削減
黒い■■■■■に似た光沢のあるパッチには、鳥の羽が生えた■■■■■が描かれている。
この■■■■■は一級品の証だ。薄くて柔らかく、肌馴染みが良いこのシリーズは、数あるパッチの中でも特に人気が高い。
二の腕に一枚張るだけで視界が晴れ渡るそれを、今日は内ももにも貼る。ダブルは品が無いと言う奴もいるが上品を気取るならそもそもパッチなんか貼るなという話だ。英雄傘下の第一区画から下層畜生入り乱れた第十三区画の路地裏まで、今や誰でも持っている愛用品。我らが■■■■■がぶっ壊れた日から流行りだしたコレは、未だに嗜好品と呼ばれているのが嘘のような「みんなの生活必需品」だった。
■■■■■が極楽なんて名乗っていたのはもう昔の話で、どこで作られたのかしこたまため込まれていた■■■■■で眉目秀麗な高官三十人と■■■■■が吹き飛んだのは五年も前のことになる。実行犯は日立と名乗る男で、彼は作戦の最中爆破の余波を食らい重度の火傷を負っていたが、奇跡的に命に別状はなく、なんと見事に新体制の■■■■■を動かせるほどの気概の持ち主だった。彼の顔には大きな火傷の跡が残ったが、それを差し引いても美しいかんばせは世の人々を魅了してやまない。みんなで幸せになろう、というのはかの英雄の口癖だ。その声もなかなか麗しかった。
まあ誰がどう聞いても実行犯は爆破のどさくさに紛れて死んだだろうし、火傷のある男は多分前体制でもかなりいいポジションにいた奴だろう。そうでもなければ内々の事情が盛りだくさんのこの国を動かせるはずがない。英雄と共に■■■■■を救った除染隊の面々が妙に政治に慣れているのも目につく。結局予定調和だ。理由は何だか知らないが、■■■■■はもういらなくなった。そういうことだろう。
そんなことよりも■■■■■に暮らすこっちとしては、■■■■■を食えるようになったことの方が重要だ。■■■■■、人間本来の食物である食事パックを推進するナチュラル志向派と、食事パックの製造にあたり■■■■■急に物を食うなと言い始めたガリガリの連中が日々舌戦を繰り広げているが、事実国民は■■■■■ことになっている。■■■■■でもなんでもござれ。ただし■■■■■の許す範囲で。
パッチが■■■■■ことからお察しだろうが、この■■■■■はかなり潤っている。パッチは生活必需品。そんな当たり前の常識だって、「みんな」に含まれない奴は持っていない。一枚張るだけで目覚める逸品。他にそんな薬効の物は無いし、一度使えば今までの自分がいかにぼんやりとしていたか思い知る代物だ。使っていない方がおかしいというのに、うなじから額に抜ける清涼感も、視野の周りに掛かった靄がどうやって晴れるのかも、どれだけ頭の回転が良くなるのかも、みんなが知っているのに知らない奴だっている。不思議な話だ。そいつらはいつも言う。■■■■■
勤め先だったエスタッホの製造工場に除染隊がなだれ込んでくる前、■■■■■を着た従業員たちの中でも特にボロを着た連中が言ったのがそんな言葉だった。何度注意してもボロばかり着て、■■■■■への通報も一度や二度では済まないそいつらが、どうして支給品を支給してもらえないほど冷遇されていたのか。しかもどうしてそれを声高に語れなかったのか。ちょっと考えたことはあるが、生憎これも全く知ったこっちゃない。それよりも大事なのは前体制の崩壊と一緒に勤め先も閉鎖される羽目になったことだ。
エスタッホなんて危険なものを作っていたバチが当たったんだ。あんな危険な物はやっぱりこの世にあっちゃならないものなんだ。そう思っていた従業員一同に、実はエスタッホなんて物体は存在しませんでしたと言われても理解ができなかった。
工場とは名ばかりで、Aセクションで作ったプラスチックの塊をBセクションでバラバラにしてCセクションで溶かしてまたAセクションに戻していただけだったなんて新事実も、何を説明されているのか全くもって意味不明だった。
【サンプルここまで】
※作品は検閲されている状態です。巻末に未検閲の完全版を収録しております
【文学フリマ東京11/22 本文サンプル】ディストピアアンソロジー『検閲済』 @kawawatari
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