第20話 ドヴェルグの地下都市II

 翌日、商業区から北部へ移動する。


 ホテルをでて、目的地へ移動するための乗り物の乗り場まで来ていた。

 幾人かのドヴェルグ族が何かを待っている。


 どれくらい待ったか、時間にして十数分くらいか。


 右手の方から何かが近づいてくる。

「なんですかこれ」

「私にもわかりません」

「始めて見ますねー」

「…わかりません」

「なんぞこれは」

「これは…いったいなんだ」

 車輪が連なった箱状の物体三つほど連結し、地面に敷かれたレールに沿って移動してきたのだ。先頭の車両は形状が違う、先端が突き出したような形状で、その後部操舵?室?が付いている。

 レールの右側、奥から進んできた箱は、目の前で止まると、その箱の側面にとり付けられていた扉が開いた。

 扉が開いた直後、どこか他の場所で乗ってきたのだろうか、中にいた何人かの人が出てくる。

 箱には窓が付いており中の様子が見え、まだ、幾かもの人が乗っているようで、全員が降りてきたわけではないようである。

 次に、乗り場で待っていた人々がその動く箱に乗り込んでいく。

 今までみたことの無い謎の乗り物に一同は唖然として固まる。


 これが噂に聞く、機関車という乗り物だろうか。


 正直なところ、嘘だと思っていた。

 馬が引いて走るわけでもなく、一人でに走る乗り物。そんなものが本当に存在しているのか疑わしく、夢や幻想の類だと思っていた。

 が、それが、現実に、目の前に存在している。

 いったいどういう仕組みなのか、念動力系の魔法で動かしているのであろうか?

 見た感じでは金属製の箱であり、かなりの重量であるはずだ。その質量をどうやって動かしているのか?

 そもそも、どうやってつくったのか?疑問が尽きない。


 これがドヴェルグ族の技術…。


 乗って大丈夫なのでしょうか…。

 隣のフィレイアを方を向くと、私と目があった。

 そして

「取り合えず。乗りましょうか、お先どうぞ、アウロラ」

 すると、フィレイアは、目が合った私に先に乗れと申してくるではないか。

 こんな得体のまだ分からないものに先に乗れる訳がない。フィレイアちゃんが先に試すべきです。なので、

「フィレイアちゃんが、先に…」

 そう言って先に乗せようとするのだが

「いえ、私は…。どうぞ、アウロラ様の方からお試しに」

 と、フィレイアは、アウロラを後ろから押しいれようとしてくる。

 そうなるとアウロラも負けてはいられない。

「いえいえ、こういうのはフィレイアにお先を譲ろうかと」

 フィレイアを中へ引っ張りいれようと腕をつかんで前へ引く、アウロラ。

 フィレイアもまた抵抗し、アウロラを押し込もうとしてくる。

「怖いのですか?アウロラ様」

「そんなことはないですわ。フィレイアこそ何を躊躇っているのかしら」

 それでも、お互いに引くことはない、幾度かの攻防を繰り返し、腕を掴み合って取っ組み合う。

 

「「ぐぬぬぬ」」


 ドアの前で行われる、金と銀の攻防。腕を掴み合って押し合いをしている。他の乗客の迷惑である。

 それを見ていたレリアーナ。

「仲がいいですねー?なら、どうぞいっしょに乗ってくださいー」

 レリアーナはそう言うと、手に持つ杖が光りだす。

 その直後、アウロラとフィレイアの二人は見えない力によって中に押し込ませ、その反動で、前に倒れ賭け、二人の足が縺れ、全身を床に打ち付けた。

「きゃあぁ」「キャン!」


「「やれやれ」」

 後ろから見ていた男性陣二人は呆れられながら、機関車の旅は始まった。




 何年掛けて掘ったのだろうか、広い。

 窓から見た外は、地下とは思えない広さの空間が広がっていた。

 その地下を機関車が走っている。

 商業区の街並みを通り抜け、そして、住宅街を抜けたかとおもうと、トンネルを抜け、さらに複雑に作られた空間の合間を抜ける。


「フィレイアちゃん、あれはなんですかどうなってるんですか」

「アウロラ、なんですかこれどうなってんですか」

 二人、何かに反応しては動きまわり、何かを見つけては、声をだす。


「すっごーい」「なにこれなにこれ」


 何かに触っては声をだすが、それしか言っていない。

 感動しすぎているのだろうか、フィレイアとアウロラの語呂が失われている。

 

「アウロラ閣下」「フィレイア」

「「恥ずかしいから、じっとしていろ」」


 そう言われ座席にもどる二人だったが「貴方のせいで怒られたじゃない」と二人の間で言い争いが始める始末。


「仲がいいですねー。このまま何事もなく、着けばいいですねー」

 レリアーナちゃん!?




 そして、何事もなく駅に無事到着した一向。

「なにも起きませんでしたねー」

「残念そうに言うの止めてくださいます?」

 レリアーナめ、事件起こることを期待して言ってたんですか!酷いですよ。

「アウロラちゃんなら、何か問題を起こすかとー」

「起こさないですよ!失礼ですわよ」

 私には、目的のものを探さなくてはいけない。人間サイズのものを探さすという使命があるのです。事件になんて巻き込まれてなどいられませんよ。


「さて、どっちにいけばー「ドオオオオオオン」


 爆発音。


「ばかな!?」

 何でこんな時に、事件が起きるのですか。

 その思わず突いて出る私の信じられないという言葉に合わせて、レリアーナは事件発生の報告をする。

「事件がおきましたー」


「嬉しそうに言うの止めてください!?」




 周囲の市民も顔見合せ、いったいなにが起きたのかわからない様子である。

 その様子から、普通ではない何かが起こったのだろうかと思う。


 そして、音がしたとおぼしき方角をみると、上空へとなにの影が上がって行くのが見えた。

 それを見た周囲の人々は、悲鳴を上げたり、慌てたり、様々な反応を見せ、それがなにか異常なことが起きているのだろうことを確信する。

「ドラゴン族だな、一匹ではないぞ」

 ボルヴァラスの言うように上がってくる影は、一匹ではなかった。遠くで数匹のドラゴンが飛びまり、そして、火を吐きながら暴れていた。



 数分後にはあちらこちらで火の手が上がり、街が壊滅的被害をもたらしはじめる。

 数匹のうちの一匹が此方の方向へ向かって飛んでくると、市民は一斉に逃げ出し混乱する。

 ドヴェルグの兵が応戦に駆け付けているがまったく歯が立っておらず。魔術師の魔法は簡単に回避されている。誰が見ても不味い状況である。

 ああいった魔物に対応することに慣れていないのだろうか?ドヴェルグ族の兵は翻弄され、蹂躙されつづけているように見える。


 それにしても、あのドラゴンに見覚えがる。


「えっと、あれ、魔王城にいるのと同じやつじゃないですか…?」

「そーですねー、小型種のグナトゥスですかー」

 魔王城にいるやつ、あんなに狂暴なんですか、やっぱり、危険生物じゃないですか。


「閣下、どうする?」

「ラクーツカ、私に聞かれてもこまりますよ。…えっと、でもあれ、不味いですよね」

「ああ」


 ドラゴンが暴れまわり、地上に向かって火を吐いている。地上から跳ぶ飛び道具、おそらく魔法を回避し、火もしくは急降下して攻撃しているのが見える。


 私の周囲に助けにいって戦力になる人物が五人いる。アレを退治するにしても、さてどうするか。

 飛行し、空中から火を魔物に対応するにはこちらも飛行した方がやりやすいのは確かだ。なので飛行ができるのは、レリアーナとボルヴァラスであるが、魔法なら遠距離も叩けるはずだ。よって、飛んでるのはレリアーナに頼みたい、それに魔王城にいたドラゴンと同じ種類のやつだというのだが、レリアーナなら大丈夫だろう。

「レリアーナちゃん、あれ倒せます?」

「あの程度のドラゴンなら、よゆーですねー」

「お願いしていいですか……。よゆーですか。流石長命の魔女。」

「長命は余計ですが、いいですよー?ちゃっちゃと終わらせてきますー」

 そういうと、レリアーナは、箒に腰かけるとと上空へ上がっていった。



 だが、一つ気になることがある。

「あの箒、どこからだしてきてるの?」

 アウロラは、不思議そうな目で、レリアーナを眺めていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「くそ、なんだこいつらは?」

 翼の生えたグナトゥスは、滑空しながらその鉤爪を振りおろす。

 それを間一髪のところで避け、振り向くが、グナトゥスは、すでに上空へ飛び、剣の届かない位置へ滞空している。

「魔法だ、撃ち落とすんだ」

 火球がグナトゥスに迫り、撃ち落とさんがするが、それも当たることなくグナトゥスの後方へ飛んで行く。

 素早い動きで空中を飛び回り、その回避能力で、ドヴェルグ族の戦士を翻弄していた。

 ドヴェルグ族は、どうやら飛行する敵との戦闘に慣れていない。

「一体、どうなっている。こいつら一体どこから入り込んだんだ!?」

 グナトゥスが市街の方へ行かないよう、攻撃をしつづけ、ヘイトを引き付けようとしていた。

 だがもし、ドヴェルグ族の戦士が倒され、攻撃の手が止まってしまえば、グナトゥスは、更なる獲物を求め、居住区へ行き、さらに被害が広がってしまうことだろう。

 このドヴェルグ族の戦士の隊長格のカルムラントは、必死に耐えていた。だが、別の部隊の防戦は崩壊を迎える。

「カルムラント!向こうはもうダメだ、引き付けられない。死傷者が多数だ」

「くそ!!」

「突破されて、一匹向こうへ行った!!もう駄目だ」



 ドヴェルグ族の戦士団を突破したグナトゥスは、市街へと向かって飛んでいく。

 駄目だそう思った時、その火を吐きながら飛んで離れていくグナトゥスが唐突に、墜落した。

「なんだ?どうした?」

 つづけて、その落ちたグナトゥスに一番近いグナトゥスが、同じように翼の破片をまき散らしながら堕ちる。

 何かが、グナトゥスを貫き胴体と翼を四散させ、ぼとぼとと、赤い降雨とともにグナトゥスの破片を降らせていた。


 カルムラントは、グナトゥスを屠った飛翔体の軌跡を目で追ったさきにいたのは、トップクラウンが三角に尖り先の折れ曲がったハット、黒い服装の如何にも魔女という風貌の少女が、箒に腰を掛けて浮いていた。

 少女が魔力を集め、魔法を発現するのが見えた。


「バガキ=スコルピオス【狙撃投擲氷槍】」


 透き通ったガラス棒のような氷、先端は、それを折ったかのような鋭利な形状。

 その氷の槍が高速で胴体と翼を突き抜け、その衝撃でグナトゥスを四散させていた。

 さらに、一匹、二匹、連続して、グナトゥスが空中で破裂する。

「飛んでいく必要もなかったですねー、氷槍狙撃で十分ですねー」

 レリアーナの杖が発光し、魔法陣が開く。すると再び、白く乱反射させて煌く槍が発射された。

 高速で射出されたそれは、グナトゥスを貫き、その衝撃で粉砕する。後には、白い軌跡を残す。


 一時、その光景に、目の前の敵を忘れ、息を飲んで見ていたカルムラントであったが、はっとして、思い出し、敵へと視線を戻した瞬間。

 カルムラントの目の前で、その対峙するグナトゥスの頭部が唐突に斬り落とされた。頭部を無くした胴体は、その場でぐらりと揺れると、正面へ向かって倒れたところで、ドラゴンとの戦線は終わった。

―――。



 瞬く間に、ドラゴンは殲滅された。

 レリアーナの魔法による一方的な殺戮、最後のグナトゥスの頭部を落としたのはボルヴァラスだ。


「助かったぜ、」


 レリアーナと合流したアウロラ達に、そう声をかけるのは、カルムラント。

「お嬢さん凄いな。魔女というやつか?」

「そうですねー、魔女ではありますがー」

「王や大臣らに報告する義務がある。暫く滞在して、待っててくれ、なにか欲しい物あったら言ってくれ」

 カルムラントは、ここの兵士で、隊の指揮官だ、あのドラゴン退治について報告しないといけないのだろう。ドラゴンに対抗できず劣勢だったのを、助けた。

 実際に助けたのはレリアーナであるが。

 そして、なにか欲しい物と言われてアウロラはすぐにその目的のものを話した。

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