第39話 かんぱーい

 冒険者ギルドでの悶着があってからもう三日もたつ。ヨッシーとスイを冒険者ギルドに登録しに行ったら、騒ぎになってな。

 ヨッシーもスイも珍しい種族だったらしく、ハゲまで出てきて見学していた。

 スイはミリアムとミューズに可愛がられてご機嫌な様子で、ヨッシーはまあ、うん、そうね。

 筋骨隆々のカンガルーは、相当不気味だったらしくミリアムなんか目も合わせようとしなかったんだぜ。

 俺も少しはどうだかなーと思うところはあるけど、さすがにその態度はないんじゃないかなんて思ったりした。

 幸い、本人は気にした様子もなく、「パネエッス」と元気よく屈伸していたけど……。

 そんなことをするもんだから、ますます……以下自主規制。

 

「ノエル。そろそろ木づちを打ちおろしてくれないだろうか?」

「あ、ごめんごめん」


 木の杭を両手で支えるエルナンが苦笑する。

 よおっし。木づちを振り上げ、木の杭に向けて振り下ろす。

 ドスン。

 鈍い音がして、木の杭が地面にめり込む。

 俺は今、エルナンに手伝ってもらいながら自宅庭に牧場を作ろうとしていた。

 大工に頼んでもいいんだけど、最初くらい自作してみようかなあなんて。

 ちょうど、次の冒険に出るまで時間もあることだしさ。

 

 せっかくだから、新居に引っ越した記念として古くからの友人を呼んだんだ。

 待っている間に手持ち無沙汰だったエルナンの首根っこを掴み、彼に手伝ってもらい今に至る。

 

「僕はエン、ヨッシー、スイの鑑定をしたいのだけど」

「後でたんまりとやってくれていいからさ。ほら、もう一本行ってみよう」

「全く……」


 やれやれと呆れた様子のエルナンだったが、ちゃんと次の木の杭を構えてくれた。

 再び木づちを振り上げたところで、ドスドスと慌ただく地面を蹴る音がして筋骨隆々のカンガルーがやってくる。

 

『力仕事でしたら自分にやらせてくださいっす!』

「ギンロウと競争していたんじゃなかったのか」

『兄貴はエンと水浴びに向かったっす!』

「へえ。俺も一緒に遊びたいな」

『行くっすか!』

「いや、食事の後にしようかな」


 ヨッシーは積み上げた木の杭を一本足で蹴飛ばす。

 くるくると宙に舞った木の杭は見事地面に突き刺さる。

 場所も正確で、なんだかなあという気持ちになってしまった。いや、バッチリなんだけど、こう柵作りってのはもう少しこう、まあいいや。


「ヨッシー。向こうの目印までおんなじ間隔で杭を打ってくれ。その後、木の板で柵を完成させる」

『うっす!』


 そんじゃあまあ、ここはヨッシーに任せるとするか。

 

「あ、エルナン。ついでだし、ヨッシーの鑑定をここでやっていく?」

「そうさせてもらうよ」


 エルナンは片眼鏡をくいっと上げていい笑顔を見せる。

 手が空いたことだし、俺は料理を作ってくれている看板娘と受付嬢の様子を確認しに行こうかな。

 彼女らの手が足り無さそうだったら、手伝うとしよう。

 

 家に向かっているとまたもや見知った顔が二人……うち一人は興奮した様子で駆けてくる。もう一人は右手をあげゆったりと歩いてこちらに向かって来ていた。

 駆け寄る少女は、くるくると巻いた藍色の髪を振り乱し、必死の形相だ。

 何か緊急事態でも発生したのか?

 

「ラズ。どうした?」

「どうしたじゃないわさ! ミリアムから聞いたよ。アクアオーラを手に入れたんだって!」

「ん? アクアオーラ? 確かギンロウの青に似た石だっけ」

「早く見せろだわさ!」

「いや、だから、何の事だか」

「大胆にもミリアムにプレゼントしたってネタは割れているわさ。ミリアムが持っているものが全てじゃないはず」

「亀の甲羅か。でもギンロウの青な色はしていないぞあれ」

「磨いて魔力を通せば色が変わるわさああ! はやくー」

「分かった分かったから、引っ張るな」


 ちょうど家に戻ろうとしていたところだったし、急かすラズライトにお尻を押されつつ自宅に向かう。

 

 ◇◇◇

 

「お待たせ、みんな!」

「わおん」

『フルーツ』


 みんな言ったが、対象は愛する相棒たちに向けてだ。

 他にもラズライトやロンゴ、エルナンにお料理が完成して運んでくれている女子二人もいる。


「どいてどいてー」

「そこに置くわよー」


 ミリアムとカタリナが大きな銀色の皿を右と左から挟むようにして持ち、野外用テーブルの上にどーんと置く。

 彼女らの後ろからぴょこぴょことスライムがついてきていた。

 銀色の皿にのっているのはアマランタ名産のパエリアだー。アマランタの街は港街らしく、魚介類を使った料理が豊富にある。

 中でもこのパエリアがパーティメニューとして定番なのだ。

 他にも骨付き肉を豪快に焼いたものや、魚介のスープなんてものも用意している。もちろん、フルーツもね。

 

「ラズ、乾杯するぞ」

「もう少し……」

「後からでもできるから。ほら」

「分かったわさ」


 亀の甲羅を磨くラズライトにドリンクを押し付ける。

 彼女はドワーフらしくお酒を好むのだけど、人間の俺から見るとせいぜい中学生ってところに見えるからマンダリンジュースにしておいた。

 後でビールとか言いそうだが、今は亀の甲羅に夢中なので上の空なことだろう。

 

「みんな、ドリンクは持った?」

「うん!」


 代表してカタリナが応じる。

 

「じゃあ、カンパーイ!」


 コップを打ち付け合い、お食事会が始まる。

 

「おいしい! さすがカタリナとミリアムだな!」

「今日は辛いのはお預けよ。エルナンが苦手だからね」

「はは。辛いのはまた店に行って食べるさ」


 俺は好きだけど、真っ赤っかな料理。辛さマシマシで注文するくらいだからね。

 乾杯が終わってすぐにまた亀の甲羅を磨いていたラズライトがようやく顔をあげる。

 

「できたわさ!」

「お、見た所綺麗にはなっているけど」


 亀の甲羅は汚れが全て取り払われ、ツルツルになって光沢を放っている。

 だけど、色はギンロウの青とは程遠い。べっ甲の色に近いかなあ。

 

「仕上げを」


 ラズライトの手が淡い光を放つ。

 すると、亀の甲羅の色が鮮やかなスカイブルーに変わった。

 透明感もまし、向こう側が透けて見えるほどだ。

 

「こいつは綺麗だな。ギンロウの爪にしたら、ふふふ」


 アクアオーラ製の爪を纏ったギンロウの姿を想像し、頬が緩む。


「わおん」

「ギンロウも楽しみにしてるのか。よおっし、アクアオーラの爪、作ろうか!」

『それより先にフルーツだロ』

「ロッソは今食べているじゃないか」


 はははと声をあげて笑い、ギンロウの首元をわしゃわしゃ撫でる。

 あ、ミリアムにスライムをって話があったな。明日はザ・ワンまで出かけることにしようか。

 ヨッシーに乗……らずにノンビリと歩いていくかなあ。

 そんなことを考えながら肉にかじりつく。


 おしまい


※ここまでお読みいただきありがとうございました!

本作が完結いたしましたので、新作をはじめました。是非、見てみてくださいー。

次回作でもお会いできましたら嬉しいです!


目が覚めたら誰もいねええ!?残された第四王子の俺は処刑エンドをひっくり返し、内政無双で成り上がる。戻って来てももう遅いよ?

https://kakuyomu.jp/works/1177354055235256058


反乱軍に占領された国を取り戻し、知力とブラフ、人脈を使って大逆転するおはなしです。是非一度みてみてください!

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そのテイマー、無自覚に最強につき~治療目的で作った爪で保護した狼が超絶成長しフェンリルに~ うみ @Umi12345

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