第28話 上皇華子
五年の月日が流れ、京吾と華子には、四歳になる慶一と二歳になる京華の二人の子供が誕生していた。
この五年間で彼女は総理として、
①米国との安全保障条約を見直し、沖縄の米軍を撤退させた。本土の米軍基地も佐世保と横須賀基地を残して、段階的に撤退する事が決まっている。
②米国、韓国、中国、ロシア、インド、アフリカ、EUなどの主要各国との友好関係を更に深めることで、世界秩序の安定に貢献した。
③核兵器禁止条約への参加など核廃絶への取り組みを進めた。
④国連を大国の横暴を許さないように改革して、世界の国々が納得する国連運営の道筋を作った。
等の実績を残していた。
そんな折、天皇良仁は、体調不良を理由に退位する意向を示したのである。政府もこれを了承し、皇太子真仁の即位が決定した。
ところが、即位の一月前になって、真仁が白血病を発症してしまったのだ。長い闘病生活が予想され、政府は、真仁の即位を断念するしかないという結論に達したが、後継者を誰にするかで悩まなければならなかった。
そこで浮上してきたのが、華子の皇室復帰の案である。華子は一度は拒否したが、再三の要請に承諾せざるを得なくなった。
かくして、華子は総理の座を西郷に委ねて、惜しまれながら政界を引退したのである。
その年の五月、華子は皇室へ復帰し、女性天皇として即位したのである。
彼女は天皇として、京吾と二人で世界の王室や国家元首と会い、世界平和への布石を打ち続けていった。
更に五年後、華子は、病気が完治した兄、真仁に皇位を譲り、上皇となった。
だが、華子たちは皇居を出て、京吾の実家で暮らしながら世界児童財団を立ち上げ、子供達の救済や教育の為に、京吾と二人して世界を飛び回った。
「全く君は不思議な人だね。一国の総理になったかと思えば、今度は天皇だ。そして次は世界中の子供の為に、こうして奔走している。小説のページをめくりながら、これからの展開にワクワクしている少年の気分だよ」
「面白い表現ね。でもこの仕事は生涯の仕事になると思うわ。それだけ、不幸な子供たちも多いし、教育を通して子供を立派な人間に育てることが、世界平和への直道であると思うからよ」
今回の旅は、アフリカのタンザニアでの学校への図書贈呈や、教科書、文房用具の贈呈などが予定されていた。
夏休みという事で、慶一と京華も向学の為にと連れて来ていた。
「慶一、京華、窓の外をごらんなさい。あれが、キリマンジャロよ」
華子が指さす方に、雪を冠した堂々たる大山が、雲を抱いてそびえ立っていた。
子供達が歓声をあげて、眼下に見入る。
子供達を見つめる華子の慈顔を見て、京吾は、二人の苦闘の人生に思いをはせながら、心の底から湧きいずる幸福感に満たされていた。
完
皇女華子、護衛官と偽装結婚して国を救います 安田 けいじ @yasudk2
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