新聞部に所属する紀野屋島はヨット部の取材中に毒殺事件に巻き込まれてしまう! 海上で起きた事件ゆえに犯行が可能だったのは被害者と同時刻に海にいたヨット部の部員のみ。高校生活最後の大会を目前というタイミングでなぜ犯人は殺人を犯したのか? 刑事たちから第一容疑者と見なされた紀野は幼なじみである藤塚荘司の助けを借りて事件の解決に乗り出すが……。
海の上という事件の舞台こそ珍しいが、その推理の過程はとても論理的。事件の起きた時間や証拠に残された指紋、部員たちの証言など、一つ一つの手掛かりを丁寧に追い、網を絞るようにして犯人の条件に合う人間を探っていく。
そうして手がかりを全て開示してからの読者への挑戦状が出て来るのでつい嬉しくなってしまうのだが、本作はそれだけでは終わらない。最後の最後で一度解いたはずの謎が思わぬ形でひっくり返る。是非実際に推理しながら読んでいただきたい一作だ。
(「部活、どうでしょう?」4選/文=柿崎 憲)
こちらの作品は『海上の密室』『身近な毒物』などの要素を含んだ推理物の作品となっています。
特徴的な内容として、視点人物を中心に物語が進むものの、人物の感情などが控えめに描かれていて、どこか俯瞰的な視点で読み進める様な文章で、
一度物語の進行を止め、あえて作者さんの存在感を表に出し、『作者と読者の知恵比べ』を作品の中の一興として書いている点があります。
その際、推理系が初めての人も楽しめるように、白黒がはっきりとついている人物や、推理のヒントをあらかじめ提示し、『物語を楽しみたい人』に『推理を楽しんでもらう』という誘導がある点は、
『この作品を楽しく読んでほしい』という作者さんの工夫が感じられ、とても良い印象を受けました。
物語は会話を主体に進み、描写も丁寧ながら無駄がなく、とても読みやすかったです。
私はあまり推理物は読まないのですが、「あ~!!」となるトリックもあり、この作品全体を2周ほどして楽しませていただきました。
トリックのためのミスリードが行われるなど、技法的な面白さもあり、★3評価では物足りないクオリティとなっています......!