第29話 迷子2

 この穴は、かつて鉱石を掘り出していた坑道跡である。

 だが今はもう使われていない。その理由は、掘りつくして、もう採掘できなくなったことが理由ではない。


 かつて、ここから鉱石を掘り出していたのだが、ある日、その奥で、鉱脈以外のものを掘り当てたのだ。

 遺跡だ。

 硬い岩盤を掘削していくと、ある時、簡単に岩盤が向こうへ簡単に崩れ、不信に思いその向こうを見ると、そこは空洞にが広がっていた。

 周囲を掘り、穴を広げる、その空洞に出て見れば、そこに何らかの建造物があったという。

 だが、それ以来、遺跡を掘り当てた坑道に魔物が現われるようになり、坑道は、封鎖されたのだという。

 現在は、その坑道の入り口だけが、目の前で口を開けている。


 大穴の中、階段沿って降りる。

 穴の底は、上からの光が僅かに入り、ある程度は周囲がみわたすことができる。アウロラは光の魔法を発現すると、更に微かに見えた岩肌と、その形がハッキリと見えるようになった。


「これはすごいな、魔法も極めるとこんな明るいんか、魔術師は、あの魔女っ子の娘だけじゃなかったんだな!ああ、だが、魔王ならこれぐらい出来て当然なのかもな」

 カラムラントは、大層驚いている。驚いているのはカラムラントだけではないようで。

「あの、ロラ?それは、なんですか?」

「【光球】じゃないですか?」

「それはわかりますが、異常に明るい気がしますわ」

 昔から普通に出来たことで、夜の暗くなった王宮の廊下を大体は、これで明るくして歩くなんてことあった。

 本人はなんて事の無いものだと思っていたのだが、どうやら普通のことではないらしい。そういえば、夜や、どこか暗いところに忍び込むこと以外に使ったことはないし、誰にも見せたことは無い。人前で使うのは多分これが初めてである。

 そのため、これが異常だと告げられたのは初めてのことだ。

「普通は、もっと暗いものなんですの?」

「一度切ってみてください」

 言われたように一度、【光球】を解除すると、今度は、フィレイアが魔法を使う。

 今度は、フィレイアの放った光の玉が、周囲を照らし始める。

 確かに、自分の物ほど明るくは無い。

「大体、これより少し明るいか暗いか、この程度のものですわ」

 

 というわけで、光源はアウロラの魔法を使っていくことにするのだが、この穴は通常はここまでである。横に延びる通路は、この穴の底の壁面そこで門で閉ざされているはずであるので、出番はここで終わりだ。


 だが、穴の底にある壁に穴が開いている。

「門が開いてやがる」

 カルムラントだ。


「普通は、この門は鍵をかけて閉じてある、入ることは出来ない。だが、開いているのはどういう事だ」

「もしも、子供たちが中に入って行ってたなら大変ですわ」


「おい、このことを詰め所に知らせるんだ、俺は少し偵察しに入る」

 カラムラントは、付いてきていた他の兵士にそういって引き返させる。とカラムラントは、門の向こうへ向き直った。



「じゃ、私は帰り――「じゃあ、私たちも御供しますよ。ロラの魔法があれば楽になるはずです」


 フィレイアちゃん、なんてこと言うんですか。嫌です、絶対入りたくないですよ。

 きっとこれは、私が行方不明になるフラグです!

 ミイラ取りがミイラになるアレですよ!

 きっと、坑道の奥で変な魔物に出くわして、死闘のすえ、子供たちを守るために私が犠牲になって、更に穴の奥深くに落ちていくやつです。

 私の目の前で何やら、フィレイアとノイエ、カラムラントが何か話してるが、全く聞こえない。

 物理的に耳を塞いで帰る、そうしよう。


「で、聞いてましたか?ロラ、それじゃ行きますよ!」


「ぬああああああああああ」


「どうしたのですか?大きな声をだして、お姫さまなのに、はしたないですわ」

 姫は、そもそもこんなことしないですよ!なんですかこの銀髪お転婆令嬢は。


 そう言って、私達は坑道の中に入っていった。

 ――。



 坑道は、意外と広く暫く一本道が続いており、何もない通路を歩いている。




 真っ直ぐな通路、途中で分かれ道。

「出ました。ゴーレムですわ」

 通路の奥の方、光の届きにくい所。闇の中に蠢く影が見える。


「専制攻撃をしかけたいのですが、ロラ、魔法の出力を下げてください」

「いいですよフィレイアちゃん」


 明るい方が戦いやすいと思うのだが、不思議に思うも、言われたように明るさを下げる。

 そんな私の不可解な顔をしているのを見たのか、フィレイアは、


「ロラ?ゴーレム、つまり魔法生物は、魔力を感知するので、魔法を使えばこちらに気付き専制攻撃に成功しませんわ」

(なるほどそういうことなんですね?)


 そう言うと、フィレイアは剣を逆様さかさまに構える。逆様と言うのは、手に握ったのは剣身の方である。

 なんで刃が付いている方を持つのか。

 すると、フィレイアは一気に踏み込んで距離を詰めると、剣を振り下ろしてゴーレムをその柄の方で殴った。

 ゴキイイイという音が鳴り、勢いよく振られた剣の柄がゴーレムを打ち叩く。

 ゴーレムの岩石の体を砕き、殴ったその衝撃で、ゴーレムは身体を仰け反らして、バランスを崩すと、フィレイアは、それを蹴って押し倒し、そこへさらに、その剣を振り下ろし、ゴーレムの足を柄で殴って砕いて無力化した。


 見事な連続技である。その様子を見た私は突っ込まざるを得ない。


「なんでですかー!」


 なんで、そっち?


「相手は、岩ですよ?剣で斬っても斬れないですわ、まあ、剣技を極めれば、岩でも斬れるようになるらしいですが、私にはそこまでの技量はありませんから」

「そ、そうなのね…」


 フィレイアの謎の剣技のお陰で、現れるゴーレムを倒しながら、坑道を探索する一向。

 そして、進んでいくと、狭い坑道に空間が広がる。

 今までの通路よりも、広くなった空間、そこに人工物があった。その形状は何かの神殿のような建造物。壁面には装飾をほどこされ、柱の上部に発光する魔石が埋め込まれている。神殿の周囲は巨大な穴があり、底が見えない。

 その建造物は、巨大な地下空間の中に浮いているかのようである。

 最初に抱くのは、こんな地下にどうやって作ったのかという疑問である。

 

「いったいどうやってこんなものを…」


 フィレイアちゃんもそう思いますよね。ノイエは、無口だが、少し固まって眺めているので、ものすごく不思議なんだろう。

 不思議なものと言えば、一つ聞いたことがあるものがある。


「もしかして、ダンジョンなどと言われる迷宮ですか?」

「それは、俺にも分からん。だがこいつのお陰でこの坑道は封鎖されたんだ、地下都市のさらに地下に、謎の神殿があったってわけだ」


 この坑道は、遺跡に到達し、それから魔物が出現したという。恐らくこの中は、魔物がいる。


「古代人が凄すぎて意味が分からないですよ」

「ああ、その通りだな」


 遺跡の敷地に侵入し、慎重にすすむ私達。


 すると、

「…なにか。…聞こえます」

 ノイエは、何かを聞き取ったらしい。

「…反響するので、…よく聞こえます。こっち」


 ノイエが先行し、神殿の内部。

 神殿の奥にゴーレムが複数群がっているのが見えてきた。

 長方形の部屋の中の奥。ところどころに穴の開いた空間があった。


「アレはなんです!」

「ロラ!子供たちです!」


 私もそれに気づき、それをよく見ると。建物の崩れた一部の隙間、そこに子供がいる。男女の二人。

 恐らく、坑道の封鎖が破られていたのを興味で、入り、途中でゴーレム遭遇し、ここに追い詰められたのだろう。


 ゴーレムは五体。

 フィレイアは魔力を集め始めると、魔力感知に引っ掛かったのだろう四体はこちらを向いて突進し始める。

 反応が早い。魔法生物は、一体なにを食べているのだろか、一説には、獲物の魔力を吸収して成長しているのだと言われる。

 魔力を放つフィレイアは獲物だと認識されたのだろう。フィレイアを目掛けて真っ直ぐに突進してくるのである。

 みんなは、各々武器を構えて、交戦の体制にはいるが、私は何もしていない。

 私は、来る必要がないのでは?とおもうが来てしまったものはしかたない…。

 よくみれば。ゴーレムは私の方を向いていない、チャンスなのではないだろか?

 皆がゴーレムを引き付けている隙に子供達を引き離せるのではないだろうか。

 私はその隙に横から回り込み子供たちの方へと走る。

 三人で、数的に不利な四体を相手にするのでしょうけど、皆強いから大丈夫でしょう。だから、それを信用して走った。


「助けに来ましたよ、速くこっちに、お姉さんの手を掴んで!」


 子供たちの元まで来て、手を伸ばす私。


 横目でチラッとみんなの方を見る。


 相変わらずフィレイアは、逆さに持った剣でゴーレムを手際よく粉砕する。

 強い。意味が分からんけど強い。

 剣は、持ち手側の方が重い。その重さを利用してぶん殴る。硬い相手に有効な武器であるハンマーやメイスのような使い方をしているのだろう。そう言えば、杖術を習得しているのだと言っていました。

 強いのはフィレイアちゃんだけでない、フィレイアは前衛、攻撃のターゲットを引きつけているその後ろで、ノイエは、魔法を発現する。

 土が集まり塊となり、魔力によって硬度を増した石が発射されて飛ぶ。それがゴーレムの頭部と思われる部分に当たって破壊している。

 そしてカルムラントもまたゴーレムを殴る。ぶん殴る。

 フィレイアちゃんの真似をしているのか、剣を逆様に持ってぶん殴っている。


 よく見たらノイエちゃんまで、剣を逆さに持って、杖を振るみたいにして魔法を使っているじゃないですか。


「なんでですかー!」


 

 子供達の元にたどり着き女の子の手を掴んで引っ張り出す。あとは、二人を連れて、みんなと合流して、こんな物騒なところから離脱するだけである。

 五体いたゴーレムは、すでに三体無力化され、残り二体。あっちの三人は余裕である。

 大回りしてゴーレムを避けて、壁沿いに通る私だが、その手を掴む子供が叫ぶ。


「お姉ちゃん危ない!!」


 真上から来るプレッシャー。何これ!?何か来る!

 アウロラの真上の天井が崩落し何かが降ってくる。

 

 ドゴオオ

「きゃあ!」

 私は、咄嗟に女の子を突き飛ばすが、私はその落下物を受けてしまう。

 強い衝撃。

 降ってきた物体は、トパーズの様な黄色の透過する宝石の様な物体。それは黄金の魔力の輝きを放射している結晶。

 衝撃は、建造物の壁を破壊し、崩壊させると、謎の宝石に吹き飛ばれ、建造物の外に投げ出される。


「あ、私、やば」


 建造物の外は、底の見えない大穴だ。何処まで深いのか分からない。底に打ち付けられれば、まず助からないだろう。

 その大穴へ投げ出された。




 ゴーレムと対峙していたフィレイア。

 上から降ってくる物体に吹き飛ばされるアウロラの様子は、フィレイアから見えている。


「ロラ!」

「エレメンタル!!」


 カラムラントは、あれを見て狼狽える。

 現れたのは、エレメンタルと言われる物質。魔法生物という説もあるが、その正体は謎。

 その宝石は、魔法感知を備え、魔力源を優先的に攻撃することで知られ、結晶か宝石のように見えるが、非常に硬く、ハンマーや戦斧で殴ったところで傷をつけることはできない。

 こいつに物理が通じないことが最大の脅威ではい、魔法を溜め無しで放ってくることである。

 アウロラがまずいことになった、元凶たるあの宝石、しかも、その近くに子供達がいる。アレを何とかしないといけないと思った直後。


「来ました!」


 宝石から、石礫が発射される。複数個ある石が飛翔して迫る。

 その石を、飛んでくることを阻止する。


 冷薔薇【ローザ・ゲレート】


 氷の花が開き、それを塞き止める。ノイエの氷の魔法だ。


「ノイエ!」

「うん。…問題ない」


 宝石の方へ標的を変更したフィレイア。そこにゴーレムの拳が飛ぶと、それを身体を屈めて避け、振り向きながら、遠心力を乗せた一撃でゴーレムを叩く。


「ゴーレム邪魔!」


 よろめくゴーレムだったが、お返しとばかりに、無理やり身体を起こしつつ反対側の腕を振り回してくる。


「俺がこいつらを引き受ける!」


 フィレイアを狙った腕は、フィレイアには届かない。カラムラントがその腕を殴りつけて粉砕したからだ。

 フィレイアは、宝石の方へさらに前にでて、魔法の詠唱。

 直後、黄玉精霊(トパーズ・エレメンタル)から剣身だけの形状のような無数の土槍が伸び、フィレイアを貫かんと迫った。

 魔法の発動までのスピードは、エレメンタルのゼロ詠唱とは勝負にならない。

 同時に魔法を使おうとするならば、魔法の発動の前にエレメンタルの魔法が先に当てられることになる。一対一の魔法戦では絶対に勝てない。


「っ」


 もうすぐで接触し、貫ぬいてくるかと思った槍は、土槍を横からの衝撃でまとめてへし折られた。

 ベキベキベキという喧しい音がさらに周囲に反響し、忙しなく耳を劈く騒音が不愉快に響かせた。

 

「フィレイア!撃って」

「ノイエ助かる!テッラ=ピケットランサ【土槍杭】」


 使うのは土魔法。火の魔法は厳禁である。

 火魔法は狭い洞窟内で使えば、猛毒を発生させるためだ。猛毒は意識を昏倒させ、眠ったように死を迎えるという恐ろしいものである。

 そのためフィレイアの得意な火魔法を使えない。

 

 だが、表面を円錐形の硬化した槍が突くが、あまり効いているようには見えない。


「殆ど、ダメージが入っていないわ!」


 効いていたとしても、生物の様な反応がなく、分からない。


「…次が来る」


 次は、大きめの石が投てきされ、若干の放物線を描きながら、飛翔する。


「ちっ」


 それをなんとか躱すが連射が可能なのか連続して放たれる。このまま、避けながら接近して、殴りつけたい気分だが、堪える。ゼロで魔法を使う相手である、接近は危険である。接近した瞬間ゼロ距離でセロ詠唱の魔法を当たれては一溜りの無いからだ。

 宝石の猛攻に距離を取り、必死に避けながらも、簡単な魔法を挟み込む。だがしかし、有効な攻撃とはなっていない。


 ガキィィン


 暫くの攻防、そして、金属の打ち付ける音響がした。

 同時、宝石が傾ぐ。

 黄玉精霊に何かしらの衝撃が与えられたことによるものだと見てすぐにわかった。

 カラムラントによって、建造物の柱の残骸を打ち付けられていた。

 宝石の放つ魔法は、制御うしなったかのように、照準の方向が暴れ、壁や天井を打ち付けて破壊する。


「やはり、硬すぎるぜコイツ」


 魔法関知は、魔力の大きい方を優先するのだろうか、カラムラントの接近に気付いていないのか、それとも無視していたのか、カラムラントの一撃をまともに受けていた。

 更にカラムラントは、宝石に剣を叩きつけて床にめり込ませる。床が割れて、タイルが捲り上がり、そこに綺麗な宝石が埋まる。カラムラントは、すぐにそこから飛びのくと、落下する柱の残骸が宝石を叩きつけた。


 ベキイッガガガガガ


 豪快な音。だが、それでも表面に傷は入らない。なんという硬さ。だが、何かしらの効果はあるのか、魔法の発動が止まっている。


 それでも、少し時間は稼げたはずだ。魔法を発現するまでの時間だ。


「ド・ラルチェ=エルジオン」

【爆炎】


 火魔法は使わないというルールを破った高威力の魔法。爆発を伴った炎が起こり、灼熱の炎は、宝石を焼く。外気の入らない空間は、一瞬で熱を持ち、熱気が充満する。

 

 赤く燃え盛る炎、そこへ、更なる魔法が撃ち込まれる。


「ド・ギアクリック=コファント」

【氷棺裂】


 魔力感知で反応し、土魔法を放つが、僅かにノイエの魔法が早く、宝石を凍り付かせる。一瞬にして、宝石を氷の塊が覆つくし、氷の棺を作り上げる。

 さっきまでの熱波は消え、冷気が立ちこめる。

 次の瞬間、氷に亀裂がはいると、弾け飛んで崩壊された。

 魔法による急速な冷却、そして、破砕。

 標的を氷で覆い標的ごと魔法の力で粉砕する恐ろしい上位魔法だ。


 フィレイアとノイエの持つ最大級の魔法攻撃。これで、宝石にダメージが入らないなら、絶望的である。


 宝石はゆっくりと起き上がり、こちらに向き直る様子を見せる。


「まさか、効いてない!?」

「…まって」

 

 ピシ、


 ピシピシ、


 ピシピシピシイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!


 黄色い宝石に亀裂が入った。

 あれだけ殴っても傷のつかなかった宝石にヒビがはいる。魔法は効いていたようだ。

 

 まだ宝石は、健在である。これの攻撃パターンがさっきまでと同じならば、次の数手で決めれる。さっさと倒さないといけない。

 ロラの事が心配であるからである。


 宝石は、スライドするように移動して、私達と距離を取る。

 行動パターンを変えた?

 そして、身構える私たちを前にして、宝石はそのまま、建物の外周にある縦穴。そこまでスライドしていく。

 そして落ちた。


「エレメンタルって、自害するのです?」

「どんなにつよい物理でも効かないやつだ、高所からおとしたところで、破壊でききんだろう。逃げたか」

「そんなことよりも!ロラが!」


 フィレイアは、縦穴へ身を乗り出して、見下ろす。


「嘘…。嘘よ」


 真っ黒な暗黒があるだけで何もなかった。

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