第21話 ドヴェルグの地下都市III
ドラゴン騒動から、翌日である。
『それぐらいなら、職人を紹介しよう』というわけでやってきたのはここ。
カルムラントの案内で、工場のようなところにきた。大きな箱型の建物があり、正面には、何枚もの板を連接したような壁がある。
「鎧戸が降りているな」
「鎧戸?」
カルムラントの言う鎧戸がなんなのかわからない、なので、アウロラはそれを訊き返す。
「これのことだ」
そこにあるのは板を連ねたような壁。触って押してみると、少しバコバコと動く。
「ここだ、兄貴いるか?」
「その声は、カルムか、なんだ。ちょっと待て、今開ける」
暫くすると、壁が上へ向かって動き出し、下の方から隙間が開き始めた。
鎧戸が開くと、中にから現れたのは、如何にも頑固そうに見えるドヴェルグ族。
「おう、あ、なんだ?どうしたんだいったい」
「このお嬢さんたちが、職人を探してるンだとよ、話を聞いてやってくれないか?」
「俺は、ヘラルデートという。そうかよし、聞くだけならいいが、言ってみろ」
カルムラントは先程のドラゴンの話と経緯を話して、続いて主目的であるアウロラの部屋の改装の話をした。
「「……」」
カルムラントとヘラルデートは何もいわず固まっている。
「どうしたんですか?」
「今…。魔王城と言わなかったか?」
ヘラルデートは、話の中に出てきた不穏な名詞を聞いいていた。
「そうだけど、何か問題ありますか?」
「まじかよ」
「すると、このお嬢さんが魔王だと?」
「まあ、そんなところです」
疑いの目。カルムラントとヘラルデートは、本当に魔王かどうか疑っているのだろう。見た目がこれであるのだから仕方ない。
「アウロラちゃんー、アレだしてー」
【魔王の波動】
アウロラは手を上に突き出すと、赤黒い靄が溢れだし、
呂色の波動を放ち、強烈なプレッシャーが周囲を圧迫する。窓が小刻みに震え鳥肌立つ音を立てる。一目みてこれは、触れることのできない強大な力の代物であると解る。
「うおああああ!」
「なんなんだこれはぁ!!まじかよ!」
ドヴェルグ族の二人が仰天し声をだして狼狽える。
だが、アウロラは、その二人の様子に、何とも言えない気持ちになっていた。
「……。っか弱い女の子がこんなもの出しちゃいけない気がします!!!」
「本当に魔王か…?」「なんということだ」
「ち、違うんです。違わないけど違うんです……。また、別の疑いの目!!そうです!私が魔王バールなのですよ!」
カルムラントとヘラルデートは、目の前に魔王がいることに信じられんという表情だ。だがその驚きは、それだけの理由だけではないだろう。魔王の正体がこんな美少女だったということもある。
その魔王が売買取引をしようという。
ヘラルデートは、暫く固まっていたが、平静を取り戻すと、取引の話にもどす。
相手が魔王であるということに驚いたが、代金を払ってもらい、都市を守り、カルムラントの紹介である。特にそれを断る理由も無い。なので、
「ああ、わかった。仕事を引き受ける」
「感謝いたしますわ」
「だが、暫く待て、俺もまだここの仕事もある。あとあれだ、商業ギルドに報告もしなきゃならん。すぐには行けないが構わないか?」
「すぐ来て!!」
「他の仕事や、報告とか事務とか」
「それは、後ででいいですよ」
「いや、だから」
「魔王の言―「アウロラちゃんー?わがままは行けませんよー?」
ルール違反だ。それは言ってはいけない。例え本気でなくともだ。
魔王も他所の王だ、他国の君主が他所の国で、権力を振りかざすのは問題である。だが、あまり魔王の実感を持っていないアウロラは、あまり深く考えていない。
レリアーナがよこから口を挟んで止めてくれなかったら危なかった。穏便に済ませるためには、ルールは守らなくてはいけない。
今日のところは、仕事の依頼の打ち合わせをして、その日の予定が終わった。
――翌日。
地下都市の官邸へ呼び出された。
先日のグナトゥスの件のことだ。
応接室に案内されてそこで待っていると、一人の女性が入ってきた。
「よく来ていただけました。わたくしが、この都市の元首、アナナ・コモルサスです。ドラゴンの退治に協力していただいたことに感謝します」
入室してきた女性は、その名を名乗り、元首であるとそう自称した。
「私がディールクルムですわ」
アウロラはそう名乗ると、それから、他のメンバーが自身を名乗り、具体的な話に移行する。
そして何用であるのかというと「魔王である貴方とお話がしたいだけです」とそう言った。
「先日、グナトゥスが現われました。あれがどこから現れたのかまだ判りません。あれの退治の協力のお礼がしたいのもあります、その前に、ね」
「……。値踏みですか、信用に足るか、脅威であるか、敵対する者であるのかどうか確かめたいのですか」
「あら、さすがの王ですね、ただの小娘ではないようです…」
「小娘とは酷いですわ。これでも私は、…あ、なんでもないですわ」
「そう言えば、貴方に
この人、勘がいい?のでしょうか?
「貴方のように金色の…」
あ、違う、私のこの見た目で疑われてる!話を話を変えないと!
「そういえば、ここに入る時に何か問題が起きているようなことを言ってましたが」
「無理やり話を逸らそうとしているわね。やっぱり、なるほどそういうことですか」
…バレていた?
「……」
「情報は武器ですよ?魔王様?ドヴェルグ族は、伊達に長命ではないのです。よし、それでは、問題のことを離しましょう。問題は、北と北東の門です」
門を通過したときから、マークしていたのですか!
「ここから北の入り口…。帝国が包囲してるとか?」
「その通りです。私達の産業は鉱石だけではありません。木材などの素材は外にでて採取する必要があります…」
「…そんなこと、私に話していいの?付け込まれるわよ?」
「そうですか?私が、貴方の弱みを握ったの忘れてませんか?」
「うっ」
惚ける?惚ける?惚けたほうがいい?
「ですので、私達も安心して取引ができるというものです」
さいですか。信用されていない。
元首は話を続ける。
「そこで、北は帝国が張っているために、外に出ての採取が出来ないのです、南の真樹の大森林は主対策が必要ですし使えません」
「つまり、私に帝国を何とかしてほしいということですか?」
「そうですね。帝国はその内、ここの制圧に動きます。その時に手を貸してもらえればと、先日のグナトゥスに手も足も出ませんでしたから」
「送り込んで来たのは、帝国…?」
「私達はそう考えています。門を通過する者はチェックしています。そして、怪しい者がいたのですが、その者は北門から入っていました。拘束したのですが自害したのです」
アナナ・コモルサス元首は、グナトゥスの襲撃は、帝国の差し金だと考えている。だがどうやって、グナトゥスを都市内に放ったのだろうか?
「そうですか。門は三か所だけじゃないですわよね?」
「東のフランブルク王国側の門があります」
フランブルク王国は、魔国領バールの北、帝国の南で国境を接している王国である。
なぜ、ここを攻め落とす必要がある?ドヴェルグ族の技術を奪うことが目的でしょうか?
アウロラは、頭の中で、王女時代に知った列強とその勢力を復習する。
帝国は、最近、聖光国に侵攻したはずで…。
まさか、グロリスブルク家は追い詰められている?それほどまでに
銀の心臓の裏に、西方諸国があると言われているが…。
「東は、問題はない?問題は北なのですね。わかったわ」
「同盟の締結、よろしいですか?」
「いいですよ。それと、聞きたいのですが、人間は信用できないですか?」
「当たり前じゃないですか」
「私の弱みなどと言わず、同盟には応じます、従属は要求しませんよ」
千年もの間、他国との関係を制限してきたのは他所を信用ていないからでしょうね。
「他種族の争いに関わりたくはありません。そのため鎖国するに、こしたことはないのです」
そんなこといってますが、直接悪意をもって接触されれば、関わらないわけにはいかないでしょう。相手が強大であれば、滅ぼされて終了です。
同盟の締結。
ドヴェルグ族は他種族を完全には信用していない。ゆえに、優位の立ち位置でしか交渉を応じたくないのだろう。そのため、私の弱みを持って交渉をしようとしたのだろう。
今日のところは、これで終わった。
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