第4話

「……」


 私は、やっぱりという思いと、この後の展開への不安に口を開くことがなかなかできなかった。

 自分から切り出したくせに、勇気のない私。


「……うん。ノート。大切な秘密のノートなの」

「そう、だよな。秘密のノートだよな」


 尊はそう言って、ゆっくりと視線を私の方に向けた。そして、決心したように私を見た。


「ごめん、青子。そのノート、俺が持ってる」

「……うん」


 私は尊を見つめ返して頷いた。


「そんな気がしてた。

髪を切ったときに尊が声をかけてくれたでしょ? あれも書いてあったもんね」

「……うん」


 尊はふぅと息を吐いた。


「あのノートが俺と青子の机の間あたりに落ちてたから、中身を見た。俺のか青子のか確認しようと思って」

「……うん。

驚いたでしょ? 尊のことばかりが書いてあって」

「うん、まあ」

 

 尊は複雑そうな顔をしてそう頷いた。


「気持ち悪かった?」


 私の言葉に、


「それはない!」


 と尊は即答してくれた。私はそれだけで泣きそうになった。


「尊は、何でノートの通りにしてくれたの?」

「嬉しかったんだ。青子が俺のことを好きって分かって。それで、青子が喜ぶならと思ったんだ」


 ノートには日記のようなものが書いてあった。尊と出会った日から、特別な日を書き記していた。それだけでなく、未来で、尊とこんなことがあればいいな、と思うことを書いていた。最近の尊はノートに書いてある通りに行動してくれていたのだ。


「でも、読みながら、本当は見てはいけないものなのにと思うと、申し訳なかった。ただ、それ以上に青子を幸せにしたかった。だからノートをなかなか返すことができなかった。このノートには青子を幸せにできる答えがたくさん書いてあったから」


 すっかり日が傾いた教室の中で、私と尊はそれぞれの想いで言葉を紡ぐことがなかなかできなくなった。でも、私はノートに頼るんじゃなくて、自分で言わなければいけない。


「尊。私、尊のことが小学生のときからずっと好きなの」


 尊は、


「うん。伝わってるよ」


 と言って、あのノートを私に返した。


「本当は、ノートを見た時点で俺から言うべきだった。

これからはこのノートからじゃなくて、直接青子から情報をもらおうと思う。青子を幸せにする情報。

青子、俺と付き合ってくれ」


 私は信じられない思いでノートを受け取り、半泣きで微笑んだ。


「本当に? 私でいいの?」


 尊は私の言葉に顔をくしゃくしゃにして笑った。


「馬鹿だな。俺が青子が好きなんだ」

「……嬉しい!」


            了

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秘密のノート(改稿版) 天音 花香 @hanaka-amane

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