復讐と復讐

第18話 魔国領へ

 ブラターリアから、ゴブリン治領ブリューセに戻ってきた。

 市街への門、その入り口で、少しの手続き。

 まぁ顔パスなのであるが。


「アウロラ様。改めて、お世話になりますわ」

「…私も、よろしくお願いします」

 フィレイアである。どういうわけか私達についてきたのである。ノイエさんも一緒である。

 何故?

「本当についてきていいの?」

 私達についてきたのはいいとして、彼女らは、誰にも見つからないようにコソコソと領地をでたのである。

「はい。お母様から、許しを得たので大丈夫ですよ」

「…。私も、フィレイア様についていくようにと」

 大丈夫と言うフィレイアと、ついていくように言われたというノイエ。

 よく、許しましたね。貴方のお母様は…。

 それなら、なぜこそこそと。

「大丈夫なのですか?本当に!?」

「はい、それに、跡取り問題ならば、弟がいますし、一度、お母様が爵位を次いで、その後、弟が成人後、爵位を継ぐことになるとおもいますし」

「フィレイアさん…。まあ、本人も親御さんもいいと言うならばいいのですが…」

「はい、アウロラ様、よろしくお願いします」

 まぁ。そこまでいうのならば。

 うーん。それにしても、フィレイアに私をアウロラ様と呼ばせるのはなんかしっくりこないのですよ。


「えっと、その、フィレイアさん…敬称入らないです」

「そう言うわけには」

「…どうしても?」

「ですが。ならば、理由をお聞かせくだされば―」

 理由ですか?理由ね…。


「アウロラちゃんは、友達がほしーのですよー」


 横からレリアーナちゃんが恥ずかしいことを言ってくるではないか。

 反射的に抗議する。

「レリアーナちゃん、やめてください」

「ちがうのですかー?」


「…」


 そういわれて、言葉に詰まる私。

 そうです、そうですよ。私も同族の仲間が欲しいですよ。

 人間のお友達ほしいです。

 でも決して、友達がすくないわけじゃないですよ?


 レリアーナの言う事、それを聞いたフィレイアは少し考えて。

「…。でしたら、私に“さん”を付けて呼ぶのも辞めてください」

 そんなことを提案してくる。

 アウロラとしては、身分的にも確かに私の方が上であるが、しかしながら、年上で私よりも大人なフィレイアを友達みたくいうのはと思っていたのだが。

「フィレイアちゃん」

「はい、アウロラ」

 満面の笑み、やっぱり、フィレイアちゃん可愛いですし、綺麗です。うん、抱きしめたい。

 とてもかわいいフィレイアちゃんを眺めて眼福する私。

 すると、フィレイアは、斜め下を向いたかとおもうと、聞こえにくい小さい声で言うのをアウロラは聞いてしまった。


「魔王様に対して、敬称を付けないのは違和感?いえ、王女様に敬称を付けないのは、すこし気が引けますね」


「・・・・・・・・・」


「なんでバレてんですかーー!」

 バレている、なんで?


「アウロラさん。貴族なのに嘘が下手ですね。その上、鎌に簡単に引っ掛かりますね」


「なっ」

 さっきの小声も、私をひっかけるための鎌…。

 裏での駆け引きの絶えない貴族。その中で生きてきた貴族にとって、腹芸など造作もないはずだ。

 だが、アウロラは、簡単に引っ掛かってしまった。

「アウロラさん、行きますよ。続きは屋敷で話しましょう」

 愕然とするアウロラを置いて、皆は、先を歩き門をくぐっていった。


「…」


―――。



 アウロラの何かが、変わっている。

 何が、変えたのか。



 不幸だ。


 不幸?


 一度立ち止まって固まっていた私は、その場で、先を歩く皆を見てなにかを考えていた。


 魔族、魔族の領地。

 アウロラは、帰りたくても帰れない。危うい立場にある。

 運命のめぐりあわせが悪すぎる。


 帰ったとして、どうやって、説明する?

 もし、帰れば、貴光国エーデルライトの立場が危うくなるかもしれない。

 他国、特に仲の悪い国。必ず、攻撃の矢面に立つことになるだろう。

 貴族派閥は、攻撃の対象にするだろう。

 王位継承権を持つ公爵家は、必ず動く。

 だから、帰ることは出来ない、そもそも、祖国に受け入れられない可能性だってある。

 帰りたい気持ちは強いが、帰ることは出来ない現実があった。それは、どうにかしないといけない問題である。


 どうする。


 どうすればいい。


 そのことを考えると、逆に帰りたくないという気持ちが押し上げてきた。



 エーデルライト王国に友達は居ない。

 王国では、貴族達は、いつも駆け引き、騙し合い。自分だけが持ち上げられ、それでいて、周りは、腫物を扱うかのように接する。

 だから、友達は居なかった。

 気軽に接しようとすれば、派閥の間で、どちらが、親しくなるかで争いが起きる。誰かと仲良くすれば、相手の派閥からの妨害が入る。

 そんなことがあって、友達はいない。

 退屈で窮屈な王宮。

 飽き飽きした私は、変装して王宮を抜け出すことはあったが、直ぐにバレた。私はとても目立つ。それが原因だった。

 すぐバレるにも関わらず、王宮を抜け出ようとするため、誘拐を恐れた王族派によって、護衛という監視が常について回るようになった。

 さらには、危険なことは絶対に私には、させないし、触らせない。

 シンボル、象徴、権力、私の動き一つで国内の情勢が動いてしまうのだ。あまりに目立ち過ぎるゆえに。

 取り入ろうと、おべっかしか言わない貴族と、監視。

 結局、気軽に話ができたのは、クレンタだけだった。


 それまでの王宮での暮らしに飽き飽きしていたのからだろうか。

 困ったことに、今、とても楽しい。

 レリアーナや、ボルヴァラス、魔王城の食堂の熊さんや他の皆。今はフィレイア達も居る。そのことがとても嬉しい。


 心残りはクレンタだ。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ジードラス帝国。ルイス宮。


 煌びやかな宮殿、その内部。男はその一室に入る。

 市松模様に敷き詰められた二色の石のタイル。正方形の部屋の真ん中のテーブルに少女が退屈そうに座っている。

 男は、こちらを見て笑みを見せる彼女の美しさに思わず息を飲む。

 まだ幼さの残る顔立ち。白く透き通るような瑞々しい肌はその美貌を称えている。


「来たのですわね。そこに座ってくださる?チェスでもしませんこと。待っている間は、暇でしかたないのですわ」

「待っていたのは、私ですか?」

「それもそうですが、でも、今ものよ?」

「先は長いですよ?」

「そうですわね。なにしていますの?そこに突っ立てないで早く来てくださるかしら?」

 薄い桃色の髪の少女は、男を向かいに座らせると、チェスに向かわせる。そして、貴方からでいいわと白い駒を寄越し、先手を譲ると、ゲームを開始する。


 トン、トン、トントン、


 部屋の中に駒を打つ音が響く。



 桃色の髪の少女。

「それで、どうでしたの?」

 トン。

「バウレーリア・オレラセアの師団が要塞を制圧したようです」

「それは知っているわ、それで、あの娘は居たのかしら?」

「銀髪のメイドと交戦したいう報告があります。そのメイドのその様子から令嬢で間違いないとオレラセア卿は言っています」

 コツン。

「捕獲は出来なかったのですわね?」

「殺し損ねた上に逃げられたと言っていましたね」

 殺し損ねた。つまり、殺すつもりで、戦闘をしたということだ。

「…」

 コツン。

「誰が殺していいといったのかしら。命令違反ですわね。知っているでしょ?例の襲撃で、お姉様の死体は無かったそうですわ。令嬢は生きて見つかっているのにおかしいですの、何者かの手引きによって、生きてどこかへ逃げたのでしょう。ですから、令嬢から手がかりを聞く必要があるのですわ」

 令嬢から事情を聴取したいのだから、死んでいては困る。

「でも、生きているのならよしとしましょう、それで、令嬢はどうしてるの?」

 コツン。

「一度、領都へ戻ったようですが、再び行方不明になりました」

 戻ってきたというのに、領地から出る?不可解。

「”隠した”ということかしらね」

 コツン。

「行方については、どうやら、魔国領へ入ったと思われます」


 コツン。


 またも不可解。

「何故、そんなところへ?不思議な話ね」

「それと魔王が現れたそうですが、金髪の少女だったという噂が流れています」

「噂?直接、見てはいないのね?それで、その魔王が、聖光国を援護する結果をしたと。はぁ、せっかくお膳立てしてあげたというのに、邪魔が入ったわね」

「ええそうです」


 コツ、パタントン。

 黒い駒が取られ、そこに白い駒が置かれる。


「それは、酷い手ですわ。チェックメイトまでの道のりが、遠ざかってしまいましたわ。ほんとうに。部外者の乱入は控えて頂きたいものですわ」

「それでは、どうされますか?」

「探し物に、令嬢を加えましょう。引き続き、お姉様を探し出すことですわ、それとヘアンタス地方。…邪魔者には外野に戻っていただきたいのですが…」


 トン、パタントン。


「一度、戻って行ったなら、もう出て来ないよう祈りましょう」

「また出てくることがあるのだとすれば、そうね、ここより反対側で、問題でも起きないかしらね」

「そうですね。ですが、あの蝿の魔王は、数百年は自領から出てこないものだったはずですが、一体なぜ」

「おかしな話ですわ。あぁ、そうでしたわ、貴光国エーデルライトの王女が誘拐されたらしいですが、あの国の魔王はどうなっているのでしょうか…」


 トン、パタン。


「それじゃあ――



 


「お願いしますね」


 最後、少女の声とともに、ゲームは終わり、二人の会話は、終わった。

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