38話:対人戦とか結構負けこむとイライラが募る

 迫るセイバー。

 おそらくは俺の装備を見て、こちらが簡単だと踏んだのだろう。


 現在の俺の装備は、初期の木製の双剣と、麻の服だ。

 ゲームを始めたての人と同じ服装と装備。


 どう見たって初心者に見えるのは必然。


 あまりにも当然の対応に俺は、点心さんの方をちらりと見る。

 点心さんは俺から距離を取っていた。


 傍から見れば、俺を見捨てて逃げようとしている用に見える。

 しかし、それは違う。


「ほう。

 流石に初心者でないと思ったが、躱すとはな」

「いえいえ、初心者ですよ」


 俺の邪魔にならないように遠ざかってくれている、のだ。


 俺の現在のSPDは、レベル的には25レベル位(フリーポイントを振っておらず、平均5ずつのステータスが上昇している事が前提)の能力値であり、現在の最高レベルは、28。

 SPD極振りでなければ、俺の先見の瞳スキルもあるので、躱せる可能性は高い。


 俺は少し身を下げ、横薙ぎの間合いから出る。

 少し大きめの回避したので、俺に大剣が当たる気配はない。


「それで初心者とはな……」

「そうそう。

 こんな装備をしているのは初心者だけですって」

「そうか。

 しかし、その動きは恐らく俺と同等かそれ以上の速度を持っている、ということ。

 つまりは最低でもレベル10以上ではある」

「それは極振りの話でしょ?」

「その可能性もあるということだ」


 それとは対象的に、点心さんはSPDなんて上げていないステータスであり、俺と一緒に走ると大抵点心さんを置き去りにしてしまう。


 だからこそ、邪魔にならないように距離を取ってくれている。

 ……ま、別の理由もあるのだが。


 次々と振るわれる大剣を、俺は難なく躱していく。

 SPDが俺のほうが上回っていると言うのもあるが、単純に大剣の攻撃は読みやすい。


 先見の瞳スキルもあるせいで、当たる気がしない。


 4,5振りの攻撃が終わり、点心さんは十分に俺らから距離を取った。

 そろそろ攻勢に出ても大丈夫か?


 その瞬間、セイバーさんが俺から距離を取った。


 距離をとった理由が分からず、俺は抜いていなかった双剣を抜く。


 俺の木製の子供のおもちゃの様な双剣に対して、セイバーさんの大剣は、まさに剣士の体験と言わんばかりの無骨なデザインで、ぶっちゃけ俺のより強そう。


「何をしているのかは分からないが、これを続けていたと時間の無駄になってしまう」


 俺としてはその時間のムダを少しでも積み上げたいのですが、とは言えず、腰を低くする。


 ちなみに、俺はセイバーというプレイヤーがSNSでどのようにしてプレイヤーを集めているのかは知っているが、どんなプレイスタイルなのかは分からない。

 正直そこまで調べる余裕もなかった。


 セイバーっていうやつが最大母数のプレイヤーグループを作っている、というのは知っていたのだが、俺のやることに手一杯で戦力に関しては知らない。


 俺も点心さんも、なるべく戦闘をしないで時間を過ごす方針だったので、そこら辺の調べも甘いのは仕方がない。


「……本気で、行くぞ」


 先程までの戦闘の様子とか、武器の使い方から、何を強くしているのかは知らないが、SPDは高くないということはわかった。


 大剣の扱いに関しても、すごく達人という感じはしない。


 このゲームでは基本的に対人線を行わないことから、モンスター戦に強いタイプ……。


 セイバーの体が光る。


 何らかの効果が現れているのかは知らないが、まだ躱せ……


「『スラッシュ』!」


 先程より速い速度でこちらに向かってくる。

 やばい。

 俺より早い……


 『スラッシュ』は横薙ぎの斬攻撃用のスキル。

 モーションが固定してしまうことを除くなら、どのスキルの中でも一番の効率を誇るこのスキル。

 知識としてあるスラッシュ。


 そして実際に目の前にして見るスラッシュ。


 先見の瞳スキルで捉えたスラッシュは、俺の胴を通り過ぎる。


「うぉあ!」


 情けない声を上げながら、後ろに下がる。


 目の前では、大剣を振るうセイバーさんの姿。

 その姿に死んでいたかもしれないとゾッとしながら、


「それは死にますって!?」

「攻撃を察知するスキル……?」


 俺のことを観察しながら、何かを考えている様子にセイバーさん。

 おそらくは俺が今避けることができたのがなぜなのか考えているのだろう。


 この人、頭が回るのか。


 それだと、先見の瞳スキルに関して知られると面倒である。

 割と現在の状況は、このスキルのおかげでやれている感が強い。


 これがないと恐らく俺は手も足も出ないだろう。


 だから、


「相手してやりますよ」

「ふっ!」


 会話に応じるかと思っていたセイバーさんは、今度はスキルを使わずにスラッシュの返しの刃を振るう。

 今度も似たような軌道。


 今度は先見の瞳スキルを悟られないように、攻撃の前に躱さない。

 その代わり、躱しているはずの時間を使い、俺は手元の双剣を振るう。


「パリィ!!!」


 攻撃する先は、セイバーの大剣の、中。


 そこにストロングポイントはある。


 そこを攻撃することによって、


『セイバーの攻撃、ダンのパリィ、【パリィ】スキル発動、【パリィ】スキル発動、パリィ成功』


 相手の攻撃を弾く。

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