車を買う男
「次で9台目の車になるなぁ」
男が言う。女連れで街中を歩きながら話している。
「どうしてそんなコロコロ乗り換えるの?」
「乗りたい車が多すぎるからね。新車で買って長く乗るのは性に合わなくて」
女は車を選んだり目的もなく中古車を見ている間が一番楽しいとか手に入れると見てるだけではわからない欠点が見えてくるとかやっぱりクーペは高いとか言う男の話を聞き流している。
「じゃあ気に入らない所があったり、他に良い車が見つかったらすぐ乗り換えちゃうわけ?」
「うん、まぁその時のお金の事情によるけどね」
女はその無責任さに少し苛立っていた。それは車に関する事だけに言える事なのかわからないからだ。
「もし好きな車買っても良いって事になったら何買うの?」
女は多少の不快感を覚えながらも話に付き合う事にした。
「とりあえずフェラーリ!」
と言いつつもポルシェやランボルギーニなど現実感のない車種を次々と挙げてはエンジンはV8が最高だのツインターボも良いだの挙句の果てには維持費を考えると云々、と言い始める男。
「要するにステータスがほしいわけね」
「ステータスって一言に言ってしまうとそれは違うんだよね。実際の所フェラーリでも足りない所はあるし、それだけ乗ってたら良いのか?と言われたら不足はあるわけで」
「無い物ねだりなんじゃないの?」
男は少ししかめ面をしたかと思うとパッと笑顔になってさっきの倍ぐらいのスピードで話始めた。
「その通り!でもちょっと違う。一台で全部を補おうとすると足りなくなる。だから足りない分は新しく買えば良い!そういう車の持ち方があっても良いと思うな」
「一台の車に愛着持って乗り続けてる方がずっと良いよ。そんな考え方してたら何乗っても満足出来ないと思うけど」
「わからない人にはわからない世界なのかな」
女は歩みを一瞬止めた。男は理解してもらえない事を気にも止めずに歩き続けている。
戯言集 けんち @kenchiiiiii
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