第3話
違和感を感じ始めたのは、その三日後。
「園田、髪切った?」
と尊君が朝一番に声をかけてきた時からかもしれない。私はその日の前日、肩まであった髪をショートボブに切った。
「え? うん。そうなの。切ったんだ」
尊君が気付いてくれたことが嬉しくて、私は久しぶりに笑顔になった。
「いーじゃん。小学生の時もそのくらいだったよな?」
さらに嬉しくなる尊君の言葉。
「覚えててくれたの?」
「ああ、うん。凄く似合ってる! 短い方がいいよ」
尊君、髪は短い方が好きなんだ! 私はますます嬉しくなった。
「ほんと? ありがとう! 嬉しい!」
尊君はそう言った私に、ちょっと顔を赤く染めた。
凄く似合っている! という尊君の言葉がこの日私の脳内で繰り返し再生された。ノートのことは不安だけれど、その言葉を思い出すと私の不安は和らいだ。
「おはよう!」
「おはよう、園田」
尊君がこちらを伺うように見た。
「? どうかした?」
「あ、いや……。何でもない」
尊君は言いかけてやめた。
なんだろう。
私が不思議に思いながら尊君を見ていると、再び尊君はこちらを向いて、
「な、なあ、園田」
と、机の上で組んでいる手の指を順々に開いたり組んだりしながら切り出した。
「何?」
「あの、さ。園田は俺から青子って呼ばれるの嫌かな?」
私は、
「え?」
と驚く。心臓がうるさいのは、嬉しさからと、もう一つ、別の感情からだ。
「ぜ、全然嫌じゃないよ? むしろ嬉しい! っと、えっと、その、仲良くなれた気がして……」
尊君は私の反応に、微笑んで照れたように頬をかいた。その頬がほんのり赤く染まっている。たぶん、私はもっと赤くなっているはず。
「そっか。じゃあ、青子って呼ぶから、俺のことも尊って呼んで?」
「い、いいの?」
「俺が頼んでんだけど?」
「嬉しい!」
私は笑って言った。けれど、心の片隅で、もしかして……と思っていた。
中間試験が近づいてきたある日。
「青子、英語苦手だよな? 俺得意だから教えようか?」
これまで数々の偶然が起こってきたけど、これは決定打だった。
「えっと、私、尊に英語が苦手って言ったっけ?」
「え?」
尊の顔がしまった! と言っている。
「だ、だって英語の宿題、よく訊いてくるからさ」
「あ、そうかあ。尊、鋭いなあ!」
「ま、まあな」
その日の放課後。私たち二人以外誰もいない教室で英語を教わりながら、私は尊に話を切り出した。
「あの、ね。私、最近失くしちゃったものがあって……」
尊の肩が跳ねる。
「う、うん」
尊はそう相槌を打って、私から目をそらした。私はそんな尊の反応に、どこかほっとして、次に不安になった。
「青子」
尊はこちらを見ないまま、私に話しかける。
「うん?」
「その失くしたものって、ノート、じゃないか?」
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