第22話 迷子

 かつて、神々は土から人を作った。

 神々の祝福の元、人々は、発展し文明を築き上げた。

 人々は神々に感謝し、その繁栄を享受していた。

 その繁栄は、ある日のこと終焉を迎えた。


 魔王が現れた。


 魔王は、様々な魔物と魔族を従えこの世界に住む人々を蹂躙し、

 文明は破壊され、世界を絶望へと堕とした。

 なんと、むごいことか。

 魔物と、魔人は人々次々と殺し、そして、喰らい。

 人々から安息を奪いつくした。

 そして、降り立った邪神は、人々を恐怖へと堕とし、

 空は暗黒に染まり、大地は焼け、川と海は、流れた血で赤く染まった。


 だが、神々は人々をお見捨てにはならなかった。


 神は大地へと降臨し、七人の乙女にその光の加護を御与えになった。

 七つの光は、人々を導き、魔王へと反撃を開始した。

 邪神そして魔王軍との戦いは、熾烈を極め、大地を割き、天を割いた。


 終わることのないと思われた戦いは、ついに、人々は光を取り戻した。

 暗黒は晴れ、川と海は、青きを取り戻した。


 熾烈なる戦いのあと、邪神は、冥界へと堕ち、神々は再び、お隠れになった。


 なんと醜悪なことか。

 卑しい魔王はいまも燻っている。

 魔王は、再び世界を混沌へと導くために、その汚らしい口を再び開けることだろう。


 悲観する必要はない、神は、人々をお見捨てにはならない。

 来るべき戦いの為に、力を蓄えておらえるのだ。


 見よ。七つ光は、未だ失われてはいない。

 魔王を遂に滅ぼすために、神は再び大地へと舞い降りる。

 邪神を消滅させ、神々は、この暗い大地へと再び光照らすことだろう。


 神を信じなさい。

 神は、我々をお見捨てにはならない。

 神は、我々を天へと導くために再び降臨される。


 さあ、その時を待ちわびようでは無いか。

 神を迎えるのです。世界のために。人々のために。


 邪神とその眷属たる魔王を滅ぼした時、神々と幸福と秩序の新世界を迎えるのです。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ――官邸に呼ばれた翌日。


「フィレイアちゃん!行くところがあるので、付いてくるといいのですよ、あとノイエもですよ」

 アウロラは、フィレイアを連れてどこかに行こうという。

「どこに行こうと言うのでしょうか、ロラ?」

「いいから、いいからついてくるんです」

 そう言って、フィレイアとノイエを連れて出た――。


 


「えっと?いいのですか?本当に?」

「いいんですよ、武器を失っていたのですよね!二人とも!」

「大好きです。ロラ!」

「…。私も。ですか?」

 私に抱き着いて喜びを表すのですが、うん、柔らかい。羨ましい、もぎ取って私に付けれればいいのに。


 フィレイアとノイエは、剣士や闘士では無く、魔法士だ。だが、その戦闘スタイルは近接。そのために彼女の使用する武器は特殊なので、普通に買えるものでないため、作ってもらう必要があるのだ。

 折角、ドヴェルグ地下都市へ来たのだ。作ってもらわない手はない。

 先日、ヘラルデートからさらに、武器を作れる職人の紹介を受けていたのだ。

 先日と同じ工業区にある鍛冶師のところに訪れ、今、その打ち合わせを行っている。


 彼の名は、アンダンラウト。

「近接用のロッドか。杖術用の杖は作ったことはあるが、魔法士の杖と兼用の様なものか…?」

「私は、杖術と剣術は習得していますが、魔法士なので、魔法が効率よく使える必要があるんです」


 魔術師のように魔法を使うものは、杖を使うが、その形状は様々であるが、多くは先端に魔石や宝石を装着する。魔術師は、基本戦闘では前線にでない。だが、まれに前衛を抜けて来た敵から身を護るために杖術を習得するものもいる。

 これは、護身用であり、メインで使うことはない。ゆえに、殴ることに特化してつくることもない。また、魔術師などの魔法用の杖は、魔石や宝石を付けるために、殴れば破損しやすい。

 そのため、フィレイアの杖は、石を守る構造にする必要がある。

 ノイエの方も同じと言っていいが、ずっと剣の装備であり、近接のときは、基本は魔法は使わないらしい。


 アンダンラウトは、それを踏まえて色々と思考を巡らす。

「魔法剣士と言う存在があるらしいが、大昔に、そのための特殊な剣を作ったという話がある。それにちかいものを考えるか」

「魔法剣士って本などで読んだことはありますが、本当にいるの?」

 私は、そんなものが本当に居るのは知らない。なので聞く。

「昔は居たみたいだな、今はもうそのような発注もないがな」


 魔法を使える剣士が居るのだが、普通は魔術師か剣士に分かれている。魔法を使うためには、魔力の収集、捻出が必要であり、そのために集中する必要があり、剣を振りながら魔法を使うなどは非常に難しい。使えても低威力の簡単な魔法しか使えないのだ。

 魔術師は後ろで、集中し魔法を使うので、魔法を使うための効率を重視した装備になる。

 それに魔術も剣術も習得に鍛錬も必要なので、エキスパートになるためにどちらかに寄るのは当然でもある。というわけで、魔法剣士などは、お話の中でしか居ないのである。


「文献を調べるので、ちょっと待っててくれ」

 アンダンラウトは、そう言うと奥から、一冊の本を持ってくる。そして、本を捲ると、幾つかのぺージを見せる。

「こういう物だ。魔法付与という概念がある。もしくはそう言った魔法だ。魔法剣士は、そう言った魔法の使い方をする剣士だ、剣に特殊な鋼を使う、魔力を帯びた魔鉱や、魔結晶を鍛えて作るわけだ。お主のように剣術を使うことができ、近接によって武器を通して魔法を使うなら魔石や宝石を組んだ杖よりも、鋼をそのように作った方がよさそうだ」

「そんな鋼があるのですか…。今まで、魔石を強化した金属で保護したロッドをつかっていましたが」

 フィレイアは、聞いたことがないらしい。私もです。

「フィレイアちゃんの武器は、その鋼を使って、ロッドより剣にしたほうがよいということですか」


 それから、鍛冶師アンダンラウトのその提案で、さらに、形、大きさ、意匠を詰めていく。それから、二時間。


「これでいいなら、早速とりかかるぜ」

「じゃあ、それでお願いしますわ」

「…よろしく、お願い、します」

 ノイエ、フィレイアの合意で、発注が決まった。



 ――ホテルへの帰り路。


 アウロラとフィレイア、ノイエの三人は、工業区を歩いていた。

 これが地下だとは思えない程に整備された道と商店、工業区とはいっても、工場だけが並んでいるわけでもなく、特注、オーダーメイドといった注文をとるために工房に売り場が併設されているところが多数ある。

 聞けば、鉱山の入り口が近くにあり、さらには、もう使われていない穴も複数存在しているという。


「ロラ。あのグナトゥスはどこから出てきたのだと思いますか」

「分からないですが…。ここって、全部に扉が付いているのですよね?」

「そうですわ、昨日と今日、鍛冶師も木工師の方も扉があるので入れないって言っていましたし」

 フィレイアもそう聞いていたみたいである。

「そうだとしたら、鉱山の穴から出てきたのか。何者かがどうやってか持ち込んだのどっちかにちがいありません…、めんどくさい」

「そうなりますわね」

「鉱山内部で魔物は発生すると言うのは聞いたことがありますよ、でも、ドラゴンは知らないですよ」


 祖国エーデルライトにも鉱山はある、内部で魔物の発生し、軍部から討伐隊の派遣をすることがありました。でも、それは、いずれも魔法生物だったはずですが。

 魔法生物とは、魔力素や、他のエーテル体の作用によって生まれたゴーレムやスライムなどだ。

 普通、ゴーレムやスライムなどは、飛行しない、ゆえに、ドヴェルグ達も、あのような飛行するような相手に苦戦を強いられていたのだ。


「ドラゴンがエーテル体ってことはないですわよね」

 フィレイアがエーテル体で無いと言うことを私と確認するように聞くが、私もそんな話はしらない。

「私も、詳しくは知らないの知らないですけど、違うと思うのですよ」

「…私も。違うと思う」

 ノイエも同じ意見だ。



「話は戻りますけど、破棄された穴ってこれのことでしょうか」

「大きいですわね」

 フィレイアとアウロラの二人の歩く右手側に巨大な穴が口を開けている。あなの縁にそって螺旋状に降りていくことが出来るようになっている。

 本当に大きい、何年も掛けて掘削した結果だろう。対岸がかなり遠くにある。



「…。なにか、…あったみたい」

 ノイエは、この辺りの異変に気付き、私も何かに気づいた。

 周囲が騒がしい。

 なんだろうか?何人かの人が集まって話している。

「ロラ、どうしたんでしょうか、なにかあったのかもしれません」

「あれぜったい、面倒ごとじゃないですか、私が巻き込まれるやつに違いありません」

 フィレイアの反応にして、私の反応である。フィレイアは、驚いて私をみる。

「アウロラ様!?」




「おお、先日の英雄一行じゃないか」

 何事かと話す私たちに、声をかけてきたのは、カラムラントだった。

「なんですか、その大袈裟な呼び名は」

「アレはキツかったからな。あのままだと更に被害が大きくなるとこだったんだ、手を貸してくれなければ、やばかったな」

 私は素直にそれを受け取りますよ。

「助けになったのならこちらも嬉しいですよ」


「それで、何かあったのですか?」

 そう訊いたフィレイアにカラムラントは答える。

「子供が行方不明なんだ、今朝出ていったきり帰ってきていない」


「まだ、どこかで遊んでるんじゃないですか」

「そうだといいんだがな、飯を食いに一度帰ってこないってのも、おかしいだろ?」

「…。大変です。…探したほうがいい?」

 ノイエはそういうのだが、私たちが首を突っ込むべきではないきがすのですよ?

「どこかで、見つけたらお知らせします」

 私は迷わずそういうのです。


「だが、一つ気になる情報があってな。よく子供らがこの穴に入って遊んでるっていうんだ。下の方は、門で封鎖してあるし、入ることは出来ないんだがな、上からしたのほうを見る限り誰もいなさそうだがな」

 穴の周囲についている欄干に近づいて、身を乗り出して下を覗けばなるほど底が見える。誰かいるようには見えない。



 話をする限り、残りはこの穴の捜索だが。

 さらにフィレイアと住人が話をして、どう話が進んだのか、中に降りてみようということになった。

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