39話:二本剣があるから双剣です。

「なっ」


 セイバーさんは、焦った表情をする。

 それは当然だろう。

 恐らく俺がプレイヤー相手に初めてしたパリィはセイバーさんとなった。


 つまり俺のパリィ童貞をセイバーさんが奪ったということだ。


 そんなしょうもないことは置いといて、セイバーさんが驚愕するのも当然だろう。


 知っていたとしたら、なぜ成功したのか。


 知らなかったとしたら、これは何なのか。


 どちらにしても、このままでは倒される。


 パリィは攻撃を弾くスキル。

 弾かれた相手は弾き飛ばされるモーションを強制され、絶対に体を動かせない時間を作らされる。


 だからこそのクソみたいな判定の小ささと、タイミング。


「はっ!」


 俺がその大きな隙を逃すわけがない。

 メニューから装備を変更。

 持った武器は、現状一番攻撃力が大きい『クソデカハンマー』


 ネタ武器として作ったはずが、結構使えるのだ、これ。


 どのくらいダメージが通るのかはわからないけど、一応俺の最大火力でなんとかしてみせよう。

 ……なんか俺のレベルアップってSTRの伸びが悪いから、あんまりダメージないと思うけど。


 手を上げながら装備したハンマーが、頭上に現れる。

 いきなり現れたクソデカハンマーに、これまた驚いたのか、は俺の頭の上を見て、口をパクパクさせている。


 力は必要ない。

 ただ落ちる先に少し修正するだけ。


 吹き飛ばされている最中のセイバーさんに向かって、ハンマーを振り下ろした。

 ハンマーはセイバーさんの体全てを、平等に叩きつける。


「かはっ」


 パリィで吹き飛ばされた後の攻撃は、しっかりと慣性が働く。

 そのため、セイバーさんはハンマーの攻撃により、地面に叩きつけられた。


 クソデカハンマーの重みから、地面からもズシン、と音がなった。


 正直、これでやられてくれるとは思わない。

 多分だけど、俺よりセイバーさんのほうがレベルが高い。

 極振りした俺のスピードより少し遅く、更にはあの様な大剣を軽々と振るうのは、恐らくSTR当たりにステータスを振っているからだろう。


 そのおかげで俺は命拾いしたからそれは良い。

 だが、もしSPDを上げてないで俺より少し遅い、ということは、だ。


「やってくれた……な」


 VIT……耐久値も、最低でその程度あるということではないのだろうか。


「ダメージはないが、驚かされはした」


 ダメージがない。

 ということはVITにもステータスを振っていることが分かる。


 ……え、ダメージがない?


「もしかして……タンク?」

「こんな格好しててタンクじゃなかったら、格好悪いだろう?」


 いや、ダメージがないということはない。

 あの速度で動けてダメージをゼロにするには極振り級のステータスが必要になるのでは? と考え、


「バフスキルとかそんな感じか」

「どうだろうね」


 セイバーさんはゆっくりと自分の武器を再装備することで、手元に持ってくる。


 セイバーさんは先程のやり取りと、俺のクソデカハンマーによる攻撃で、気づいた。


「逃げっよかな……」

「できるかな?」


 俺からセイバーさんに対して反撃する方法がない。


 俺も薄々理解していたけど、俺って攻撃方法がない。

 武器は貧弱、ステータスも貧弱。

 長期戦はできるが、基本オワタ式なのでいつ死ぬかわからない。


 それが、現在の俺だ。


「……じゃ」

「逃さないよ」


 俺は踵を返し、脱兎のごとく逃げようとした……が、それをセイバーさんが追ってきた。

 セイバーさんのバフは、SPDにまで反映しているようで、俺と同等くらいまで速度が出せるっぽい。


 本気でなりふり構わなければ逃げ切れるのかもしれない。


「ま、逃げませんよ」

「へぇ」


 切り返す。

 俺を追っているセイバーさんとの距離が一気に近くなる。


「今度はさせない!」


 セイバーさんはパリィに関しての知識はないだろう。

 というか、持っている人のほうがおかしい。


 だから、パリィに対して対抗するには、俺に攻撃を弾かれないようにすることだ。


 そのために、フェイントをかける。


 下からの切り上げ。


 から、手首を利用することによって横薙ぎに変更。


「あっ!」


 大きな声で、堂々と、フェイントに引っかかり、右手の剣を下に振り下ろす。


「今!」


 セイバーさんの大剣が、俺の攻撃を避ける。


 そのまま、俺の胴に向かって大剣は吸い込まれていき、


「よっ」


 左手の剣に阻まれる。


『セイバーの攻撃、ダンのパリィ、【パリィ】スキル発動、【パリィ】スキル発動、パリィ成功』


 セイバーさんの大剣が、体が、再度弾き飛ばされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日も今日とてパリィ日和!!! ぬー(旧名:菊の花の様に) @kiku_nu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ