第8話世界の連結(3)
唯が自分で組み立てた機械に手を置き優に向かって、「優、この椅子に座りなさい。大丈夫、痛いのは一瞬で済むから☆」と唆かす。
それに対し、優は「いやいやいや!可笑しいって!何?!痛いのは一瞬って!絶対それ死ぬ奴だから!そう言う装置は、処刑か洗脳に使う系統の奴って決まってるから!!」と困惑しながらも拒絶の意思を見せる。
「大丈夫だよ優。アレに座っても死なない、と思うよ?多分」と香那。
「多分って!それ、死ぬ可能性があるって事じゃないか!?」
「別に死なないわよ?貴方はもう殆ど人では無いもの」と海石榴が僕に向かって言い放つ。
「…………へ?ちょっと待って、海石榴!僕が人間じゃないってどう言う事?!」海石榴の理解が追いつかない程のカミングアウトと謎の機械に対するリアクションで精一杯の優である。
周りに意識を向けている余裕など無い。
その隙を突いて唯が自分で組み立てた機械に優を座らせて、固定した。しかも優雅に鼻歌を歌いながら。
「優、甘いわね!そんなにゴネてる暇があったなんて知らなかったわ〜。もう座らせちゃったわ♪」
子供の様に無邪気な、そして悪戯な笑みを浮かべながら優を嘲笑う唯がいた。
「何すんのさ、母さん!早く外してよ!!僕まだ死にたく無いんですけど?!」
僕は必死に拒否するが椅子についている拘束具が四肢を固定して離さない。
「大丈夫って言ってるでしょ?!全く!男の子ならシャキッとしなさい!良い!?良く聞きなさい!これは貴方の事なんだから自分の全てで感じて来なさい」
優が拒否するも唯は強行突破に走る。全ては愛しい息子の為に。青春時代に夫と行動したあの時の様に。
「さぁ、行って来なさい。そしてその後にこれからの事を決めなさい。そして決して後悔はしない事。貴方の答えが導かれる様に。
Save you from anything.」
「いやいやいや!ヤバイって本当に辞めてって言うタイミングすら与えてくれないってどうゆう神経してんだこの母親は!!」
「じゃ、スイッチ押すわよ?ポチッとな!」
優の言葉を聞き流しながら装置のスイッチを入れ、優を並行世界への自由落下の時の衝撃と比べ物にならない程の電流を流し、意識をトリップさせた。
体感的に数十分後。僕は野原にポツンと立っていた。
意識がトリップした僕が目を覚まして感じた事は、何も変化が無いことだった。手足は付いていてるし、ちゃんと動く。(勿論、服を着ているのだが。)
そんな僕が目を覚まして最初に見た物は、美しい薔薇園がある豪邸だった。豪邸と言うよりも「城」と称した方がいい程の建物だった。
その建物の壁にもグリーンカーテンの様にビッシリと可憐な紅い薔薇が生えていた。
正しくローズカーテンと形容出来るだろう。
城の門は開いており、歓迎するかの様に薔薇の壁が豪邸への道を作るかの様に自動で裂けていく。僕はその歓迎を受け、城を目指し歩みを始めた。
城の玄関のドアを開き中に踏み入ると、上へ続く螺旋階段があった。
階段の1段目に、緑の薔薇が描かれたメッセージカードが置かれていた。優はそのメッセージカードを拾い、紙を広げる。
すると、メッセージカードにはこう書かれていた。
「良くおいでになりました、お客人。お客人は
このRozen bulg[ローゼンブルグ]へ足を運んだ時点でもうお客人なのです。この手紙を読んでいると言うことは、ここに来るのが初めてでは無いご様子。取り敢えず私共が待っている部屋までの道程を書き込んでおきますので、どうぞお越しください。 薔薇城の主より。」
メッセージカードに書かれていた事を踏まえて考えるに、今までの「僕」が通っていた場所らしい。カードに書かれている通りに螺旋階段を上って行くと、1つ、たった1つのドアに気配を感じる。そのドアはカードに記されていた場所のドアだった。僕は、覚悟を決めてドアを開ける。そこには凛々しいと言う言葉が似合う程の、美しい男装の麗人が椅子に腰を下ろしながら読書をしていた。隣にも侍女を添えて。
優からは、背中しか見えないが本を読んでいるのだろうと想像できる体勢をしていた。
まるで、優が来るのが分かっていて色々な準備が整い、時間が来るまでの暇潰しをしていたかの様に。
麗人が本から優に視線を切り替えると、椅子から立ち上がり右手を身体に当てながら会釈して一言。
「久々のお客人が、まさか本当に待ち望んでいた再会になろうとは。ようこそRozen bulgへ。………貴方はこの喋り方は苦手だったわね。言い直すわ。久しぶり優。さっきぶりの再会ね。私よ!私!はぁ、貴方は私の事を忘れたの?優?」と呆れたように声をこぼす。
僕は少し呆気に取られながらも「あ!あの時のバカ女!」と怒号を投げる。
そこには優を並行世界に落とした張本人であるあの女神が座っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます