第23話 遺跡
アウロラが突き落とされる瞬間。
「あ、これは駄目です!」
浮遊感。
地に足が付かず、宙に舞っている。
「ぜったい、死ぬやつですうううううううううううううううううううううううう――
アウロラの悲鳴は縦穴の底へと消えていった。
―
――
――っ。
「ギャフン!」
痛い。痛すぎる。
「…」
おかしい。生きている。
運が良かったですわ!
意外と浅かったのかも知れない。体を打っただけですんだようだ。
そして体を起こそうとするが、なぜか動かない。
「…ん?」
うん、なんかおかしい。
これは、なんか違いますわ。
この感覚、この感触。この匂い。
いいえ、この事実には、気づかなかったことにしておきましょう。私はまだ人間を辞めていないはずです。
身体がある感覚が無いとか生温かいぬるぬるした感触とか血の匂いがしたとか気のせいですわ。
暫くして何とか、復活したアウロラ。
天井に光る魔石が付けられており、うっすらと内装が見える。
どうやらここも、遺跡の一部らしい。私の居る場所は小部屋になっており、部屋の壁の一か所に鴫居があり、そこから長い通路がある。
装飾が施された壁、そして、天井にも装飾がある。
その周囲の様子は、普通では無かった。明らかにおかしい。
天井があるのだ。
それにこれは、完璧にフラグ回収である。
「私がどっか行っちゃうフラグ回収です!坑道に入る前から思ってたんですよ」
取り敢えず誰か助けに来てくれることを期待してここで待っていても誰か来てくれるのだろうか?
じっとここで待っていても大丈夫なのでしょうか?
何もせず、待っていても仕方なさそうなので、脱出口か、なにかの手がかりを探して移動した方がよいのではと判断して、通路を進むことにする。
通路をすすむと、脇に何か落ちている。
なにか布に覆われたように見えるそれに近づいてみて見る。
「ひぃぃ」
かつて人だったもののミイラ化した遺体。
数ヶ月か、数年かそれ以上前からここにあって、放置されていたのだろう。
「冒険者というやつでしょうか?」
持っていたと思われる武器や、空の水筒や道具。
ここで力尽きて、それからやはり、ずっとそのままなのだろう。
遺体を通りすぎて、真っ直ぐに向かった先の丁字路のどん突き、窪んだところになにかがある。
そこにあるのは、四角い箱状の物体。
「なんでしょうかあれ?」
近づいて見れば、箱だ。宝箱である。宝物が入っていそうな見てくれの箱が、こんな通路のこんな目立つような所に置かれている。
これは、間違いなく。
「開けちゃダメな奴です」
何故わかるかですって?
「周りに死体が落ちてるからですよ!あれですよシェイプシフターとかいうやつです、名推理ですよ私」
シェイプシフター。何かに化けて偽装しそれを触ろうとする者を襲って食べる魔物である。実物など見たことはないが、本で読んだことがあります。
当然、私は無視します。こんな怪しげなものは開けない。
「右に行くか左に行くかってところですが…」
宝箱を無視して、右に進む、なんとなくだが、道順がわかる。根拠が分からないが、こっちへ進むべきと言う確信がある。
――それから数分の徘徊。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ」
巨大な卵が転がって追いかけてられていた。
「なんですかあれ、なんなんですかー」
つるつるとした表面の卵型の白い物体が鎮座していたのを見つけ、不信に思いながらに横を通り過ぎようとしたものの、なんか気になって、突っついてみたところ、突然大きく口をあけたのだ。
びっくりした私は、とっさに後ろへ飛びのくも、追いかけてくるために、それから絶賛逃亡中である。
横穴を見つけてそこで曲がっても、真っ直ぐに的確に追いかけてくるあたり、どうも意思があって、私を襲う気満々である。
「いや嫌いや嫌、どうしろっていうんですかー、どこまでも追いかけて来ますよ」
通路を走って逃げるが、正面の通路の先にまた、別の黒い影が蠢いているのが見える。途中、死体のそばに落ちていた剣を拾いアレと交戦することを覚悟したが、脇道を見つけたのでそこにはいる。
「行き止まり!?」
通路の先は、広くなった小部屋。
先に通路など見当たらない。
背後から聞こえる音からしてまだ追いかけてきている。改めて覚悟を決める。
剣を向けて向き直る。
剣を使ったことなど無い。でも、剣を振るくらいならばできる。そうして、卵を十分に引き付けてタイミングを計るのだ。
横向きに剣を薙ぎ払う。
転がってくる卵は、跳んでそれを避け、宙に飛んで口を開ける。
脚などは見当たらない、つるつるとした底面、にも拘らず、飛び跳ねた。いたいどういう理屈で跳び跳ねるられるのか謎の挙動。
気持ち悪い。
真っ白な体が縦に割けて、糸を引きながらビッシリと何重にも歯が連なった口内を覗かせてくる。
こんな気持ち悪い生き物は見たことも聞いたこともない。
口を開けて堕ちてくる卵を横に飛んで避ける。
卵は床に着くと、バウンドするように飛び跳ねて、再びこっちへ跳んで来る。
キモイ。
それをなんとか避けて、剣を振るが、またそれを跳んで避けて降ってくる。
飛んでくるのが分かれば避けるのは簡単で、卵を見据えたまま、トントンとステップを踏む。
剣を振らず構えたままじっと卵を凝視するが、すると何故か動かない。
あれ?動かない?
剣を振るフリをしてみる。
すると、跳んできた。
「ふっふーん。なるほど。これはもう私の勝ちです!」
フェイントをかけると、再び飛び跳ねる卵をみて、横にずれるように移動する私。
卵の落下地点にはすでに私はいない。
卵の着地する瞬間を狙って剣を思いっきりスイングした。
「こんのおおお!」
ズシュッ
表面に剣の刃がめり込み、少しの切込みを入れる。
刃が上手く入っていかない
「ぐぬぬぬぬ」
フィレイアや、ボルヴァラスなら、これで両断するのでしょうけど、私にはやっぱり無理!騎士や剣士の凄さが分かると言うものだ。全く切れない。
剣を使うものは、剣を最大源に扱えるように鍛練する、魔物を両断できる業は、日頃の鍛練あってのものだと理解する。
でも、今はコイツ意地でも倒さないと私が喰われる。
その為に力を使う。深淵を剣に乗せて思いっきり振り抜こうと力を込める。
「魔王なめんなああああ」
剣の斬るという概念を深淵は実現させる。赤黒い霧を纏った刃がズブズブと白い身の中へと進入し、次第に切り込む速度を増して加速し最後には一気に振り抜いた。
ズシュッアアアアアア
卵は、上下に分かれて両断され、床に転がる。切り口から、緑色の血が溢れ、面積を広げた。
緑色の液体は、足元まで、次第に伸び、咄嗟に足を上げて避ける。
気持ち悪い。
その気持ち悪さに目を離せない。生きている時も死んだ時も気持ち悪い。最悪である。
やれば出来るじゃないかと自分を褒め称えたいが、それどころじゃない。
「気持ち悪いですよ!」
ストレスがマッハである。
その後も幾度と卵に出会ったが、攻略法がわかった私は、それを剣で両断する。
何度か出会い判ったことは、背を向けた瞬間に襲って来ることである。なので、卵を見据えたまま後ずさることで、戦闘を会費出来ることが解った。とにかく、気持ち悪いので、そうやってやり過ごすが、その為に神経を擦らされる。
他に黒いモヤモヤと、コオモリがいたが、なんとか頑張れば、対処できるものである。
コオモリも気持ち悪くストレスが溜まる。
その後も通路を確信に沿って歩くが、何処か広い場所に出たときには、ストレスが溜まりきってた。
「とてもとてもイライラしますわ!」
その声が空間の中を反響し繰り返す。
思うようにいかなさすぎるうえに、気持ち悪い生物。本当にイライラする。
開けた空間、そこには、神殿の様な建物があり、神殿の手前の広場には台座があり、剣が刺さっている。
周囲には、私が落ちそうな縦穴はなく、そこは安心である。今度は落ちない。
いつも私だけが、あまりにも不可解な偶然に巻き込まれる。ぜっーたいにおかしい。何者かが干渉しているのではないかと思えてくる。
そう思いつつ神殿前の広場に降りると、剣の台座の元へ。その剣が淡く発光しているように見えるが、どうも気のせいでは無さそうである。
そして光球の魔法を解除すると、闇が辺りを一瞬で覆い尽くすことはなく、剣を中心に明るさを称えた。
間違いなく便利アイテム、光る剣だ。
ライティングソード(勝手に命名)を台座から抜く。
「いやん」
いま、変な声がした気がする。しゃべる剣など聞いたことがない。気のせいだとおもい無視する。
神殿へ足を踏み入れると、中央に祭壇のようなものがあり、奥に何か、紋様のようなものがある。
魔方陣のように見えるが、とても怪しい。
魔方陣を調べようとしたその時、闇が周囲にひろがる。ライティングソードの光が照らしていた床は真っ暗になり、その光が天井や床と壁を照らすことを辞める。
発光しなくなったわけではない、光が届かないのだ。
闇が辺りを支配し、光を遮る。
「うふふふふふふふふ」
気持ち悪い笑い声。
同時、暗闇の中に影が現れる。
全身を黒いローブで覆った人影、頭からフードをかぶり、そのフードの中暗くてよく見えない。こいつが笑い声の主のようだ。
足が無く、宙に浮いている。
「あら、その剣…、貴方が抜いてくれたのねん?感謝するわ、でも、残念だけど私の糧になってちょうだいね」
宙に浮いたそれは、一瞬のうちに距離を詰め、アウロラも首を掴んで持ち上げる。
いったいどういうトリックなのか、移動してくる過程が見えなかった。突然闇の中に消えたかと思うと、目の前にヌっと現れたのだ。
【吸魂】
魂を吸い上げられる。あれ?私ここで死ぬ?
こんなに苦労してここまできてこれで終わり?意味が分からない。必死にやってきたのに、こんな理不尽な終わりとか、今までの苦労は一体なんだったのか。
そう考えると無性に腹が立つ。
散々、気持ち悪い思いをして、これですか。
「イライラしますわ!」
左手で、ローブ女の頭を掴む、そして、思いっきり【力】を込める。
【聖光】
ドシュウウウウウウウウウ
「ギイイイイイイヤアアアアアアア」
光が焼いたかのように黒い煙を頭から出したローブ女?が後退る。
「何故ここに神の使途が!何故ここにいいいいいい!」
神の使途?そんなものは知らない。私に理不尽を強いるコイツをボッコボコにしないと気がすまない。今までの分も含めてストレスが溜まりに溜まっている。
こいつには、ストレス発散の相手をして貰うことにする。
許さん!
斬ったら死んでしまいそうなので、剣の腹でぶっッ叩く。
「ヒギャアア」
ローブがのたうち回る。中々に痛いらしい。
フードが捲れ、髑髏の顔が姿を著す。やっぱりアンデッドだったようだ。
剣で叩くたびに悲鳴を上げる骸骨。
「もう辞めてください、何でもしますから」
骸骨なんぞに掛ける慈悲など持ち合わせていない。
最後に深淵で砕いて終わりです。
「ぎゃあ魔王おおおお!お許しお許しをおおおおおぉおぉおおぉぉ少しまって、何でもするから、話、話をおおお」
土下座して頭を垂れる骸骨。
見た目に反して、なんという情けない姿。話だけでも聞いてあげましょうか。
「はぁ、で、なんですか?」
ため息をついて、ボロボロになった骸骨見下ろす私。骸骨はそのほとんどを浄化され、苦しそうに呻いている。
誰かを拷問にかけて喜ぶ趣味は無いのだ。仕方ないので、剣を下ろして様子をみよう。でも何か変なことしたらぶったぎってやりますよ!
「あなた様の配下になるわ。だから、是非ともご慈悲をおお」
骸骨が土下座して慈悲を請うてくる。一杯イライラをぶつけたので、ある程度はスッキリしたと思うが、私を襲った落とし前はつけてもらいたい所ではある。
あと、ここは何処なのかとか、情報を聞き出していおきたいところだ。
声が野太い、ていうか、何故オネェ口調?
「ここは何処?」
「冥王の神殿でございますわ」
冥王といえば、神話に出てくる邪神のことですか。その昔、神々に反逆し、そして、世界を暗黒おとしたとかいう邪神である。
その神殿が地下にあったなんて、知らなかった。少なくとも、地上にはあるなんて言うのは知らない。
「なるほど、貴方は何です?」
「かつて魔王だった者、そして、神殿の守護者。不死の王ドゥラウグァと呼ばれているわ」
「王のくせに弱くないですか?」
「あなた様が強すぎるのよぉ!」
「は?」
「我にこれ程のダメージを与えられるものはおりませぬ」
アンデッドなので、癒しと聖属性、光属性に弱く、私とは相性が悪いのは解る気がします。
「そうなんですか。それで、出口は何処?」
「え?帰られるのですか?」
誰が好き好んでこんなとこに居るというのですか。何を言うやら。
「早くここから出たいのですよ、出口がわからずさ迷っていたらここにきたんですよ」
かいつまんでここまでの経緯を説明し、その後で改めて、出口を聞いてみることにする。
――というわけですよ」
「ここに来たのは偶然ということで、冥王との謁見に来られたわけではなかったということですか。ならば…何かに導かれてきた?」
導かれて?確信めいて通路を進んできたのはそういう?
「もしかしてここに居たら、冥王に会えるのです?」
「ここから冥界に繋がっておりますゆえ、この先の転移陣にて冥界へと渡るのです。ですが、今は会えないようです。門が閉じて四千年は経ちます。貴方様は…。もしかして、開く予兆?なるほど…だとすれば、魔王が一人ここにきた理由も納得が…」
「何一人で何に納得してるんですか」
「魔王は、冥王より賜りし宝玉にて開花せしものであります。そして、創造主たる冥王は、今深き眠りについておられる。ですが、夢の中で世界の動きは見ておられます。貴方様がここに来れれたのは、何かの運命であるとするならば、世界が再び動乱へと向かう予兆?では、切り札…。ああ、なるほどどうやら、貴方が此処へ来たの偶然でありませんね」
「意味が解りませんよ!」
え、何それ、冥王とやらのせいで振り回されていたのですか、許せません。今度一発殴りたいです。
「それじゃ、祭壇にある、その鏡を持っていくのよ」
謎の鏡を手に入れた。
「とりあえず出口、案内して」
もうずっとキレてる。多分ここを出るまで怒りが収まらないと思う。
「出口は数か所あったはずだわ」
「私が落ちてくる前のところがいいですよ」
「なるほど、ドヴェルグの集落のあたりね?いいわ」
――。
「おい、ポンコツ不死王」
「なんでしょうか」
「行き止まりじゃないですか!!」
通路の天井が崩落し、通路が瓦礫と土砂で完全に埋まっていた。
「でも、確かにここには通路があって、その奥に、転移門があったはずなのですが…。天井が崩落して埋まってしまったようね…。ですので、他の出口へと…」
「そっちは大丈夫なのですよね?」
「た、たぶん…。だ、大丈夫かと…、何せ四千年以上前に作られたものですので…。崩落していなければ…」
改めて別の出口へと出発する。道中は楽だった。魔物は全部、不死の王ドゥラウグァに狩らせることで、後はついて行くだけで済んでいる。
問題の卵は、有無もいわさず死亡して動かなくなる。不死王を配下にしたことでストレスフリーになったことは大変良い。ボコった甲斐があったというものである。
「魔王陛下。生体反応よ」
「え?」
「ここよりも、百メートル先にいるわ」
全く見えん。
「真っ直ぐ行くしかないですけど、敵ならやっつけて」
「私にとっては全部敵よぉ」
「あの卵は生物じゃないのです?」
「生物だけど人間や動物とは違うわね。魔物も生命はあるけど違うものよ」
「ねぇ、もしかして、先に居るのって人間なんですか?」
「そのとおりよ」
通路を進めば、不死王の言ったように、男が居た。年は私と同じくらいでしょうか?少年ですね。
「こんにちわ、ここで何してるんです?」
「こんにちわ」
少年を私を見て一瞬驚いたような顔をして、挨拶を返してくれる。
ドゥラウグァは、見た目骸骨のため、敵と判断されかねない。
その為、いきなり攻撃される可能性が高く。様子見をしていきたいアウロラとしては、それを避けるために、隠れて貰っている。
少し前、その旨をドゥラウグァと話すと、私の影の中に溶けるようにいて消えていった。私の影の中を出入り出来る超便利能力である。
最初に私に超高速接近したのもこの能力だ。
「ちょっと道に迷ってしまって、このダンジョンから出れなくなったんですよ。貴方こそなぜここにいるのです?」
彼も道に迷ったという。
んー?道に迷った?彼は冒険者なのでしょうか?
こんな所で一人でウロウロと?
「私も道に迷って、いま出口へと向かうところですわ。貴方は冒険者なのです?」
「そうだが、ですが、貴方は、冒険者には見えない。一体何者かきいていいのか?」
私を怪しんでいます!確かに場違いな恰好ですが、ですが、こんな清純な私を疑うなんて失礼ですわ、貴方の方こそ怪しいわ。私みたいにどこかから飛ばされて来たのかしら?
「旅人みたいなものですわ。トラップを踏んで、友達と逸れてしまったのです」
嘘ではない。
「なるほど、そうなのか」
「貴方も、出口に行きたいのですのよね?」
「そうだが?貴方もは道が解ったりするのか?」
「一様は、…解る?」
「何故に。疑問形」
それは、この不死王が本当に出口に案内してくれるのか分からないからですよ!
「とにかく、なんとかなるはずですよ!」
何とかなると思う。多分。
「……」
名前を聞いて置きましょう。
「あ、私は、ディークルムと言います。貴方は?」
「俺か。…そうだな。ブンサイだ」
「ブンサイ、分かりました。よろしくお願いいたしますわ」
『そこを右よ』
声が聞こえる。これによって意思疎通を図っている。私の影の中にいるときにしかどうやら使えないらしい。
そうして、通路を進めば現れる卵。
「卵が現れました」
「確かに卵みたいなやつだな」
んーどうしたものでしょうか。さっさと倒す?
いや、彼の実力を見た方がいいのでしょうか?
「あれ、なんとか出来ますか?」
「ディークルムは、できないのか?」
「…。あれじっと見てれば動かないのでそれで」
「その腰にある光る剣は飾りか?まあいいか、なるほど、分かったそれでいくか」
ブンサイも戦闘に積極的ではない。私はともかく、どうやって生き延びているのか、つまり、彼も手の内を隠したいということですか。
そしてコオモリ。
「まずいな。コオモリが複数いる」
コオモリか。あれはそんなに強くなかったとおもう。気持ち悪いのは頂けない。
「どうしようかしら、あれそんなに強くないですよね」
「なに!?」
え?
「倒せますよね?」
「ああ、余裕だ」
余裕らしい、安心ですよ。なんか驚かれた気がしますが、余裕で倒せるくらい弱いということですよね。気のせいですね。じゃあ行きます。
コオモリが高速で飛来してくる。
コオモリの形をしているが異常に大きい。一メートルはありそうなもの。だが、普通のコオモリとは違って、的が大きい。ゆえに飛んで来るところを剣を振り下ろせば簡単に斬れるのである。
予定通りコオモリを真っ二つにする私。
左右に両断されたコオモリは地面に落下し、黒い霧となって霧散する。
ブンサイの方は、何やら手を付きだすと。コオモリは苦しみ始め。地面に落下して絶命する。
いまの業、何!?
魔法の魔力収束も、予備動作も無しでコオモリが墜落した。
『魔王様。今の業に魔力反応はありませんでした』
「魔法じゃない?」
『違うわ。でも、魔王様の深淵も魔法ではないので魔力は無いでわ、もしかして、深淵かしら?』
ん?魔法じゃないなら何。あと深淵って何?
『深淵は創造の力ときいているわ』
なるほど?創造の力?神の奇跡では無くて?それと同じ?よくわからないわ。
「で、彼はその深淵を使えるということ?魔王じゃないのに?」
『可能性の話よ?他の力かもしれないですし』
「他の力って何?」
『呪力や、スキル、スキルなんて、魔力を介さず強力な力を生み出すでしょ?』
「おい、誰と話している」
彼は、
「なんでも、なんでもないですよ!あはははは」
不審な目で見られている。話を、話をして、気を逸らすんです。
「先を急ぎましょう、この先ですよ!あんたは、どこから来たんですか?変わった魔法を使うんですね。私の国にはそのような魔法はありませんでした」
「遠い国だ。東の方だ――。
彼は東の国出身だといいました。どこでしょうか?あまり自分のことは教えてくれませんね。ま、そういう私もあまり教えられることはありませんが。秘密が一杯ありますね。ですので、私もあまり深く突っ込んで聞くこともありませんし。
適当に話をして、通路を進んでいく。
その後も、何度か魔物に遭遇して、手早く処理して進む。
この神殿には、いくつも部屋があった。袋小路になっている場合や、その先に通路が続いていたりと色々である。魔物が居る場合や居ない場合。宝箱があったりなかったりする。トラップの類は無いので、気を付けるべきは魔物だけだ。
私は宝箱は絶対に開けない。
ちゃんと本物があるらしいのだが、当たりを引ける自身がない。
この神殿遺跡に用は無いの出るだけなのだが、疲労が溜まる。早く出たい。
部屋に出た。
この部屋は、広い。柱が等間隔に綺麗に整列して直立している。
静かだ。
動くものは何も無い。部屋の向こう側に鴨居が見え、そこに通路があるのだろうことがわかる。何もないのなら、真っ直ぐにそこへ向かうべきである。
そう出来ない理由があった。
正方形の部屋の中心、今までの通路や部屋に無かった不自然なものが置いてある。
立方体。
真っ白な表面がつるつるとした平面を持つ正方形を六枚繋げて作ったような物体。
それが、整然と置かれてある。
大きさにして、一辺の長さが、一メートルぐらいであろうか。
怪しい。
とてつもなく怪しい。
「あれ、何?」
「分かるわけがないだろ?」
ブンサイにも解らないらしい。
「取り合えず、スルーして進みます」
『魔王様、不用意に動いちゃダメよ』
その忠告が入ると同時のこと。
身体が弾き飛ばされる。
「え?」
反応出来ないかった。何かが身体を抉った。衝撃で飛ばされ、地面を滑る。
「がっ、あ、…っ」
床を滑る間、足を蹴って向きを変えて、柱の陰へと滑り込む。
よく滑ることが幸いしたか、滑走中の追撃はなかった。
停止した時には、激痛で頭がおかしくなりそうだった。消耗し体が動かない。
キツイ、あ、だめ、意識が…。
アウロラの【光球】の魔法が消滅し、それまでの室内の明るさは失われた。
囚われの姫は、魔王になっていた。 ムムム @henau
★で称える
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