第9話世界の綻びと連結(1)

その城は、緩やかだった。

緩やかと言うのは、この城での時の流れのことである。

野原にいた時から感じていた。

時の流れが、一切感じられない程の時空の歪みが起きているのだ。

しかし、平然と会話が出来るほどに日常的に感じる。

女神との会話が成立せずに、数分の静寂が訪れる。女神の側に立っていた侍女が開口一番に僕に言い放った。「優様?流石に女性に対して馬鹿呼ばわりは少々無礼かと思いますが?」と一言をヒソヒソとこぼす。しかし女神は侍女に対し「大丈夫、彼は記憶が「連結」していない様だから仕方ないわよ。そんな「宿業」を背負っているんだから」と。この会話で優は自分が何の為にここに来たのか思い出す。

自分の未来を掴む為に。それを思い出した優は、バカ女神(笑)とその侍女に話す。ここに来た経緯を。

今まで身の回りで起こった奇妙で、少し懐かしいとどこかで感じる出来事を話し終えた優は、バカ女神(笑)に訊ねる。

「僕自身が何者であったのか。彼女達と関わるといけないのか」と。

彼女は答えた。

「それを知るための私達であり、[貴方]との約束だから」と。

その会話から運命の歯車は噛み合い、糸を紡ぐように動き始める。

「さぁ、これから優の脳に今までの時間に宿業で囚われた貴方自身を映し出すわ」

バカ女神(笑)は、自分の仕事を始めるような動作を取りながら優に告げる。

「待って!その前に、お前の名前を聞かせろよ!?」

優は自分から情報を噛み砕く為に麗人の名を問う。

バカ女神(笑)は応える。再び彼に語る。彼がくれた彼女自身の名を。

「─あたしの名前は、コルレア。コルレア・アドルフ=リコリーエウレカ・ローゼン。この薔薇の城の主人にして、貴方を想い、咲き続ける。幻燈花の一輪よ」と。

バカ女神(笑)ことコルレアは名を語った瞬間僕の額に手を当てて何らかの術を唱えた。

「ーI'm the born of your fate.

The blood is empty, and the mind is a fake. Disperse disasters in many worlds. But you're not guilty. Get drunk in the middle of a logistics turn. You're born again. The world of fantasy is deeply mixed one road.

Infinite recurring!」

コルレアがそう唱え終えると、僕は渦状の何かに吸い込まれた様な感覚に襲われた。


その感覚に苛まれながら僕はある記憶を視る。

その記憶は、ある本として書き記されていた。

其れは今までの業が記された閻魔大王の見る書物の様に。正確かつ具体的に物語った。

頁をめくる度に自分が自分になっていく気がした。

しかしその記憶にも不鮮明なモノもあった。


「─優、ゴメンね。今の私を恨んでもいいから。ただ、また[私]に出会ってしまった時は。その私を許してあげて」

ある少女の声に沿って最初の僕の生は終わりを告げる。

その少女に見覚えは無かったが、少女が放つ雰囲気は感じた事のあるものだった。

その記憶を見終わった瞬間僕の体は宙を舞い、吸い込まる感覚に襲われた。

気がつくと、僕はコルレアのいる部屋で椅子に座っていた。

「どう?今までの《貴方》がどうなったか分かった?」

コルレアはそう優に問い掛ける。

「あ、あぁ。大体は理解出来ているつもりさ。

あの場所にあったあの記録が本当だとしたなら、今までの僕を止めていたのは宿業だけではなく」

優はコルレアの言葉に肯定の意を述べながら、何かの考察に入っている。

コルレアはそんな優を見つめていた。

その様子はさながら恋する乙女そのものだった。

優が考察していると、ある言葉を思い出す。

「《睡蓮》に会ったと伝えろ。そうすれば己が望む路が開けるだろう」

思い出した言葉を優はコルレアに話してみる事にした。

「あの子、精神的な接触をするなんて珍しい。そんなに照れていたのかしら。ふふっ。相変わらずの不器用ね」

「へ?あの子?誰の事?知ってるなら教えろよコルレア!!」

「ふふっ。全てを教えるとあの子が可哀想だから、1つだけ。たった1つだけれど大切な事を教えるわ。」

コルレアは、悪戯な笑顔を浮かべながらも核心を突く一言を溢す。

優の表情を見て、楽しんでいる。

久々なんだから少し苛めてもいいよね?優。

コルレアがそう考えながら一言溢す。

「その《睡蓮》と名乗った人物は、[私達と同じ幻燈花]の一輪よ。私から言えるのはこれまでね。他はあの二人から聞きなさい」

「ありがとう。けど、コルレア??前に僕にしたこと忘れてない?」

優はあの時の怒りを思い出し、コルレアに近づく。勿論、怒りを晴らす為に。

優は、両拳を固めコルレアに迫る。

鬼気迫る状況を察したコルレアは逃走を図るが、侍女に身柄を抑えられた。

「ちょっと!?茜音!離しなさい!」

「いいえ、離しませんコルレア様。今回の件に関しては貴方に非があります。甘んじて罰をお受けください。」

「ゆ、優!?お願い!ちょっと話を聞いて!確かにあの時は少し強引だったケド、私は悪くないと思うな!だからその両手をポケットにしまわない?」

コルレアのこの言葉に優は笑顔で答える。


        「─嫌だ」


「何でよ!嘘よこんな事!!」

コルレアは優に「頭グリグリの刑」を受けるのであった……。

そして優の腹の虫が収まった所で、コルレアは言う。

両手で頭をさすりながら。

「では、貴方の答えも決まったみたいだし、場所を戻しましょう。ここに来る時は私の事を思い出して。再契約はもう済んでいるから」

………何故、コルレアが苦悶に満ちた表情で頭を抱えているのかは語るまでもない。

「ここは《第0世界》。時間軸という概念さえも凌駕する世界。貴方だけでは二度と訪れられない世界」

「では。またね優。多分すぐ会えると思うけど、その時はちゃんと名前で呼んでね。時空を元に戻しましょう。さようなら、我が愛しい人。ただ1人の私の英雄」

コルレアが話終えると、優の意識は途切れていった。

目が覚めると、体があったのはあの祠だった。

優が現実に戻った直後。

「痛ったぁぁぁあい!痛い痛い痛い!なんでこんなことされてんのあたし!」

優がいなくなった後に、痛みに悶絶するコルレアであった。

しかしその表情は涙ながら笑顔であった。

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絡炎の花─世界を巡る因果論─ 与名城 優依 @NinoNino9298642

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