ」


 そのまま、胸に中性子弾頭を突き立てる。


「動くな」


「あひい」


「真朱は死んだ。おまえ。化けてるな。狐か」


 殺してやる。


 怒りが、これまでになく視界と思考をクリアにした。


 殺す前は。いつだって冷静。


「待っ。待ってください本物本物。わたし。本物」


 話すだけ、時間の無駄か。


 弾頭の起爆装置。ペンの、ヘッド部分をノックしようとして。


 真朱。


 消えた。


 違う。


 女の身体から、狸に変わった。


「逃げるなよ」


 走って逃げていこうとする狸の尻尾を掴んで。


 弾頭を刺した。


「ああんっ」


 なぜか、色っぽい声で鳴く。


「待ってくださいほんとに。本物。本物ですっ。はじめて会ったのは雨の日でいただいたのは烏龍茶のペットボトル。お家でいただいたのは人参と椎茸のお雑炊っ」


「だからどうした。食ったもんの記憶でも引き継いでいるだけだろうが」


「ああもうっ。わからずやさんっ」


 狸。じたばたして、ちいさな手が。何かを、指している。


「あれ見てくださいあれ」


 何か、転がっている。


「あっちが狐さんです」


 ぐちゃぐちゃになっている、何かの死骸。


「ばかをいうな」


「いやほんとですって。わたし、食べられちゃって、幽霊になっちゃったから。仕返しに、食べ返したんです。わたし本物です」


 死骸。


 たしかに、狐のものだった。真朱の死骸とは違い、のどぶえが斬られているのみ。まだ、びくびくと動いている。


「ね。あっち。あっちをおねがいします。尻尾が痛いですう」


「あの狐は。お前がやったのか?」


「え、ええ。まあ。やられたのでたまにはやり返そうかなって」


「そうか」


 狸の。真朱の尻尾から、ペンを抜いた。


「あふんっ」


 なぜか、色っぽい鳴き声。


 狐の死骸に、ペンを突き立てて。


 ヘッドをノックした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る