第19話 ドヴェルグの地下都市

 姫を偲ぶ会。


 国王陛下「皆の者、よく集まって頂いた」

 宰相閣下「何度も申しますが、皆、姫を案じての事でございます」

 国王陛下「そうか…。それでだが、勇者が失敗した」

 騎士団長「私も聞いて、どうしたものかと」

 財務大臣「なんということじゃ」

 王妃殿下「あぁ、アウロラぁあ…」

 魔法士長「なんてことなの…?」

 国王陛下「黒い騎士が現われ、圧倒的強さだったという話だ」

 騎士団長「勇者に限ってそのようなことが…」

 国王陛下「圧倒的防御力と回復力、その配下の騎士もそのようであったと」

 騎士団長「なんらかの強化がかかっていたか?」

 医薬大臣「そういえば、アウロラ殿下の持つ加護もそのようなバフであったはず」

 土木環境大臣「まさか!アウロラ殿下は」

 財務大臣「なんということじゃ」

 宰相閣下「強制的に従わされている可能性が…」

 魔法士長「ああ、姫」

 土木環境大臣「だが、姫殿下の手紙にあった、食堂や魔女や魔人…」

 宰相閣下「殺さず生かして従える魔法はあるか?」

 魔法士長「あるにはありますが…。あとはアンデッド化…」

 国王陛下「なんと!そのような。むごい扱いをされているというのか!」

 王妃殿下「あぁそんな!貴方…うぁ、ぁ」

 財務大臣「なんということじゃああ」

 魔法士長「まだ総計ですわ、きっと生きているはずですの」


 会議室はその後、夜になっても、すすり泣く声は、止むことは無かった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 アルペスト山脈。

 ジードラス帝国と魔国領バールとの境界、東西に延びる山脈。

 その西部に広がるセーラン大森林。

 ドヴェルグの地下都市への入り口は、この大森林の中にある。

 森林の山道を登り、山の中腹を目指す。

 一行は、私と、ゴブリン族の王子ラクーツカ、ブラターリア辺境伯令嬢のフィレイア、ブラターリア家の従者のノイエ、見た目ロリ魔女のレリアーナ、魔人族のボルヴァラスの六人。


 橙黄色の輝きを放つ宝石の姫は言った『魔王城の一大事です』と。

 姫は、七大魔王の一人にして、神の光の加護を持つ七彩光が一人。世界に七人おり、七つの光であるから七彩光ななさいこうである。

 その姫であるアウロラの話を聞いたために皆、少し緊張している。レリアーナを除いては。


 山林の中、口を開けた洞窟、その奥に重厚な金属の巨大な扉があった。

「すごいです、すごいです。大きい扉です。早く早く行きましょう」

 今日は、アウロラは機嫌がいい。

「ここだ」

 答えたのは、案内役に指名したラクーツカだ。

「閣下。扉の前にいる門番と話をしてくる」


 そして、一行は、扉の両脇の門番と話をするために近づいていく。

 そこにいたのは、ドヴェルグ族だ。

 本物は初めて見る。

 身長は、私よりも低い。

 身長は、噂通りということだ。

「なんだ?なにしにきた?」

 ラクーツカが話しかけようとすると、向こうから声がかかった。

「入国だ」

「目的は?」


「観光です!あと、ショッピング!」

 ラクーツカが答える前に、アウロラは、声を挟んだ。

 アウロラの声が弾んでいる。

 エーデルライトの王城にいたときから、噂に聞いていたドヴェルグの地下都市だ。

 魔法技術に優れ、様々な魔法の道具を作り出す種族。地下に街を作りそこに暮らしているという話を聞いていた。

 それを聞いた時から、憧れを持つ。

 早く行きたくて行きたくて仕方がないのだ。

「なるほど?予定の滞在日数を教えてくれ」

「七日です!」

「分かった。で、中は、機密事項がたくさんある、技術大国だ。勝手に機械や道具を持ち出すことは許されない」

「分りました!」

 その後、幾つかの質問―――。

 そして、門を通る許可を得た。


「よし、全員にこれを渡す。いまここで嵌めるんだ」

 指輪?


「追跡装置ですねー」

「そうだ」

 レリアーナは、直ぐにそれを言い当てる。

「昔から、他との交流は制限していますー。それと、技術流出制限ですねー」

「そういうことだ、この国は、外から来る者を完全に信用しているわけではない。その上、今は、…それはいい。とにかく、今は特に、他所から来るものに、ピリピリしているんだ。問題を起こさなければ大丈夫だ。閉鎖的で悪いな」

「そうですか、分かりました」

 アウロラはそう素直に応じて、指に嵌めた。

「理解が早くて助かる。ここで、もし拒否して、ごねられても入れることは、出来ないからな」

 門番のドヴェルグは、全員の指輪の装着を確認すると、合図を送る。


 巨大な扉は横にゆっくりとスライドし、人が通れるくらいまで隙間を開けるとそこで止まった。


「じゃあ、早く、入りましょう!フィレイア、レリアーナ、ノイエも早く来て」

「閣下。慌てぬようお願いしたい」


 アウロラは、フィレイアとレリアーナの腕を掴むと引っ張り、フィレイアはさらにノイエの腕を引き、四人そろって開いた扉を通り抜けた。



 扉の向こうは、地下とは思えないほど広く、天井もかなり高い。

 その天井の表面は光を放ち、明るく照らしている。

 家々が立ち並び、多くのドヴェルグ族が生活しているのだということがわかる。

 幻想的と言える風景に、アウロラは感動して眺めた。


「すごい、すごいですよ」

「ええ、アウロラ。本当に素晴らしいですわね」

「地下にこんなものが!すごいですよ」

 フィレイアは、アウロラと同じくその風景に感動している。

 ブラターリアから近いとはいえ、ここへ来るのは初めてのことだろう。

 この場所の入り口は誰にも知られておらず、魔国領内にある上、そう簡単に来れるような場所ではない。


「魔王閣下、まずは宿泊先を探すぞ」

「じゃあ、そこの門番にいいところがないか聞いてみましょう」




 教えてもらった道を通り、たどり着いたのは、岩壁。

 そこに大きく開いた口があった。四角く囲われた穴、そこに透明な板が張られている。

 ガラスだ。他の国にも、これほど大きく透明なガラスを作り出す技術はない。そのガラスの向こう、岩を削り取り、美しく磨き上げられた柱、そして、正面奥に受付カウンターが見える。

 

 どうやらここが門番に紹介された宿泊施設だ。


「ここですね。チェックインしますよ」

 岩を刳り抜いて作られた建物、岩を綺麗に削りとり、装飾が施された空間。

 エントランスに入り、カウンターで受付をする。

「部屋は何人部屋を所望ですか?」


「んと、じゃあ、ボルヴァラスとラクーツカで二人。私とレリアーナ、フィレイアとノイエ、三部屋でいいですね」

「それでいいぞ」

「我は、構わない」

「いいですよー」

「わかりましたわ。えっ?」

「…はい」

 ボルヴァラス、ラクーツカ、レリアーナ、フィレイア、ノイエの順。


「決まりですね」

 あれ?フィレイアちゃん?まあいいや。

 まさか、男性陣と一緒がよかったなんて言わないですよね。


 部屋を案内するホテルマンの後ろを付いていくアウロラ達。

 一行のアウロラの一番後ろ。

「フィレイアちゃんー?ボーっとして聞いてませんでしたねー?妄想もいいですけどー、それはだめですよー?」

「ちがいます。ちがいます。一緒がよかったとか思ってません」

「だれもそんなことは、言ってませんがー。そうですかー若いですねー」

「うにゃああああああ、だから、ちがいますって、い、いや、私よりちっちゃいのに生意気ですわ」

「そうですねー、一緒とかの意味がわからないですー」

「い、意味はないですし、あまり、深く突っ込まないでください」



 後ろで何か、フィレイアとレリアーナが話している。

 二人が仲良くなって私も嬉しいですよ。

「部屋が決まったら、すぐにでますよ!」


 案内された部屋の扉をあけ、魔法の照明をつけると、その内装が顕わになる。そこは穴を掘って作ったとは思えないほど広く、さすがドヴェルグ族という精巧な作りの調度品などが置かれていた。

 誰がどのベッドにするかで、揉める。ことは無く素直に決まった。

 

 レリアーナと二人エントランスに降りて、皆と合流する。

「アウロラ、何を見に来たんですか?本当にただの観光ですか?何か目的があったんじゃないですか?」

 フィレイアがそんなことを聞いてくる。忘れていることが無いか聞いてるのでしょうか?

「そうですよ?観光です、…あ、重要なこと忘れるとこでした」

「重要なことあるなら忘れないでください。で、それはなんですか」

「ベッドです!」

「は?」

「ベッドを探しに来たんです、寝具店を探しに行きますよ!」

「…」

「フィレイアちゃん、なんですかその反応は」

 ジト目。

「何か、策略のようなものがあるのかとおもったのですが」

「ないですよ、そんなもの」

「魔王城の一大事っていってたじゃないですか!」

「そうですよ?私の寝室のベッドや他諸々の質があまりに悪すぎて、安眠できないんですよ!これを一大事と言わずしてなんといいますか!」

「そんなことの為に皆を巻き込んで…。ここに来るだけで、なにか事件が起こるわけでもないので、私も来てみたかったので、別にいいのですが」


 フィレイアの直感は、この魔王は、人を巻きこんで、いろいろとしでかすのではないかということを告げている。素直に寝具を見に行くだけと言えばいいものを、一大事であると言う。つまり、大袈裟。

 フィレイアが思うに、恐らく私以上に自分本位ではないのかと。

「…これが王女というものなのでしょうか…」小さな声。


「フィレイアちゃん、なにか言いました?」

「なんでもないですわよ」





 街にでた。

 商業区と呼ばれる区画。

「職人を探したいのですよ」

「アウロラ?」

 あてもなく街中をさ迷っている…。

「どこに行けばいいか、全く分からないですよ」

「家具店にいけばいいのではないでしょうか?」

「どこにあるのか、わからないですよ」

「……。アウロラ?もしかして、一人で何もできませんか?」

「そ、そんなことはない、ですわ!」

「はぁ、いままで、身の回りとかぜんぶ、侍女にやらせてたのではないですか?」

 王城にいたときは、朝から晩まで四六時中クレンタがつき、時間管理からどこかの行先から、何から何までクレンタがやってくれていた。

 自分で何かをすることはあんまりなかったと思う。

「うっ」

「わからないなんて。そんなことがある様な気がしたので、フロントで聞いておきましたわ」

「さすがです、フィレイアちゃん」

「この付近の商業区でさがして、北部に職人が多くいる工業区があるので、そちらにいきましょう。今日は、時間が無いので明日にしましょう」



 結果は、今日は収穫が無かった。

 ドヴェルグ族の都市である、住んでいるのはドヴェルグ。人間用の寝具が無かったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る