第17話 終結

 ブラターリア辺境伯領。領都シェルラ

 アウロラ達は、樹竜戦のあと、領都へと入った。

 イテングラータが居たお陰で、街への門を通り抜けることが出来た。そのあとは、イテングラータは、領主の婦人へ話を通してくれた為、一度、婦人にお目通りした後、紹介されたホテルに泊まことになった。


 領都シェルラにも聖光国の兵が集まっている。

 通りにも領兵とは違う装備と紋章を付けた兵が居るのを見かける。

 聖光国直轄の兵。

 セノーテ城は、帝国側に占拠されたが、その後現れた聖光国側の兵と睨み合った状態で牽制し合っているのだろう。

 取り合えず帝国の侵攻はここまで、膠着状態は、停戦交渉まではつづくだろうと思われる。


「兵士が、いっぱい居ますね」

「敵が侵入したんですー。仕方ないですねー」

 通りを歩くが、あちらこちらに兵士が居るのが見える。厳戒体制である。

「フィレイアちゃん達が心配ですかー?」

「まぁ、そうです。フィレイアさんが待っててと言ってたので、暫く滞在します」

「ラクーツカもー、屋敷に呼ばれて言ったんですよねー。何の用でしょーかー?」

「フィレイアさんの護衛に、ずっとつけさせたので、その関係じゃないですか?」

 フィレイア達が、領都へ来たのはアウロラ達が到着して縛られたってからのこと。

 大丈夫なのか心配であったが、無事であったことに安心した。

 フィレイアが、生きて領都まで帰ることができたのであるが、フィレイアの父親が戦死したことなど、心を痛めることに心配は残る。しかしながら、他国の私は、これ以上関わることは出来ない。

 その為、あとは帰るだけとなったが、フィレイアに少し待てと言われ、アウロラ達は、暫く滞在することになった。さらには、ラクーツカも屋敷へ呼ばれたようである。

 少し滞在することとなったが、その際、辺境伯婦人から、宿泊先を提供されたので、少し観光案内して帰ろうと思っていたアウロラにとっては、願ったり叶ったりではある。



「それで、イテングラータ様は、何故ついてきて居るのです?」

 アウロラがレリアーナと、ボルヴァラスの三人に加え、イテングラータが居る。

「案内役だと言ったろう?それにだ、貴殿らが、街中をうろうろしていては、目立つ上に、魔族だと分かれば大変なことになる。面倒が起きれば、そのことがバレる可能性が高い。ならば、そのとき、私が居た方が面倒は未然に防ぐことができるであろう」

「そんなこと言って、監視ですよね」

「いやいや、なにを仰る、ハハハ」

「それなら、他の兵士でもいいんじゃないですか?」

「そんなに私が邪魔か」

「うん」

「うん、とは。だが、魔王相手に下の者を付ける分けにもいくまいよ」

「なんでバレてるんですか!」

「認めたな」

「…oh」

「魔族を従え、最後にあれを見せてそれはないぞ。さらには、既に噂が広まっているからな」

 突如として現れた魔物。その魔物は、強力で、領軍や、帝国軍でも歯が立たぬほどに強力であったその魔物を、魔王バールがその力で圧倒したという噂である。

 戦闘と最後の金色の爆発は、領都からも見えることが出来、多くの市民が目撃していた。距離が離れていたので、領都からは、アウロラ達をはっきりと見えることはないので、あの場で戦闘に参加していた兵士を除いては、アウロラが爆発の原因であることは見えてはいないはずである。

「そ、それは。でも、私が魔王だとは、誰も思わないはずですよ」

「魔王が金髪少女という噂も出回っておるがな」

「なんてことですか!それに、待って、イテングラータが居たら余計に目立って、バレないですか!?」

 何ということでしょう。何かがマズイきがしますよ?


「大丈夫でしょう、噂は噂ですから。お?」

 イテングラータは、通りの向こう側の大通りに人々が集まっているのを見て一瞬立ち止まる。

 その人だかりの先に、騎士の一団があった。

 騎乗しているので、人々の頭上から飛び出して見える。

 紋章付きの白鎧の一団、一目で精鋭と分かるとても強いオーラを放っている。

 明らかに高価な装備品を身に纏った騎士。力のある上位貴族か、聖光庁の直轄か。

 国家の紋章の入った旗を掲げる先頭にいるのは、女性。整った顔と純白の髪、起伏の大きい身体は美しく非常に目立つ。透き通るような白は光を乱反射し、眩しくもある。

「あれは?」

 アウロラは、イテングラータにあの集団と騎士について聞く。

「今しがた到着したとのことだな。聖光国、騎士団。精鋭だ」

「なるほど。そのまんまですね」

「シニステ騎士団のルミアリス・リーネス・ルシーダという。聖光国で最強の一角を担っている騎士の一人だ。あの容姿だ、とても美しいと評判で、とても厚い支持がある」

 取り囲む民衆の熱気、あの様子では、なるほど、騎士団のシンボルになっているわけですか…。

 象徴となる彼女を送り、来たという事を印象づけ、騎士団によって市民を守られるという安心材料を与える。尚、今後もし帝国を退ければ、それだけ、派閥の支持も得られるというものだ。

 でもしかし、帝国側も、せっかくとった城をそう簡単に手放さないだろうし、辺境伯側の戦力は、ほぼ失われましたし、こちら側の少なくなった戦力から、精鋭をぶつけるなら、向こうもそれなりの精鋭をぶつけてくるでしょうし、このまま停戦協定で手打ちになる気がしますね。

 あとは、領主と聖光庁が決めることでしょうし、ここで私達が首を突っ込むと面倒くさいことになる。

 まあ、ここではの私の発言力なんて何もないでしょうし。


 そう、私は、一般人なのです!


 当初の目的から大きく離れてしまったが、ここですることは終わった。

 ラクーツカを待って、帰りましょう。





 二日後、領都シェルラを出立した。


 魔王が、ブラターリアに現れたという噂は、その後、聖光国内を駆け巡った。

 その噂は、さらには、国外にも流れるだろう。

 この段階では、多くの者はその魔王の正体について、まだ気づかない。

 普通に考えて、あり得ないことだからだ。

 誰も、そのような数奇なことが起こっているとは思わないだろう。


 まさか。


 囚われの姫が、魔王になっていた。なんて。

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